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10.管理人に、就任します!(研修 三日目その3)

これで研修終了です。

次回からは新章になります。

前回のミス(誤セレス→正セラス)を修正しました。

 異世界ドーム脇の通路で結界札を貼る練習をしていただけなのに、すっごく嫌な予感がする。


「見て!ドームの上が…!」


 ベルラス女神の声ではっと我に返った私が見たのは、ドームの天井付近から今いる空間へと漏れ出てくる、大量の白い湯気だった。

 どれくらい大量かと言うと、そりゃもうしゅわしゅわとはっきり音が聞こえるくらいの、湯気と言うより炭酸とか蒸気に近い白いもわもわが、天井付近を霞ませるくらいに……これアカンやろ。


「あれって絶対、穴が開いたんだわね~」


 のんびりしているのか冷静なのかイマイチわかりにくいセラス女神に同意を求められたが、そんなん知らんがな。


 もーこちとらいっぱいいっぱいですがな。


「悠長なことを言っとる場合か!塞ぎに行かねば!」


 珍しく血相を変えた神様が先行し、結界札がぎっしり詰まったダン箱を抱えたベルラス女神がそれに続く。

 咄嗟のことで右往左往していると、セラス女神からホラ貴女も飛べるから飛んで飛んで、と言われて『ジャンプ!』『フライ!』と立て続けに叫んで無駄なロング飛行をした挙句、どうにか三神の近くに降りることが出来た。


「う~んしょっ、とっ、セラスもうちょっとそっち引っ張って!」

「ちょっ、まってお姉様、これそんなに伸びないって!あっ!」


 ブチィッと音を立てて裂ける結界札、直径50㎝以上はある穴を挟んで尻餅を搗く女神たちというカオスな状況に立ち尽くす私。


 その時、ものっすごく遠くから、『今のはえんたいとるつーべーすだろうが!』『なにおう場外ほーむらんに決まっとる!』と言い争う声が風に乗って聞こえてきた。


 またもやブチッと音が聞こえたが、それは結界札の裂けた音ではなく、神様の青筋が…うわお。


「またあの神々(あいつら)かっ!まったく何度も何度も何度も何度もっ!!」


 そう仰るなりフッと消えてしまわれたが、きっとドーム内(なか)に話をつけに行かれたのだろう。

 ……大体読めてきたので、神様にはぜひ中の方々を一発どついてきて欲しい。いや違う。私は何も考えていない。いなかった。そうここは心を無にするのだ…色即是空…いや違う、えーとなんてったっけ?…そう、無念無想。


「うくくくっ!ちょっ、アナタ面白すぎっ!」


なぜかセラス女神に大いにウケた。


「脱力するじゃないかっ!もう中の事は放っといて、これを何とかすることを考えて!」


 …姉神は真面目な性格をしておられる…だよね~、今はこっちの反応が正しいよね~!


「はっ、はいっ!」


 …とはいえ、目の前の大穴をどう塞ぐかと言えば、それは結界札を用いるしかないわけで。


「これだけ大きいと、札を貼り合わせて穴を塞ぐしかないか?」

「それにしたって札の重さでばらけてしまうんじゃない?この札自体がぺろんぺろんしてるし~」


 うう~ん、と穴を囲んで中を覗き込む女神たちと私。

 遠くから神様の声が聞こえる。


『アンタら大事な新人研修の最中に、何天井に大穴開けてくれやがったんですか!大体こないだのゴルフで懲りたはずでしょうが!』


 ちょっ、神様?こないだっていつのことですかぁぁ!?


「何か、札を張り付ける土台みたいなものがあればいいんだけど」 


 神様の声を華麗にスルーしたベルラス女神が神力で薄く膜を張るが、噴出する神力の方が強いのかすぐに溶けて消えてしまう。神力で土台になる『物質』を作ることはできないのかな?

 まさかね。でもここで私の魔力がちょっとは使えるとしたらどうなんだろう?


「あっ、もしかして」


 一枚の結界札を手に取り、強くイメージする。


「む~ん、穴より一回り大きいサイズに…『拡大!』」


 ぺろんぺろんの結界札が、複雑な紋様はそのままにぐーんと広がった。ただしめっちゃ薄くなってる。


「「おお!」」


 薄くはなったが、穴を塞ぐのには問題ないだろう。そろ~っと端をつまんでぺたりと穴を覆った。


「これを土台にしてびっしり札を貼りましょう!」

「いいわね~、それ」

「うん、それでいこう」


 直接手で引き伸ばすのではなく魔法で拡大すればなんとかなるのではと思ったのだが、結果的にうまくいって良かった。

 姉妹神と私とで結界札を惜しまずに貼りつくすと、やがて結界札はドームと一体化して硬い外殻に変わった。


「なんとかなったわね~。やるじゃない、貴女」

「いえ、たまたま思いついただけで。うまくいって良かったです」

「いやそこは誇って良い。上出来だ」


 女神とエールの交換をしていると、中で話がついたのか、神様が戻ってこられた。


「どうやらうまく塞げたようだね」

「あら、お帰りなさいませ~」

「シルヴァイラの『拡大』魔法が役に立ちました」

「そうか。うむ、(なか)から補強もしておいたし、これで大丈夫だろう。君もいきなり大変だったね」

「あ、いえ、かえって皆様がいらっしゃる時で良かったです。私一人の時にいきなりだと慌ててうまくいかなかっただろうし、女神様がご一緒だったから落ち着いて対処出来たようなものです」


 本当に、結果オーライって言葉がぴったりだ。魔法で飛べるのもわかったし、結界札を拡大できるのもわかった。

 つまりこの空間でも私は魔法が使えるわけで、今後またこんな事が起きても何とか対処できるだろう。


「ほんと、順応するのが早いわね~。あとは結界札が作れるようになったら、私たちは助かるけどね~」


 なんと、結界札を自作ですとなっ!?


「それはまだ無理だろう。結界札の材料も術式も、ここにあるものではないのだから。シルヴァイラよ、札の残りが少なくなったら早めに知らせるがよい。先程のように、一度に一箱使い切る場合もあるからな」


 そう仰るベルラス女神様の足元には、散乱した紙袋と紙箱と、空になったダン箱が転がっていた。


「あら~、結局一箱使っちゃってたのね~」


 面白そうにセラス女神が笑う。


「あ、そういえば神様、あの突き抜けたボールはどこへ飛んでったんでしょう?」


 この空間の天井は暗くて見えない。

 例のグラサンのせいじゃなくて、ベルラス女神が明るくしてくださったのは私たちのいるドーム周辺の一部分だけで、思いっきり上の方とか歩いてた通路の横の方とかは暗いままなのだ。


「あのボールはこの通路の空間を通り抜けて、今頃は『虚空』を漂っているだろう。落ちることもないしいずれ消滅するのでそのままでよい。ああ、通り抜けた穴も自然に塞がるので心配しないでいい」


 つまり『神力』を遮るドームは結界札を貼って塞がなくてはならないが、二重結界の外側は自動的に塞がるので放っといていい、と。


「さて、見た所他に穴も無いようだし、ドームを一周してから回廊を作るとするか」


 ******


 昼を少し回った頃だろうか、ドームからの回廊を繋いで、私たちは帰ってきた。


 次回からの見回りは私一人なので、例のロッカーとダン箱は私の希望で書斎の向こう側に設置してもらった。万が一今日みたいに漏れ出た神力が充満していた場合、コートとグラサンがあちらにあると防護が間に合わないからね。

 繋げた回廊の端っこから着て行かないと、それこそあっちゅー間に魔王コースだ。


 ともかく回廊の終点である書斎の扉を網戸と二重にして、家の周辺全体に結界を張り、やっと研修が終わった。



「この肉まんっていうの?美味しいわね~」


 もぎゅもぎゅとシンシア手作りの肉まん(中華味じゃないけど)をほおばってご機嫌なのはセラス女神だ。


「はふっ、ちょっと熱いのがアレだが、熱々が美味しいのなら、いたしかたない」


 ベルラス女神、猫舌だったのか。そういや前世の私もそうだったな~。

 

「……なぜに肉まんなのか…いや、美味いのだが」


 そんなもん決まってますがな、神様。


「どうしてでございましょう?肉饅頭以外、考えられなかったのでございます」


 不思議そうな顔してるけどシンシア、貴女絶対狙ってたわよね?


「うん、美味しいわ~。も一個頂戴!」


 オチまでつけられるゴーレムって…どんだけスペック高いのか。そして誰がプログラムしたのか…は、もー訊かないほーがいいんだろうな~、そんな気がする。

 シンシアと一緒なら、この先二人でも退屈せずに暮らしていけるね、絶対に!へへ。


 もぐもぐごっくんと久しぶりの肉まんを堪能していると、んん、と神様が咳払いをなさった。


「さて、若干ハプニングはあったが、これで研修は一通り済んだことになる。シルヴァイラ、どうだね…やっていけそうかな?」


 神様が、確かめるように、そして若干心配そうに私をご覧になる。二柱の女神も居住まいを正された。


「はい。大丈夫です。なんとかやっていけると、そう思います」


 自分でも驚いたが、すんなりとそう言えた。そして、そう言えた自分が嬉しい。

 神様はにっこりと微笑まれ、頷かれた。


「よろしい。それでは正式に契約をしよう。この契約書に署名(サイン)を」

「はい」


 和紙でも羊皮紙でもない紙でできた契約書二通に署名をすると、神様から促されたベルラス女神が契約書に手をかざした。


「我、セラベルスが主神、ベルラス。ここにシルヴァイラと契約する」


 女神の掌から眩しい光が射し、ベルラス女神の名を記した。


「我、セラベルスが主神、セラス。ここにシルヴァイラと契約する」


 セラス女神の名も記された。

 

「うむ。うむ、いいだろう」


 三者の名の記された契約書に、最後に神様が手をかざす。


『ミルトヴァイゼ』


 神様、ミルトヴァイゼってお名前だったのですね!


「あ、名乗ってなかったかな?」

「はい、初めて知りました!」


 神様…ミルトヴァイゼ神は、ああすっかり名乗ったつもりだったよ、と声を上げてお笑いになられた。

お読みいただきまして、ありがとうございます。

ブックマークもありがとうございます。

相変わらずの亀更新で済みません。

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