表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/42

第一章 1.なな、なんですと?

書き溜めもないのに、いきなり連載を始めてしまいました。

きっと亀更新ですが、生温かい目でご覧いただければ幸いです。


 ここは異世界。

 ある国の、ある領主の領地の端っこの、小さな村からずーっと離れた深い森の中。

 ドラゴンこそはいないものの、けっこう凶暴な魔物とか魔獣とかがわんさかいるのは間違いないんだけれど。そんな危険な森の中で一軒家を構えて、ゆるーい隠遁生活を楽しんでいるのが私。

 それというのも…


 ******


 「う、げほっげほっ…!はぁ、はぁ…」


 まずいなあ、そろそろかなあ。


 止まらない咳と下がらない熱にどんどん体力を削られて、この調子だとほぼ間違いなくあの世が近づいてるなあ…と入院先でそれなりに覚悟を決めた夜、ようやく訪れた浅い眠りの中で、私は不思議な夢を見た。


 『ええっと、どうもです~』                                  「は、はあ、どうも今晩は…?」


 若いような壮年のような男の声がしたのできょろきょろと辺りを見回したが、そこは誰もいない部屋で、私は一人パイプ椅子に座っていた。


 (何故にパイプ椅子?それに…声はすれども姿は見えず、ホンにあなたは)


 『あ、そこで止めてね。一応私、神だから。ちょっとその先失礼だからね』

 「あ、ど、どうも済みません」


 (神様…って、えっ?私、死んだ?)


 ひとかけらの現実感もないけれど、神様に喧嘩を売るような真似は怖くて出来ない小市民だし。


 『さすが昭和生まれの関西人。DNAに染みついてるのかね~?死にかけてるってのにギャグかます余裕があるとはね~』

 「は、あの、ゆゆ夢かと思いまして!大変失礼致しました!まさか自分がもう死んだとは思いもよらず」

 『ああ、まあそう固くならずに。あなたまだ死んでないから。死ぬちょっと手前だから。』

 「は?」

 『ま、もうすぐ死ぬのは間違いないんだけど、その前に意思確認しとこうと思ってね。…どう?あなた転生して異世界に行ってみない?』

 「ふぇっ?い、異世界ってあの、魔法があって精霊がいて、なんかのギルドに登録して魔獣を狩ったら魔 石が出てくるとゆーあの異世界ですか?」

 『…まあ大体合ってる。』

 「まさか魔王がいて私勇者召喚とかっ!だったら結構ですっ!そんな面倒臭いとこ絶対嫌…あっ」


 (ヤバイヤバイ今絶対機嫌損ねた…でも行った途端に死亡確定案件やがな~!)


 『あ~いや、魔王はいないし勇者は間に合ってるので。どちらかというとアルバイト的な?異世界で第二の人生をゆっくり過ごしてもらって、時々簡単なお仕事をしてもらえたら、と思ってね』

 「か、簡単なお仕事と仰いますと、具体的にはどのような…?」 

 『まあ、ニュアンス的に近いのは…保養所の管理人、かな?』 

 「…保養所、ですか。それはどこかの企業の…?なわけないですよね。異世界ですもんね。」

 『そうだね、商人はいるけど会社組織みたいなのはまだないねえ。』

 「じゃ、あの、どなたかのための保養所…という感じでしょうか?王侯貴族とか」 

 『う~ん。まあぶっちゃけ我々の、と言うか』

 「ふぁっ?」

 『あー、つまりね』


 神様、と言われる存在の方々がお仕事をするにあたって、それこそ星の数ほどある『異世界』に時々降臨される必要があるのだが、現在のお住まいから仕事先まで極端に遠い場合、移動には結構な時間と手間がかかるそうな。


 『まあ神託だけならその世界の神殿とか窓口があるからいいんだけど。惑星改造や創世とかになるとね』

 「は、はぁ…それはもう大変なお仕事であらせられますから…」

 『あっはは。まあそんなわけで、移動の際に便利な場所に『転移点』をいくつか設けてるんだけど、疲れて帰ってきたらゆっくり休みたいわけよ、我々としても。わかるでしょ?』

 「はあ、はい。」

 『それでまあ、異世界の目立たない場所に異空間を創ってね、リゾートとか温泉とか…色々あるんだけ  ど。時々迷子が入ってくるんだよねえ』

 「迷子、ですか」

 『ちゃあんと結界張ってるんだけどねえ。どうしても『大きな存在』が出入りするとその影響で、綻びたり緩んだりする箇所が出てくる。するとその隙間から間違って入ってくる者がある。人とか獣とか…魔獣とか』

 「まっ魔獣っ!?」

 『我々が居る時なら適当に対処できるけど、居ない時に出入りされるとちょっと不味い事になるんだよ  ね』

 「不味い事、と仰いますと…?」

 『我々の力の残滓に触れて、変な方向に進化する。人が魔王になったり魔獣が宇宙怪獣規模になったり』

 「うちゅうかいじゅう…」

 『それでまあ君の仕事だけど。今の結界を二重にするので、迷子が入らないように見張って欲しいんだよね。』

 「謹んでお断り申し上げます。私にはもう全然無理でございます。」

 

 立ち上がって深々と頭を垂れたけど、土下座の方が良かったかも。

 いっそジャンピング土下座の方が良かったかも知れない。

 

 『勿論業務に無理の無いように、魔力は十分に付けるからね。年齢も容姿も、望むようにしよう。あ~確か君、活字中毒だったでしょ?現世の書物でも漫画でも、何でも全部持ってっていいから。電機類がないからゲームやパソコンは却下だけど。生活に不自由のない便利な魔法とか使い放題でOKだし、なんなら侍女ゴーレムとかつけとく?ちょっとした話し相手にもなるよ?結界の監視だって全く休みなしってわけじゃなくって、適当に近くの街へ買い物や気晴らしに出かけたっていいんだから。現地の人たちとちょっとくらい交流してもいいし、いいひとがいたら結婚して子供作っても問題ないし!』


 腰が引けてるのをまるっと無視するかのように、その声がたたみかけてくる。

 さすが神様、スルー力高っ!…でも今ちょっと心が動いた。


 「けっこん…こども…」


 病気で退職するまで仕事一筋だった私。退職してからはずっとつましく生きてきた。

 ずっと接客業で疲れ果てて人間不信にもなったし、それなりに恋もしたけどどれも最後までは実らなかった。

 一発逆転を願って宝くじだって買ってた。けど大きくは当たらなかった。

 もしかすると、これはもの凄く大きな当たりくじ、かもしれない。

 だって、どうせ死ぬんだし。

 死んだあとにもう一度、夢のような世界が待っているのかも…?

 一日中好きな本を読んで、日常生活は魔法を使って、剣と魔法の世界を体験して…!


 『ね、どうかな?異世界で一番強い魔獣だって、君の魔法であっさり倒せるレベルだよ?ギルドで魔石を換金したり、薬草や宝石を採取したり、基本三日以上家を留守にしなければいい。転移魔方陣も各地に設置してあるし、手軽に世界旅行もできる。世間的には<隠者>で通しとけばいい。』


 私の様子に脈ありと見たか、若干誘うような口調になってきた。

 それにしても神様っていい声をしてらっしゃる。


 「あ、あのう…もう少し詳細をお聞きしても差支えございませんか?良ければ条件などももう少し」

 『よしっ!詳しく詰めようじゃないか!』

 

 ******


 結果的に、私は管理人になった。

 神様はとても丁寧に、現地へ同行してまで業務指導をしてくださった。

 もちろんそれは、今の結界を二重にするためでもあったのだけど。

 三日間の研修の後正式に契約を交わして、私はこの『異世界保養所』の管理人になったのだった。

読んで頂きまして、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ