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死生の魔眼  作者: 紅炎
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第七章

 清潔な空気が漂う部屋の中の、丁度隅に位置するベッドの上に健介は横たわっている。

 両目を見開いたまま、何か考えている様子も伺えず、ただぼーっと白い天井を眺めている。まるで魂が抜けてしまった抜け殻のようだ。

 部屋に聞こえてくる様々な音。パタパタとスリッパで廊下をかける足音。女の人が、優しくご老人に話をかける声。先生早く来てください! などと騒ぐ声など、様々な音声が部屋へと届き、そして響く。



 ――ここは病院。病気を患ったり、怪我人が入院したりする、あの病院の一部屋だ。

 そんな場所のベッドに、健介は横たわっている。健介の服装は、綾香の血が夥しく付着した制服ではなく、淡いブルーのパジャマへと着替えていて、病人といったような服装である。

 そして健介がいる部屋の扉には、『浅野健介』と書かれたプレートが貼り付けられている。

 そう。健介は入院したのだ。綾香が息を引き取ったあの日、彼は入院した。別に頭や体に傷や異常が無いにも拘らず、何故か病院の医師に直ちに入院です、と診断されている。

 健介は相変わらずの様子で、天井をじっと眺めている。

 そして、粕かに彼の唇は動いている。それも延々と、同じ動きばかり。それは機から見れば、非常に気味の悪い光景であろう。



 その光景を、偶然彼の部屋の前を通った二人の、若い男性の医師は見ていた。

 そしてしゃれた眼鏡をかけた医師が話しかけた。

「……なぁ、彼なんで入院してんだ?」

 片方の髭が濃い医師は、少し溜息をついてあのさ、と呟く。

「彼さぁ。他の体の何処にも異常がないというのに、両目がなぁ……」

 そう呟く髭の濃い医師の言葉を聞き、しゃれた眼鏡をかけた医師は、疑問があるような表情で話し掛ける。

「両目がどうしたんだよ? 秀雄。何かあるのか?」

 髭の濃い医者――秀雄は困った顔で話した。

「いや。それがさ。彼の両目さ、レントゲン撮ったとき、赤色と蒼色をしてたんだよ」

 そう言うと、その場にしん、と静寂が募る。



 しばらくの間があった後、しゃれた眼鏡をかけた医師は大笑いした。その顔に合わない下品な声を、広大に響かせる。

「お、お前馬鹿だろ。赤色や蒼色? お前変なものでも食ったんじゃないか? それにそういや、大体何で交通事故に合ってない無傷の彼のレントゲンなんか撮ってんだよ?」

 突然突きつけられた言葉に、秀雄は戸惑った。そう。正しいのはしゃれた眼鏡をかけた医師の方である。何故無傷である健介のレントゲンを撮り、入院などと診察したのか。

 秀雄は焦りながらも必死に答える。

「い、いやさ。何だか彼のレントゲン、撮らなきゃいけないような気がしてさ。そんで結果が結果だから、これは何か異常があると思って、入院してもらったんだよ」



 秀雄はそう必死に答えた。しかし、答えれば答えるほど、彼の動機が意味不明なものへとなっていく。そして眼鏡の医者は呆れきっていた。

「あのさ。お前がやった事は理屈の通ってない意味不明な事だ。お前、そんな冗談の為に彼を入院させてどうする。それともなんだ? 嘘で新しい病気の発見です、とでも騒いで病院を驚かすつもりか?」

 そう言って、眼鏡の医者は秀雄の言葉を信じようとしない。それどころか冗談を言う為に、健介を入院させたなどと言っている。

 この言葉にさすがの秀雄も切れ、一気に叫ぼうとする。

「おい、お前――」

「はいそこまで。分かった分かった。まぁ、笑わせてもらったよ。秀雄にしては上出来な冗談だな。わははは!」

 そう言って秀雄の言葉を遮り、大声で笑いながらその場をゆっくりと去って行った。



 ――そしてその場に、秀雄は一人残っていた。

 部屋のベッドに横たわる少年の姿を見ながら、秀雄は呟いた。

「誰も信じなくたっていいさ。俺が……必ず謎を明かしてやる。あの子の両目の謎を……」

 秀雄は、自分が見た赤い目と蒼い目を事実だと信じ、強く決心した。

 そしてその頃、健介はあの事故の事を思い出していた。

 そして――――奈落と名乗った子供の事を。

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