表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死生の魔眼  作者: 紅炎
4/14

第三章

 ――間一髪。

 この言葉が、今の彼らにはお似合いの言葉だった。

「はぁ……はぁー……」

 長く深いため息が、丁度教室の真ん中から聞こえる。そこの席には、教科書で顔を扇ぐ健介が座っていた。彼の頬を一粒の汗が流れる。

 そして健介は一息ついた後、鋭い視線を隣へと向けた。するとそこには健介と同じように、教科書で仰いでいる少女の姿が。

「おい綾香! お前のせいで遅刻するところだったじゃないか!」

「だ、だからごめんってばー」

 健介の怒声が少女――綾香の耳元で放たれる。その怒声に綾香は耐えて、ただ謝るしかしなかった。

 

 ――お前のせいだ。だからごめんってばー。 

 そんな凄まじい口論が交わされ続けていると、それを仲裁する声が入る。

「いやいやー。喧嘩するほど仲がいいとはこの事ですなぁー」

「ああ。だがこの場合は、俺は健介が咲野をいじめているようにしか見えんのだが」

「うっわ。浅野、サイテーだね」

 そんな弾んだ声の騒がしい会話が、健介と綾香の耳に留まる。そして二人は驚いた表情でその声が聞こえる方を見る。

「遼! 時雨! それに智子!」 

 そう健介は叫ぶ。そしてその直後に、遼と呼ばれる少年は口を開く。

「もー。健介君ってば。朝からいちゃつき放題ですねー」

 そう言った直後、遼は健介の肩に手をするっと伸ばす。その直後健介の背に寒気が走る。ひいっ、と健介は粕かに悲鳴を上げる。

 

「羨ましすぎるんだってー。このこのー!」

 そう言いながら健介の脇をこそばかす。悪気は無い、ただじゃれ合っているような光景が、教室の真ん中で繰り広げられている。

「このっ! この野郎! こんちくしょー!」

「痛い! 痛いってば。お前、なんか本気で怒ってない?」

 次第に遼の言葉は荒々しさが表れ始め、とうとう健介の体を殴り始める。

 

 刈り上げた黒髪。真っ直ぐな瞳。そして整った顔つき。黙っていれば、二枚目な小手川遼。悩みといえば、女のようなその名前ぐらいだろう。

 しかし。彼が口を開いたら最後。彼の本性は露となる。下品な喋り方な上、調子乗りな奴。それが小手川遼の本性である。

「やめなよ、気色悪いなぁ! ちょっとは大人しく出来ないの?」

 そう言って、智子と呼ばれる彼女は、遼の頭に自慢の唸る鉄拳を喰らわす。鉄拳を喰らった遼は、その場にひれ伏した。

 丁度肩辺りまでの茶髪のショートカット。少しパーマがかかったその髪は、非常に似合っている。澄んだ瞳も、非常に綺麗な石崎智子。綾香の親友で、何処にでもいるような女子高生だ。少しばかり、男勝りなその性格が悩ましいが。


「無駄だ石崎。こいつは単細胞で無鉄砲な猿だぞ。そんな高レベルな事、出来るわけないだろう」

 その光景を冷静に見定め、適切な。または不適切な言葉を放つ。ほぼ罵倒や暴言に近いそれは、凄まじい勢いで遼の心を射抜く。

「な……。ひ、酷いよ時雨。俺たち、友達だろ!」

「ええい! 抱きつくな、気色悪い!」

 涙目で抱きついてくる遼を、時雨と呼ばれる少年は引き離そうと抵抗する。

 右目を覆い隠すように流れた、黒い前髪。そして知的な雰囲気を漂わせる、長方形のレンズをした眼鏡をかけている。吊りあがった鋭い眼光を持つ亮也時雨。冷静というか冷酷というか。何にせよ、一味違った雰囲気を持つ奴だ。


「――で、ちょっと。話を戻していいかな?」

「え? うん。智子何が聞きたいの?」

「何って。……ほら。あんたたちが遅刻寸前に、学校に着いたわけ」

 智子は少し呆れた様子で綾香に問い掛ける。

 すると綾香はえへへ、と頭を掻きながら恥ずかしそうな表情で説明する。

「えっとねー。私、通学中に凄い可愛い子を見つけたんだ。だから思わず駆け寄って、抱きついちゃったんだ。それで時間が遅れて……」

 綾香は軽々とそう言ってのけた。そして、全員の視線が綾香に向けられる。

「咲野……それはお前、不審者と同じだぞ?」

「そうだよ! あんた、見知らぬ子に抱きつくだなんて……。そんなの続けてたら、あんた本当に捕まるよ?」 

「良いなー。その子、羨ましすぎるぜ」

 遼は羨ましい、と何度も呟いた。

 ――次の瞬間、彼に凄まじいローキックが炸裂したのは言うまでも無い。


「た、確かに分かってるよー。でも、体が反射的というか……。それに、その子本当に可愛いんだよ? 緑色の髪をした、小学生くらいなの」

 綾香は必死に弁解する。しかし、時雨と智子はため息をつくばかりだった。

「そうなの? 浅野」

「いや、悪いけど俺は知らない。俺、その時コンビニで立ち読みして……」

 次の瞬間、健介の腹部に強烈なエルボーがめり込む。そして健介は遼と同じように、教室の床に倒れ込んだ。

「綾香をほっといて何してんのよ!」

 智子は倒れた健介に怒声を放つ。しかし、その声は聞こえるわけも無かった。

「で、その子に抱きついて。お前は何もなかったのか? 通報とか、通報とか……」

「ううん。何にも無かったよ。ただ……」


「――ただ?」 

 智子と時雨の声が一致する。それだけ、二人とも気になっているのだろう。変質行為を綾香が犯したのに通報されなかった。ならば、一体何を?

 時間が過ぎる毎に、二人の期待は高まった。

  

 ――お姉さん。死生の魔眼で見えた運命は覆せないんだよ。かわいそうだけどね。

 

 ――だからね、お兄さんに気持ち。早いとこ伝えた方がいいよ。


 ――バイバイ。……永遠にね。


「……って言われちゃった。えへへ……」

 綾香は微笑するも、周りの空気は冷たかった。

 そして、健介と綾香が家を出て、四十分が経過しようとしていた。

 もう既に、悲劇は始まっていたのかもしれない。

 血で染まる、あの悲劇の毎日が――。

 すみません。非常に長くなってしまいました。

 ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ