第一章
―――――部屋にカーテンの隙間から眩しい朝日が差し込む。
その朝日が少年の顔に直撃する。少年は眩しそうな顔をしながら、目を覚ました。
起きたばかりなので、何やら不細工な顔になっている。左目は瞑っていて、右目のみ開いている。髪が爆発したようになっている。
彼は床で寝ていた。何も被らず、冷たく冷え切った床の上で寝ていた。そのせいもあり、少年は風邪を引いてしまったようだ。先程から妙に咳き込んでいる。
「眠い……」
風邪を引いているためか、声はがらがらで掠れている。そんな事を言いながら歩いていると、鏡の前に差し掛かった。そして鏡に映った自分の姿を見た。
けれど、少年は何も驚かない。
何故なら彼の右目は普通の目。漆黒の瞳。左目とまったく同じだ。紫色の瞳なんかじゃない。少年は頭を掻きながら、呟いた。
「昨日のは夢だったのかなぁ……」
ようやく目が覚めたらしく、両目ともパッチリと開いている。鏡に映る自分の右目を見ながら、少年は何やら唸っている。
「まぁ、悪い夢だったって事にしよう」
一人で納得して、一人で笑っている。なんて前向きな性格なんだろうか。
そして少年はパジャマのまま、部屋から扉を開けて、出ていった。部屋には誰も居なくなり、扉が閉まる音だけが響いた。
少年は廊下の突き当たりにある階段を降り始めた。ちゃんと手すりも持っている。ゆっくりゆっくり一段ずつ降りていく。音を立てないように、ゆっくりと歩く。
順序良く降りれて、最後の一段って時に、階段の軋む音がした。それは静かな家の中に大きく響き渡った。
「遅い!」
その直後に、怒ったような声が聞こえてきた。それが聞こえた途端、少年は大きく溜息をついた。小さな声でばれちまった、と呟く。
少年は階段を降りきった後、一階の廊下を進み、リビングと繋ぐ扉を開いた。
「おはよう」
少年は愛想笑いしながら入ってみた。しかし、それは意味無し。
「起きるの遅いよ健介。いつまで待たせる気なのよ」
リビングにあるテーブルの椅子に、セーラー服を着た少女が一人。頬を膨らまし、機嫌が悪いのが丸分かりの状態で、座っている。健介と呼ばれるその少年はまた頭を掻く。とてもだらしない光景だ。
「あのなぁ、綾香がいるのが悪いんだろ。何で一々俺の家に上がって来るんだよ」
「だって健介のお母さんが、家に上がって待ってて。って言うんだもん」
彼女――綾香は笑顔で答えた。健介は小さくお袋の馬鹿、と呟いた。
そんな時、健介は急に左目を押さえてしゃがみ込んだ。
「どうしたの健介?」
綾香が健介に少し心配そうに話し掛ける。健介は少し笑いながら大丈夫。左目にゴミが入っただけだから、と呟いた。
健介は左目を瞑りながら、右目だけで椅子に座る綾香を見上げた。
すると、丁度綾香の胸のところに赤色の数字が浮び上がっていた。
今回、主人公の名前がやっと明らかになりました。そして綾香も登場いたしました。
ここからどのように話が展開するのか。それを考えながら、読んで下さると嬉しいです。