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第七話

13

シゲが帰り支度をしていると後ろから声をかけられた。


「おい、鍛冶屋!」


声をかけてきたのはサモンである、胴着と袴に着替え、赤い鉢巻をつけていた。


「お前、講堂には行かないのか?」


「僕は妖魔討伐には参加しませんので」


「お前のところ、武器、作ってんだろ、討伐に参加しなくても関係あるんじゃねぇの?」


「ええ……」


 言われてみればシゲはヤミカジの見習いである、妖魔討伐隊とは切っても切れぬ縁だ。参加するのが筋といえば筋である。


『いったほうがいいのかな……』


どうしようか迷ったがシゲはサモンに連れて行かれるようにして教室を出た。


                       *


 シゲ達が講堂に入るとすでに生徒が集まっていた。胴着に着替えている者、制服の者、男女入り乱れていた。


ほどなく、入り口からサヨ師範、モリタ、アカシが入ってきた。


「学級ごとに整列しろ!」


サヨ師範が呻ると、生徒は即座に整列した。


「では、モリタ、生徒に説明してくれ」


 モリタがしゃべりだすと女子生徒の目が変わった。壇上で見た時よりも距離が近いためモリタの容姿がはっきりと映る、近くにいる生徒は釘付けになっていた。


 モリタはかなりの優男である、くっきりした二重の目、真一文字の唇、細くやわらかな髪、巷で流行っている芝居小屋の役者と比べてもそん色ないだろう。


「集まってくれた諸君たちには3つの課題に挑んでもらう。大したことではないがこの課題の成績で討伐隊の手伝いをしてもらうか否かを決定する。」


モリタがそう言うとアカシが3つ課題を書いた巻物を開いた。


1 体力(持久力)

2 知力(妖魔学の学力試験の結果)

3 共同作業(くじで班を作り、料理を作る)


一堂、巻物に見入ったが3番目の共同作業だけ怪訝に見えた。


「何で、料理なんだ…」


「あたし、料理できない…」


「俺、火も起こせないぞ…」


 貴族はほとんどの雑用を使用人に任せる。結果、自分で食事を作ったり縫物をしたりといった日常的な活動は行わない。生徒たちは不安な表情をうかべた。


「ではまず、体力を計る。全員、着替えた後、講堂の外に出て学舎の敷地を3周してこい。」


発言したアカシに押されるようして生徒たちは外に出た。



14

学舎の外周は2km近くある。3周となると結構な距離だ。日頃さほどの運動をしていない生徒にとっては厄介な課題であった。


「では、諸君、健闘を!」


アカシが合図を送ると一斉に全員が走りだした。



 張切って先頭に出たのはサモンである。明らかに目立とうという意志が出ていた。一方シゲは中団より少し後ろのほうで走った。周りの状況を確認しようと左右を見回すと黄色の鉢巻をつけた3人がいた。


『あれはあの時の……』


学舎の回廊で白の位階の少年をなぶっていた連中である。


                     *

 

 3人は明らかに白鉢巻の生徒を標的にしていることが分かった。わざとぶつかったり、足を出して転倒させようとしている。白鉢巻の生徒はそれをうまくかいくぐりながら走っている、だが3人がかりで攻められればどうにもならない。二人に進路を阻まれたところを背後から襲われた。襲ったのは刃を持って攻撃しようとした生徒である。


「うぜぇんだよ、おら!!」


 言うや否や白生徒の脇腹に拳で一撃を加えた。脇には後三昧という急所があるが的確にその場所を突いていた。白鉢巻の生徒はうずくまると口から胃液を吐いた。


「調子に乗ってんじゃんぇぞ、オラ!!』


 3人は苦しむ白鉢巻の少年を見て満足した様子を見せた。一部始終を見ていたシゲは貴族同士の嫌がらせは平民よりもはるかに陰湿だと感じた。


『あんな人間にはなりたくないな』


シゲがそう思った時である、うずくまった生徒に声をかける少年が現れた。


「大丈夫か?」


声をかけたのはサモンであった、いつもと違う真面目な表情をしていた。


「大丈夫です…」


苦しそうにしている白鉢巻の少年がそう答えるとサモンが口を開いた。


「性質の悪い連中だ、討伐隊の隊員には俺から報告しておく。それでいいか?」


白鉢巻の生徒は何も言わなかった。


「あの……」


シゲが声をかけた


「何だ、鍛冶屋」


「サモンさんが告げ口すれば、もっと酷い目に合うんじゃ…」


言われたサモンは考え込んだ


「報告は結構です。自分で何とかします」


そう言うと白鉢巻の生徒は再び走り出した。


                      *


白鉢巻の生徒が行った後、サモンがシゲに話しかけた


「あいつ虐められてるんだろ?」


「ええ、前にも見たことがあります。」


「俺も見たけど……隣接する位階の貴族は仲が悪いからな…」


 サモンはひとりごちると再び走り出した。何やら意味ありげだったがシゲは気にしないことにした。貴族と平民の間には大きな身分の垣根がある。シゲがどうこう言ったところで社会は変わらない。関わり合いにならないほうが賢明である。



14

課題の二つ目だが、これは前期試験の結果が反映されたため学力試験は課されなかった。シゲは今でこそ何とか単位をとれるようになっていたが、前期試験の成績は甚だひどく、二つ目の課題では1,2を争う劣等生だろう。討伐隊の手伝いをする班員に選ばれることは遠のいたといってよい。


                        *


 さて3つ目の課題、料理だがこれはなかなか面白かった。くじで班分けする時に女子と混合になるため別の楽しみが生じたのである。


「おい、ノノさん、来てるんだろ」


「ああ」


「やっぱりきれいだな」


「肌、白いし…」、「結構、胸も…」「腰の位置が…」


男子生徒の目つきが変わっていた。



 実のところ妖魔討伐隊に興味がある男子はそれほど多くない。特に位階の高い貴族の生徒は将来が約束されているので参加する必要はない、つまりほとんどの生徒はノノとの共同作業を目当てにしていた。


 ノノは束ねた髪を結って留め金のついたかんざしで止めていた。いつもは髪を後ろに流しているだけだが、アップにすると印象がかわる。男子生徒はその変化に喉を鳴らしていた。


「何やっても似合うな」、「足ながい…」、「お尻の形、マジでいいわ…」


ため息交じりに男子生徒はノノを眺めた。



 ノノはあらかじめ用意されたくじを引いた、どうやら『ハ』を引いたようだ。ほかの男子生徒も『ハ』を引けるように願っていたようだが……ことごとく外していく。


「『ハ』を引けますように!!」


 サモンの声がシゲに届いた。その顔はいつになく真剣で集中していた。念を込めてくじを引く、そこには『ハ』と書かれていた。


「うぉ~~、うううぉ~」


サモンの声がこだまする、ほかの男子生徒は殺意を込めた目で睨み付けた。



 シゲは『イ』を引いた。赤鉢巻の女子2人と白鉢巻にちょっかいを出していた黄鉢巻の1人と班を組むことになった。


「いいか、諸君、食材はこれだ。」


 アカシが言うとそこには土のついた複数の野菜、丸ごとの魚、調味料などが置かれていた。


「ここにある食材を使って3品を作れ、まな板や包丁は講堂に用意してある。では、はじめ!!」


アカシが開始の合図を送った。


                      *


だが、生徒の出足は悪い……


「どうするの、できないわ、料理なんて…」


「無理よ…」


「やっとことないわ……」


 女生徒の口から愚痴がこぼれた。日頃、下女にやらせているため炊事がおぼつかないのである。一方、男子は女子以上に困惑していた。シゲはその姿を何ともなしに見ていたが貴族の子弟の生活力のなさは甚だしいものであった。


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