第三十四話
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颯爽と現れたコウエツはシゲの手を取った。
「君が娘を助けてくれたようだね」
「そんなことはありません」
「変態したヌエを倒したのは君なんだろ?」
シゲは頷いた。
「ありがとう。」
コウエツはシゲの手を強く握った。その強さには娘を思う父の気持ちが現れていた。
「でも、本当にノノさんを救ったのはサモンさんです、あの人が体を張ってノノさんを守ったんです。」
「わかっているよ」
コウエツは深くうなずいた。
そんな時である、ノノが声を上げた。
「お父様、今回の一連の事案は研究所の実験の失敗が背景にあります。お父様の力を持って何とかこの事案を」
ノノが言葉を続けようとしたがコウエツはそれを遮った。
「お前が口を出すことではない。」
辛辣な言い方であった、そこには親子の情など微塵も見せぬ権力者としての顔があった。
「たとえお前の言うことが正しくともそれを立証するものがなければ、ただの弾劾に過ぎん。お前も青の貴族であるなら、わかっておろう!!」
ノノが立ち上がった、その顔は明らかに抗議する気が満々である。
「お父様!!」
食って掛かろうとした時だった、ノノの手がシゲの飲んでいたお茶に当たりヨイチから押収した暦表にかかった。
暦表はぐんぐん水分を吸っていく。
*
「何だ、これは?」
モリタとアカシは暦表が変わる姿をつぶさに見た。今まで記されていた暦が消えて下から文字が浮かび上がってくる。
「これ、研究記録じゃないのか?」
一同その変化に目を疑った。
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研究所の絡んだ妖魔の事案は白日の下にさらされる運びとなった、決め手となったのはヨイチの持っていた羊皮紙の研究記録である。証拠として採用されシラスの場で公となった。
そしてシラスの場には唯一生き残ったトウハクも証言することになった。
「トウハクが証言することを認めたんですか?」
「客観証拠が出たため証言したほうが自分に得になると踏んだんだろう。奴はそういった点では鼻が利くタイプだ。」
診療所の寝床でサヨがアカシに言った。
「これで、一件落着ですね」
「ああ、そうなるといいな」
サヨはアカシに同意した。
*
そんな時である、アカシ持っていた緑符が光った。シラスに出席しているモリタからの知らせであった。そこには恐るべき内容が記されていた。
『トウハク、出廷できず、牛車の中にて死亡』
アカシが泡を食ったようにサヨに伝えた、だがサヨは動じなかった。
「やはりな……」
「まさか自殺したんじゃ…」
「証言すると腹をくくったんだ、そんなことはない」
「では……口封じに…」
サヨは窓から外を見て一言発した。
「この事案は闇が深い」
アカシはただ沈黙するほかなかった。
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シラスの『裁き』は芳しいものではなかった。トウハクの証言がなかったため核心ともいうべき監督責任が問えなかったのである。上級研究員は解雇されたものの所長や役員といった上級貴族は法的責任から免れた。
『すべては研究者が勝手に行ったこと』
として処理された。
シゲは昼休みにシラスの『裁き』を記した瓦版を読んだが世の中の不条理さを強く感じた。
そんな時であった、ふと見ると教室の外でノノが手招きしていた。シゲが近寄るとノノが話しかけた。
「今日の午後、付き合え」
「放課後ですか?」
「ああ、サモンの所行こう」
「それいいですね。」
シゲは事件の顛末をサモンに報告しようと思った。
*
サモンは相変わらず面会謝絶の状態であったが青の貴族の権力を背景にノノはサモンの顔が見れる範囲まで近づくことに成功した。
ノノは障子を開けると仰臥しているサモンに向けて大声を上げた。
「ノノ、一発芸いきます!!」
まさかの展開にシゲは驚きを隠さなかった。大きく息を吸い込むとノノは絶叫した。
「祝辞を言うのをしゅくじった。」
恐ろしいまでのつまらなさにシゲは目を見開いて沈黙した。
「シゲお前の番だ」
「えっ?」
ノノの表情は妖魔に対峙した時よりも厳しい。断れないと思ったシゲは全知全能を使った。
「では行きます『夜間はヤカン使用禁止です。』」
病室に恐ろしいまでの北風が吹いた。
だがノノはそこに畳み掛けた
「年を取った女性が会合に出席しました。さてどこでしょう?」
ノノの眼はシゲに『答えをたずねろ』と訴えていた。
「どこですか?」
シゲは渋々たずねた
「晩餐会」
シゲは卒倒した。
その時であった、
「まったく……面白くありません!」
二人の耳に朗らかな声が届いた。
なんとサモンが上体を起こして二人を見ていた。その顔は青白く生気はないが人懐っこい笑みが浮かんでいた。
了
最後までお付き合いくださりありがとうございました。一応これでこの作品は終わりとなります。もしよかったら感想を残してくれるとうれしいです。
なお、感想次第では続編も…
次回作は『僧侶辞めます!!!』の二章か、新作のSFのどちらかを投稿したいとおもいます。
では