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第二十七話

61

大学校につくとサヨとアカシは応接室に通された。


「大変お待たせいたしました。」


前回と同じく顔色の悪い上級研究員が現れた。


「妖魔の、分析が遅れているが?」


「ええ、お待たせいたしました。」


上級研究員は分析結果を提示した。


「牛鬼の巣から見つかった大腿骨、尺骨、頭蓋骨は行方不明になった生徒と考えて間違いないと思います。」


 見つかった骨と遺留物から生徒であることは予測がついていた、研究員の報告はアカシたちにとって意味をなさない。


「他には?」


「他にはといいますと?」


 アカシは自分が見つけた妖魔に襲われた遺体のことに触れた、骨と皮だけになった遺体である。


「あれは、残滓が少なく分析ができなかったんです。」


「若い研究員はどうされたのですか? 通常、分析と報告は仕事を受けた人間が同席するはずです。まさか、身内の不幸がまた起こったとか言いますまいな。」


上級研究員は冷や汗を流した。


「我々は捜査する立場として事実関係を抑えなければなりません。間違えを犯したときそちらが責任を取っていただけるのですか?」


「そろそろ、本当のことを話されては?」


 サヨは優しげに話したがその目は明らかに三白眼である。横で見ていたアカシのほうがたじろいだ。


「言えないんです……私の一存では……」


「なら、あなたの上司をよばれたらいい」


上級研究員はすごすごと退室した。


「何か隠してますね」


「ここではらちが明かんかもな、あの様子では時間稼ぎをすることはあっても本当のことはしゃべらんだろう。ところでお前の見た若い研究員とは誰だ?」


アカシは若い研究員の容姿を説明した。


「どこにでもいそうなタイプだな」


                       *


そんな会話をしていると研究所の所長が入ってきた。


「このたびは分析が遅れまして誠に申し訳ありません」


背の低い男で研究者には見えない。飾りとしておかれている上級貴族であった。


「実はその若い研究員は分析結果を紛失したようで、当方のほうで解雇いたしました。」


あまりの急な展開にアカシは驚いた。


「それはいつですか?」


「一昨日です。」


「そうですか」


サヨは淡々と答えた。


「優秀な研究員だったんですが、残念です」


 所長は自分が上級貴族であることをわざと見せつけるように胸に着いた青い印を強調した。明らかにこれ以上の質問には答える気がないという意志であった。


「解雇した研究員の履歴は教えていただけますね?」


「構いませんよ、あとで書類をお送りします。ではこれで」


そう言うと所長は応接室を出た。


                           *


二人は研究所を出た。


「アカシ、その若い研究員を探せ」


「わかってますよ」


アカシは軽快に答えた。


「それと、あの顔色の悪い研究員を落とせ」


「えっ?」


「あの男は所長と違って政治家じゃない、うまく脅せば色々、吐くだろう」


「師範それはちょっとやりすぎじゃ……」


「構わんよ、やらなくても」


サヨはそう言ったがその目は「ヤレ」と示していた。



62

授業が終わり見廻りの時間となった。妖魔が退治されたとあって3人とも気抜けした感じがあった。


「しかし、妖魔が街中まで来ていたら大変だったでしょうね?」


「そうだな」


ノノはサモンに同意した。


「10人も狩人がやられるなんて、相当の妖魔ですよ。僕らがもし鉢合わせしたら……」


「やられていたな…」


3人は前回と同じくススキ野原の道を進んだ。


「今日は街道まで行ったらアレをやりましょう!」


「えっ?」


「一発芸!」


「本気か?」


ノノが反応した。


「もちろん」


サモンはかたく頷いた。


ノノの目に炎がともるのをシゲは感じた。


                        *


 その時である、どこからともなく2人の狩人が現れた。緑鎧と女男、ヤマネ3兄弟の二人であった。


「あら、坊や、こんなところで会うとはね」


 妖艶な微笑みを投げかける次兄と無言で立ち尽くす末弟は明らかにシゲ達をつけてきたようだ。緑鎧の弟は何やら次兄に向かって語りかけている、その音声は明らかに普通の言葉ではなかった。


「そこのお嬢ちゃんと話がしたいって」


「狩人ごときが青の位階の貴族に何の用だ!」


サモンが凄んだ。


「こっちの坊やは威勢がいいのね、私たち狩人には位階なんて関係ないの、わかる? 私たちは欲しいものを手に入れるだけ。牛鬼を倒したんだからご褒美が増えてもいいでしょ!」


 そう言うと次兄がサモンを見つめた。サモンは膝から下が動かなくなるのを感じた。


「さあ、坊や、おねぇさんと楽しみましょうね」


 次兄はそう言うとシゲに微笑みかけた。シゲは緑符を出してつなぎをつけようと思ったが知らぬ間にその手をつかまれていた。


                        *


 一方、ノノの前には息を荒くした緑鎧が立ちふさがった。2m近くある身長と大人二人合わせたほどの胴体はまさに巨躯、ノノが掌底をかましても何の意味もないだろう。緑鎧の兜は顔面全体を覆うタイプでその素顔はよくわからなかったが、獣欲に駆られた目は明らかにノノを狙っていた。


ノノは直感的に『マズイ』と思った。


 だがその思いは遅かった、緑鎧は体の大きさとは裏腹な動きでノノの肩を掴んでいた。


『このままじゃ、ノノさんが……』


 サモンは捕まったノノを何とか助けようと思ったが足どころか手も動かせなくなっていた。次兄の眼力はサモンの自由を奪っていたのである。


『くそ、化け物め、妙な技を使いおって……』


 サモンは声を出そうとしたが全身の筋肉が硬直し声が出せなかった。ノノはサモンの目の前で抱えられとススキの繁みの中に消えていった。


                         *

 

 緑鎧は適当な場所を見つけると抱えたノノをススキ野に放り投げた。ノノは背中をしたたかうち、呼吸ができなくなった。


『くそ、こんな化け物にやられてたまるか!!』


ノノは必死に起き上がろうとした。だがそれよりも早く緑鎧がノノの腹部にのしかかった。


「ヤッテやる、ヤッテやる。」


 緑鎧はたどたどしい片言を言い放つ。知能に明らかな問題がある口調にノノは危険を感じた。


『なんとかしないと……』


 だが腹部にかかる重さが尋常ではなくノノの抵抗は意味がなかった。緑鎧は咆哮すると暴れるノノの胴着に手をかけた。はだけた胴着の内側から白い肌襦袢があらわになる、薄い襦袢は透き通っていてノノの白い肌と形の良い乳房が見て取れた。緑鎧は興奮し再び咆哮した。


「貴族の女、犯る、犯る、犯り殺す!!!」


緑鎧はノノの襦袢の内側に手を入れ美しい乳房を思う存分にもみしだいた。


『舌をかんで死のう、そうすれば精神は辱められることはない。』


ノノはそう思った。


 緑鎧の手がノノの下半身に伸びた。袴の裾をまくりあげ襦袢の中に手を入れようとする。


『短い人生だった、恋一つせず死ぬのか……』


 そう思った時である、顔に何やら落ちてきた、ノノは気になり目を開いた。そこには驚愕する現実が待ち受けていた。


『なんと……』


それは血であった。


                      *


 一方、シゲは追い回されていた。わざと逃がして楽しんでいるのだろう、シゲの必死な姿を見て次兄の女男はケタケタ笑っていた。


「さあ、逃げないと食べちゃうわよ~」


陽光の下、動き回れば汗だくになる。そのシゲの姿を見て女男は興奮していた。


「いいわ、若い男の汗、たまんないわ」


舌なめずりしている。


「くっそ、駄目だ、足が疲れて…」


ススキに足を取られシゲはフラフラになっていた。


「そろそろ、いただこうかしら、私は両方いけるのよ!!」


『両方』の意味が分からないシゲにとっては絶望しか映らない。


「いろいろ教えてあげるわね」


 女男はそう言うとシゲを背中から抱きしめた。熱い息を耳に吹きかけられる、背筋に悪寒が走った、女男の狂喜した顔が近づいてきた。


その時である、女男がシゲから急に離れた。


「何、今の音?」


女男は音のほうに向かった。


「これは……どういうこと……』


次兄の女男は目の前に広がる光景にただ黙るほかなかった。



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