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第二十六話

57

牛鬼の場所は緑符に記されていたためその姿を見つけるのは造作なかった。狩人20名はそれぞれの武器を持つと颯爽と出陣した。。


 牛鬼は手負いということもあり錯乱していた。身を隠す知恵はなく、手当たり次第暴れまわった。


「兄者、どうします?」


「ほかの狩人にやらせろ」


ヤマネ3兄弟の長男、背虫男が答えた、手には望遠鏡をもっている。


「えっ?」


次兄の女男は不審な声を出した。


「暴れ牛、相手に討死する気はねぇ、ほかの奴らが弱らせた後に……いただくぜ」


背虫男は実に狡猾な笑みを見せた。


                        *


 錯乱した牛鬼は角を四方八方に伸ばし近づくものを手当たり次第に貫いた。予想しない方向に突然向きを変えるため、妖魔討伐になれた狩人たちさえもその角の餌食となっていく。


 だが首取(最初に妖魔を倒した者)になればもらえる報奨金が増える、狩人たちは危険をおかして牛鬼に一撃を繰り出した。


 経験の少ない狩人は仕留めようとマサカリをふるったが蛇行して襲ってくる角を避けられず眉間を貫かれた。


「馬鹿な奴だぜ」


背虫男は鼻で笑っていた。


「兄者、どうします。」


「暴れ牛をよく見ろ、背中だ」


そこにはアカシの放った矢じりが刺さっていた。


「討伐隊の打った矢だ。間違いなく魔晶石の効能が出てくるはずだ、待ってればいい」


 背虫男の見識は穿っていた、時間が経つと暴れ牛の動きは多少ながらも緩慢になってきた。


「行くぞ、オメェら」


 そう言うと3人は牛鬼のいる街道筋に移動した。すでに10人の狩人が倒されている。角で貫かれた遺体、踏みつぶされ顔の原型を留めぬ遺体も転がっていた。尻込みする狩人をよそにヤマネ三兄弟は牛鬼の様子を確認した。


「距離をとれ」


 3人は展開した、緑鎧は金槌、女男は吹き矢、背虫男は爪、3者三様の装備で牛鬼をとり囲んだ。


 その時である、別の狩人が電光石火の一撃を放った。その一撃は弱り始めた牛鬼の頭部を貫いた。後頭部から貫通した槍の切っ先がきらめいている。


「やったぞ、俺が首取だ」


 30歳くらいの男である、雄たけびを上げた。その眼は輝き手に入れられるであろう報償に思いをはせていた。


 だがその瞬間はおとずれなかった。男は10m以上吹き飛ばされると地面にたたきつけられた。胴体はあらぬ形状に変形している、牛鬼の放った一撃ではないことは明白であった。男は血泡を吹くと恨めしそうな眼を3兄弟に向けてこと切れた。


「すまんな、弟の一撃、お主にあたったようだ…」


背虫男は白々しく声を上げた。


「とどめを刺せ、そうすれば俺たちが首取だ」


 背虫男にそう言われ、緑鎧が金槌を牛鬼の頭に槌を振り下ろした。牛鬼の顔が粉砕され眉間にあった傷もわからなくなった。


「いいぞ、完璧だ」


 背虫男は嬉しそうに緑鎧に話しかけた。周りにいた残りの狩人はその様子を見て非難の目を向けたが、背虫男ににらまれると皆、何事もないかのように目を伏せた。


58

翌日、討伐隊の詰所ではヤマネ3兄弟が報償をもらうべくアカシと話を進めていた。


「弟の一撃で妖魔は退治された。当然、首取として報奨金が増えるはずだ。」


 アカシは他の狩人からヤマネ3兄弟がやったことを聞かされていたが、その場にいなかったため事の真偽を確かめるすべはなかった。妖魔の遺体検分でも金槌の一撃が致命傷であるということを報告されていたので、3兄弟が首取であることを認めざるを得ない。アカシは渋々、報奨金を3兄弟に渡した。


「どう、思うモリタ?」


「あの兄弟なら、手柄を横取りするくらいやりかねんだろ……」


モリタは右上腕部に分厚い包帯を巻いている、大事はないようだが回復に時間がかかりそうだ。


「気にくわねぇな、あの兄弟」


アカシは毒づいた。


そんな時である、玄関の戸が開きサヨが現れた。


                         *


3人は早速、顛末について話し始めた。


「ところで師範、あの情報はどうやって手に入れたんですか?」


「神社省の知り合いに頼んだ。」


「神社省がですか、あの?」


 神社省は神社仏閣の催事や行事の統括がその仕事といわれるが、浮世の出来事には一切関知しない。政治、経済といった実体にかかわる部分に手を出すことはい。犯罪者が出ようと妖魔が出ようと全く関知しないくらいだ。


「つなぎをつけるのは厄介だったが鏡の力を借りて妖魔の居所を割り出したん

だ。」


「そうだったんですか」


サヨは出されたお茶に手をつけた。


「妖魔も退治できましたし、何とお礼を申していいか……我々としてもメンツが立ちました。」


サヨは首を横にふった。


「うちも生徒二人をやられている、当然だ。それにお前らは私の教え子だからな」


アカシもモリタも恥ずかしそうにした。


「しかし平民の犠牲者が出ないうちに片付いたのは運がよかったな。」


「ええ」


アカシは同意した。


「ところで妖魔の残滓は分析されたのか?」


「いえ、それが……」


サヨは怪訝な表情を浮かべた。


「大学校の動きおかしいとは思わぬか?」


「……」


モリタもアカシ沈黙したが同じ思いを持っていた。


「アカシ、行くぞ」


「どこにですか?」


「大学校に決まっているだろう。」



59

シゲは学舎で妖魔の捕り物があったことを知らされた。


「狩人の奴ら半分ぐらいやられたらしいぞ」


「3人兄弟の奴らが首取だって」


「うちの生徒もその妖魔にやられたんだろうな……」


様々なうわさが飛び交っていた、だが妖魔が倒されたことは間違いないらしくそれは明らかに吉報であった。


『これで見廻りも終わりかな』


シゲは心中そう思った。


そんな時であった。


「おい、シゲ、ちょっと来い!!!」


サモンは怪しげな眼でシゲを見た。


「昨日、ノノさんとどこに行ったんだ?」


「あっ、それは……」


シゲは社に行ったことをサヨ師範に口止めされていたので困ってしまった。相変わらずサモンは厳しい目を向けてくる、そんな時である。


「おう、シゲ、ちょっと来てくれ」


 何と教室の外でノノが手招きしている。親しげにシゲに話しかけるノノの姿はサモンに衝撃を与えた。シゲはサモンの顔色を窺いながノノの所に向かった。


                         *


「昨日の事なんだが、見たことを箇条書きにしてサヨ師範の所に提出しろと命を受けた。」


「えっ……」


シゲは思わず声が出た。


「そう面倒がらずにさっさと済ませてしまえ、昼休みまでにだ。」


ノノはそう言うとスタスタと行ってしまった。


それを見たサモンはシゲに詰め寄った。


「シゲ、お前、今、何を話してたんだ!!」


あまりの詰問口調にシゲはたじろいだ。


「何かあったんじゃないだろうな!」


「何もないです……」


 シゲの視界にイオリが入った。イオリは高みの見物といった表情をしている。困ったシゲを見て時折ニヤニヤしていた。シゲはとにかく状況を好転するべく適当な嘘をついた。


「じゃあ、今日の見廻りのときにでも、その話を……」


 サモンは不審者を見るような目でシゲを見たが、とりあえず『うん』とうなずいた。



60

講義が始まると講師は開口一番、妖魔が討伐された事実を伝えた。


「とりあえず危機は去ったといっていいと思う。だが……いまだ行方不明の2人がどうなったかはわからん……」


講師の沈黙は妖魔によって亡き者にされたことを肯定していた。


「いづれにせよ、妖魔は片付いた。これで我々の生活も通常に戻る。諸君たちもいろいろ思うことはあるだろうが、日々の生活に戻ってほしい。では講義を始める。」


 シゲは講義が終わると鏡に映った内容を箇条書きにした。不思議なもので書き出すと昨日よりも思い出すことが多く、サヨ師範に話した内容よりも具体的な像も浮かんできた。


「そう言えば、人の顔が……あれは貴族だったな……見たことがあるような」


今一つはっきりしないが、その情報が重要なカギになるようにシゲには思えた。




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