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第二十五話

55

社務所の前ではノノとサヨが待っていた。


「シゲどうだった?」


開口一番、サヨが尋ねた。


 シゲは頭の中で展開された映像を見た通りに伝えた。それを聞いたサヨは考え込んだが懐から緑符を取り出すとシゲが話した『丘』の部分に注目してその情報を送った。


「とりあえず、我々ができることはやった。どうなるかわからんが……うまくいってくれることを願おう」


 サヨはそう言うと3人と一緒に家路についた。シゲと別れるとノノはサヨに質問した。


「師範、本殿の奥にある鏡の間にはどうして私は入れないのですか?」


「魔晶石を扱う人間でないと駄目だ。鏡の間にある鏡は魔晶石でできている。』


「そうなんですか」


「それなら討伐隊の方でもいいんじゃないですか?」


「確かにな、だが鏡の間には童貞か処女しか入れんことになっている。浮世で汚れた人間は駄目なんだ。」


ノノは納得した表情を見せた。


                         *


3人の去っていく姿を社務所にいた老人は見ていた。


「ただ今、戻りました。」


 先ほどの巫女はノノに符を渡した老人に恭しく挨拶した。明らかに上位の者に対するそれであった。


「どうだった?」


「実は変なことが」


 巫女はシゲが見た双子の老婆のことを老人に話した。老人は蓄えたあごひげに手をやると一言発した。


「どうやら、うまくいったようだな」


巫女の女子は怪訝な表情を浮かべ老人の顔を見た。



56

サヨのもたらした情報は瞬く間にモリタに伝わった。モリタは半信半疑であったがアカシと合流し、サヨの示した『丘』に向かった。『丘』とはサモン班が捜索したススキで覆われた広野を超えたところにある小高い山のことである。


「手がかりなしだ、やむを得ん、行ってみよう。」


                         *


 二人は手綱を巡らせた。丘に近づいても魔晶石の反応はない、二人は引き返すか迷った。


「もう少し行ってみるか」


 アカシはそう言った。モリタも手掛かりがないので同意して進んだ。二人は馬を下り『丘』を登り始めた、距離を一定に保ち探索する。


「ここなら、魔晶石の反応が薄いかもな……」


 魔晶石は自然物で遮蔽されるとその反応が鈍る。雨や風といった天候でも変わるが深い森や林でも同様のことが生じる。探索していた場所は獣道のようなところで魔晶石の反応が鈍っても何らおかしくなかった。


「モリタ、こっちだ」


アカシが大声を上げた。


モリタが声のほうに向かうと洞穴のような空間があった。


「ここなら、あり得るかもしれん」


二人は顔を見合わせるとその穴に入っていった。


                     *


 モリタは懐から符を出した。それは黄色の符で何やら文字が書いてある。モリタはその符の文言を詠んだ。符はポッと輝くとほのかな光を放ち始めた。


「20分は持つだろう。」


モリタの黄符は明かりをもたらすものであった。二人はその光を頼りに奥に進んだ。


「広いな……」


 小高い丘といってもさほどの規模ではない。地下に向かって広がる空間があるとは思いもよらなかった。


「こんなところがあるとはな……」


モリタがそう言った時である。アカシが尋常ならざる顔を見せた。


「そんな……」


 二人の眼前にはなんと人骨が転がっていた。頭蓋骨、大腿骨、ろっ骨、尺骨、さまざまな部位があった。


「これなら妖魔の残滓も見つかるかもな」


アカシとモリタは目を見合わせると近辺を調べた。


「これだけ遺留品を集めれば、分析もできるだろう」


モリタはそう言うと撤退しようとした。


「待て!!」


 アカシがモリタを制した、懐に忍ばせていた魔晶石が振動している。その振動は明らかに異常を示していた。


「近くにいるな。」


 アカシとモリタは腰に差した刀を抜いた。魔晶石の振動具合を確認しながらゆっくりと進む、明らかに妖魔の放つ瘴気が洞穴内に充満しつつあった。アカシはモリタにめくばせした。目の前に広がる空間に妖魔がいるのは間違いなかった。



57

二人の前に現れたのは黒い塊であった、よく見れば顔があり目鼻がついている。頭部には二本の角が禍々しく生えていた。


「牛鬼だな」


 牛鬼とは死んだ牛に妖魔が取りついたもので下級妖魔に分類される。だが彼らの前にいるのは明らかに別物であった。


『人の血肉を食んで力が強くなっている。』モリタはそう思った。


二人は刀を正眼に構えた。


                        *


 牛鬼は生物とは思えない声をだし威嚇すると二人めがけて突進した。牛と思えぬその速さに二人の侍は度肝を抜かれた。


「ここでは分が悪い、外に出るぞ」


 アカシはそう言うと出口めがけて走り出した。モリタもその後を追った。牛鬼は雄たけびを上げると再び走り出した、明らかにさっきより速度が上がっている。


 うしろから地響きを立て迫りくる黒い塊に二人の侍は背筋が凍るのを感じた。入り組んだ道を必死に走る、光の射す入り口が見えた。洞穴を出るや否や二人は左右に分かれた。


 その刹那、洞穴の正面にあった杉の木が倒れた。あと一歩でも遅ければ二人とも肉塊となっていただろう。


 牛鬼は唾液をまき散らしながら身もだえした。唾液がこぼれた地点は白い煙が上がっている。


「ありゃ、酸だな。」


「当たったら、アウトだ、どうするイケメン?」


「そうだな、キン肉バカが囮になるのはどうですか?」


「ふざけんな!」


そんなやりとりをしていると再び牛鬼が二人に照準を合わせた。


「俺が左だ。」


「了解」


二人は手慣れた感じで二手に分かれた。


                        *


牛鬼はどちらにするか一瞬迷ったようだが、モリタのほうに向けて走り出した。


「このデカブツかかってこいや!!」


 モリタは突進してくる牛鬼を避けてすれ違いざまに一刀浴びせようと考えた。だが牛鬼はモリタの所まで突進せず手前で止まった。


 牛鬼はニヤリと笑った、その顔は人間そのものであった。モリタは直感的に身の危険を感じ、左のほうに向けて飛び出した。


「痛っ……」


 モリタの上腕に深い傷ができていた。何と牛鬼の角が伸びてモリタの腕を抉ったのである。


「大丈夫かモリタ?」


「大事ない!!」


モリタは傷口を抑えながら走った。その姿を見たアカシには一つの考えが浮かんだ。


                       *


 牛鬼の角は直線的に伸びるだけでなく蛇行して伸びることもあった。何度となく致命傷を受けそうになったがモリタはうまく体を入れ替え何とか避けた。


『もう、持たんぞ…』


モリタの後ろは崖になっていた、落ちれば絶命するのは間違いない。


とどめを刺すべく牛鬼は両方の角を同時に伸ばした。どう動いても避けることはできないだろう。


『よし、ここならいいだろう』


モリタが思った次の瞬間であった。


 一本の矢が牛鬼の背中に深々と刺さった。牛鬼はのたうち暴れまわった。


「とどめだ」


アカシが弦を絞った。


 だが牛鬼はその矢をかわし脱兎のごとくその場から逃れた。牛鬼は二人に向かって咆哮すると、すさまじい速さで山の中から消え去った。


「マズイ、手負いの妖魔が町に出たら……アカシ、連絡しないと」


「わかっている」


すでにアカシは緑符を使って連絡していた。


「しかし、いい腕だな」


 アカシは弓の名手である、止まった的なら確実に射抜く技量があった。モリタはそれを機知にいれ逃げ回っていたのだ。


「あの矢じりには魔晶石の粉末が焼き付けられている、牛鬼もその効果で100%力は出せまい。あとは狩人に任せてもいいだろう。」


「うまくいくといいがな」


「報奨金の仕事はしてもらわんとな」


二人はそう言うと『丘』から降りた。


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