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第十九話

37

 シゲは学舎を5日間休んだ。体力は回復したがなんとなくだるい感じがする、親方が言うには魔晶石にアテられた名残だそうだ。だが、学力試験も近いためシゲは学舎に向かった。



教室に入るや否やサモンが話しかけてきた。


「お前、大変だったんたぞ、この5日間。」


「どうかしたんですか?」


「サヨ師範と3人で見廻りだ」


ノノと二人で見廻っていると思っていたので予想外であった。


「毎日、ドヤされたぞ……」


シゲはとりあえず沈黙した。


「おかげで多少はマシな班長になったがな」


シゲは直感的に『怪しい』と思った。


「今日からまたルート変更らしいぞ、今度は北東方向だ。」


そんなことを話していると講師が教室に入ってきた。


                       *


 魔晶石に関する講義はシゲにとって興味深いものがあった。ヤミカジにとって魔晶石の特徴は否が応でも知らなければならない。ヤミカジは伝統的技法として魔晶石を扱う『技』はあるが学術知識は無きに等しい、それゆえ学舎の講義は重要であった。


「重要なのは魔晶石の特徴を見極める作業だ。一見しただけではわからない事例も数多く報告されている。」


講師が説明し始めた。


「師範、質問です。」


「何だね?」


「どうやって見極めるのですか?」


「魔晶石はそれぞれ独特の光を放つ。その光を分析することで判断する。分析に関しては大学校での講義になるので諸君たちは有名なものだけ現段階では知っておけばいい。」


 講師はそう言うと代表的な分析方法を板書し始めた。ヤミカジの技とは違い体系的に連なった知識はわかりやすくシゲにとっても有用であった。


「魔晶石はそれ単体では単純な性質しかないが混ぜ合わせることでいかようにも変化する。また混ぜるときの温度や混ぜ方を変えても異なる性質を帯びる。このあたりはこれから先も基礎研究として発展していくだろう。」


講師はそう言うと魔晶石の特徴とその組み合わせを図解して板書した。


                      *


 講義が終わりシゲは見廻りに行くための用意をしているとイオリが声をかけてきた。


「よう、ヤミカジ、ちょっと来いよ。」


シゲは言われるままに人気のない庭のほうに向かった。


「また妖魔が出ただろ?」


シゲは強く口止めされていたので沈黙した。


「うちの近くに討伐隊の詰所があるんだ、がそこが騒がしいからわかるんだよ」


シゲは変わらず黙っていた。


「お前が休んだってことはヤミカジの仕事があるってことだろ」


イオリの質問は実に鋭い、シゲの沈黙を肯定ととらえていた。


「まあ、いいや。」


イオリは質問するのをやめた。


「ところで、サモンは元気か?」


「ええ、元気だと思いますけど」


「そうか」


 イオリとサモンは相方のようにいつも一緒に行動している、なぜそうしたことを聞くのかシゲにはよくわからなかった。


「じゃあな、サモンによろしく」


 イオリはさびしそうな背中を見せてその場を去った。シゲは何か変なものを感じたが詮索しないことにした。



38

見廻りに行くため講堂に向かうとすでにアカシとモリタがいた。見廻り組が集まるとすぐに話し始めた。


「諸君、今日は大事な話がある。単刀直入に言うと妖魔が市中で現れた。」


生徒たちの間にざわめきが起こった。まさかシゲも生徒に話すとは思っていなかった。


「静かに!!」


アカシが大きな声を出した。


「大した力のある妖魔ではない。すでに痕跡を我々がたどっているが、微弱で確認するのも難儀なレベルだ。諸君たちが見廻りの途中で襲われる心配はない。」


「それは、本当ですか?」


学舎で一番成績がいいゲンタクが手を挙げた。


「まちがいない。」


アカシがそう言ったがゲンタクは言葉を続けた。


「僕は危険がないと聞いて討伐隊の手伝いをすることにしたのであって、実際に妖魔が出るなら見廻りはお断りしたい。」


ゲンタクがそういうとアカシが反論した。


「日の高い午後は妖魔が出ないのは諸君たちも知っているだろう、安全は担保されている」


「本当に大丈夫なんですか?」


黄鉢巻の生徒が今度は発言した。それにつられ辞めたいと願い出る生徒が手を挙げた。


「安全の保障ができないなら、見廻りを辞めたいとおもいます。」


生徒たちは口々に不満をぶつけだした。


                       *


そんな時であった、


「構わんよ」


いつ講堂に入ってきたのだろうか、サヨ師範が声を上げた。


「見廻りを手伝えば、成績に加点されると思って手伝っている者もおるだろう。そうした考えの持ち主は去っていいぞ。これまで見廻りをしてきた分はきちんとノシをつけてやる。」


サヨ師範は続けた。


「魔晶石の様子を見れば微弱な反応しかみせていない。その程度の下等な妖魔におびえる奴はいらん。統治する立場の者がおびえていては平民に害を与えるだけだ。さっさとこの場を離れるのがよかろう。」


 サヨが落ち着いた声で言うとゲンタクを含めた6名の生徒が立ち上がった。彼らは無言で立ち去った、講堂に何とも言えない空気が漂った。



38

サモン班の3人はシゲが戻ってきたため以前と同じ感覚で見廻りを始めた。


「お前が休んだ5日間、サヨ師範がいたからうるさいッたりゃありゃしねぇの」


 サモンの愚痴が始まった。シゲは邪険にするのも後々困るので、頷きながら相槌を適当に打った。


「でも、妖魔が出たってのはビビったな、俺たちが見つけた妖魔の死骸でもういないと思っていたからな。」


「そうだな」


ノノが同意した。


「まだほかにも妖魔がいるんですかね?」


「魔晶石が振動しないからいないんじゃないか」


「でも、町で出た妖魔って、黒い影が目撃されたんだろ?」


「そうらしいな、だが実際の所、どの程度の妖魔かは判断がつかんのだろう。」


こんな会話をしながら3人は進んだ。


                        *


ノノはルートが変わったため新しい景色に目をやっていた。


「このあたりは何もないな」


「街道に出るだけの場所ですからね」


 サモン班の新しいルートはススキが一面に生えた広野である。学舎から北東方向になるが商店もなければ住居もない、細い道が点在しているほか何もなかった。


「松の林道が見えてきたらもう街道に入っているから、その辺りで引き返そう」


サモンは地図を見ながらそう指示した。


「サモンさん、地図読めるようになったんですね」


「まあな……」


ノノがニヤニヤ笑っている。


サモンは何事もないかのようなそぶりを見せてやり過ごした。


『サヨ師範にしごかれたことはシゲには知らせないでおこう』


何度も怒鳴られ罵倒されたサモンはその姿をノノにみられている。


『ノノさんにはバレてるからな……』


サモンはちらりとノノを見た。


ノノは変わらずニヤニヤしている。


「ノノさん、魔晶石の反応はどうですか?」


「ありませんよ、サモン班長!!」


微妙な二人の雰囲気をどうするか迷ったが、適当に放っておこうと思うシゲであった。


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