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第十八話

36

太刀を打つ工程は以下の手順を踏む、


1 玉鋼を熱し、打ち伸ばす。その後、適度な大きさに分け良質な欠片を選ぶ。


2 選んだ欠片を炉に入れて熱し一つの金属としてまとめあげる。


3 鍛錬して外側になる皮鉄と芯になる心鉄を打つ。


4 皮鉄と心鉄を打ちながら合わせていく。


5 合わせたものを伸ばし太刀の形状に成形していく。


6 焼き入れ、この時、魔晶石の粉末を刀身にふりかけ定着させる。


7 仕上げ、砥石で研磨する。


 

 シゲは親方のもとでみっちり基礎を叩き込まれていた。おかげで[1]の作業は造作なくできるようになっている。だがほかの作業は見ていただけであり、[6]の作業に至っては目にしたこともない。初めての経験の前に異常な緊張感がシゲを包んだ。


 シゲは『火入れ』を行った。石炭に火を回し、炉の温度を上げていく、ふいごを使って風を送ると炎が燃え上がり、グングン温度が上がっていく。


「欠片をまとめろ!」


 シゲは親方に言われた通り欠片を熱した。熱され溶けていく金属の欠片は実に美しい。オレンジ色の熱塊が炉の中で踊った。


「練りあげろ」


 シゲはオレンジ色の金属を鍛冶屋バシ(熱した金属を挟む箸)で持ち上げ金床(熱された金属を置くための場所)に移した。


「そこでねじれ!!」


 シゲは鍛冶屋バシを使って金属をねじりながら欠片をまとめ上げようとした。最初は石のようになっていた玉鋼の欠片が一つにまとまり新たな金属として生まれ変わっていく。シゲは親方に言われるまま何度もねじる作業を繰り返した。


「よし、打つぞ!」


槌を右手に持ち左手の鍛冶屋バシで挟んだ金属を叩くと黄金色の火花が工房に咲いた。


「そのまま続けろ」


親方はシゲの様子を見ながら的確に指示を出した。


「強く叩いても意味ねぇぞ、一定の間隔と強さを保て」


シゲは親方の言われた通り、リズムよく金槌をふるった。


「そうだ、焼きを入れながら鉄の状態を感じろ!」


シゲは金床でうなる金属の状態を肌で感じながら心鉄をくるむための皮鉄を打ち上げた。


「心鉄で一番重要なのは粘りだ、硬さじゃねぇ。そこを忘れるな!!」


 シゲは心鉄を仕上げ、熱した皮鉄でくるんだ。この作業の良し悪しで刀剣の質感が左右される。シゲは慎重すぎるくらいに気を遣った。


「ハシで持ち上げながらくるむんだ……そうだ、それでいい。」


親方のヨヘイは全身汗みどろになるシゲを厳しい目で見つめた。


「よし、いいぞ」


ヨヘイがそう言うとシゲはその場に座り込んだ。


「今日はこれで終わりだ、ゆっくり休め」


こうして初日が終了した。


                      *


2日目は太刀を叩いて成型する作業からはじまった、工程でいえば5番目にあたる。


「叩け、叩け、リズムだ、叩け!!」


 親方は小気味のいい合いの手でシゲの叩く作業を手助けた。最初はたどたどしかった動作も叩くうちに連れ徐々に様になってきた。シゲは必死になって槌をふるうよりもタイミングよく叩いたり、強弱をつけるほうが効果があることが分かった。


 だが成型、特に刃の形状を整えるのは難儀であった。飲み込の遅いシゲは何度も親方にドヤされた。


「何度、言ったらわかるんだ!!」


 ヨヘイは拳を上げようとしたが、何とかこらえた。弟子を殴るのは親方の専売特許と職人の世界では言われるが、それにさほどの意味がないことを過去の経験から悟っていたからである。


ヨヘイに睨まれたシゲは恐れおののいたが、中途半端に仕事を投げ出せば親方はもっと厳しく叱責するだろう。シゲは必死になって作業をやり遂げようとした。


                      *


 正直まともに仕上がったとも思えないが親方の指示通りの形にはなった。気づくと既に夕方になっていた。


「マズマズだ、今日はこれで終わりにしよう」


2日目の作業が終わるとシゲの腕はパンパンに張り、肩は動かすこともできなくなっていた。


親方は鎮静効果のある薬草をすりつぶすと手拭いに包んだ。


「風呂に入った後、これを巻いて寝ろ。明日の状態が全然違う。」


シゲは言われた通り手拭いを肩と二の腕に巻くようにして眠りについた。


                         *


 3日目は昨日、成型した刀剣を研磨する作業だ。下研ぎという作業で『焼き』を入れる前の重要な工程になる。


親方曰く『ここですべてが決まる』とのことだ。


 この作業はシゲにとって最大の難関になった。刀の部位により研ぎ方が変わるだけでなく、その形状に合わせ角度と強さを調整しなくてはならない。シゲはこの塩梅がどうしてもわからなかった。


『親方の研ぐところは毎日見てるのに、これだけうまくいかないなんて……』


シゲは自信を喪失した。


「シゲ、この作業は経験の裏打ちがねぇとどうにもならねぇ。上手にやろうとか、きれいに削ろうとかしても刀は答えてくれねぇんだよ。」


親方は刀がまるで生きているように話す。


「とにかくやり切れ、そうとしか俺には言えねぇ……」


                         *


 どれほどの時間が経ったのだろうか、なんとなくの形にはなっていたが、それが適正なものかどうかシゲにはわからなかった、そんな時である親方が立ち上がった。


「焼き付けに入るぞ」


 親方はそう言うと工房の奥に行き魔晶石の入った箱を持ってきた。そこには粉末になった複数の魔晶石があった。親方はそれを升に入れて計った。


「これを俺の言った通りに振りかけろ、いいな」


 シゲは親方の指示通りに刃を熱すると升に入った魔晶石を少しずつ振りかけた。刃が赤く輝いた、しばらくすると橙色、そして黄色に変化した。


「緑になるまで続けろ、それが終わったらもう一度、魔晶石の粉を刀身に振りかけるんだ」


シゲは言われた通り、刃が緑になるまで待って再び魔晶石を振りかけた。


「緑からしばらくすると赤に変わる、それまで熱し続けろ。」


 すさまじい熱さであった、先ほどとは比べ物にならない、緑から黄そして橙色になった。先ほど逆の順序で刀身が輝いていく。さらに温度が上がる刃は赤く輝いた。


「よくやった」


親方がそう言うや否やシゲに限界がおとずれた、シゲはそのまま意識を失った。


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