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第十三話

26

「討伐隊に選ばれたんだって?」


三人の中で一番背の高い黄制服がヨイチの胸ぐらをつかんだ。


「何で俺が落ちてオメェが受かってんだよ!!」


シゲの班にいて全く調理に役立たなかった黄制服がイラついた表情で凄んだ。


「成績あげる気満々じゃねぇか」


もう一人の黄制服が後ろに回りながら話しかけた。


「俺たち出し抜いて白から黄色になる気なんだろ」


 以前に刃物を出して威嚇した生徒が退路を塞ぐ。ヨイチの逃げられる方向は北側だが北側は土壁に囲まれているだけでなく人通りの全くないところだ。3人はそれを見込んでヨイチを追い込もうとしていた。


「位階を上げたいよな、将来つける仕事が違うもんな!!」


 貴族の位階は紫を頂点としてその下に青、赤、黄、白、黒の階級が存在する。それぞれの階級には絶対的な垣根があり位階によって越えられない壁が存在していた。

 だが黄色以下の階級は学業の成績や仕事の業績によってその階級が変わることもあり、努力次第では下級貴族でも黄色の階級になることは可能になっていた。


 3人は同時にヨイチを蹴り上げた。むこうずね、太もも、ひざ裏、いづれも急所を狙っていた。


「見廻り組に入れば成績にプラスの評価だ、それを狙ってんだろ!!」


 3人組はしゃがみこんだヨイチをさらに蹴り上げた。見えない死角に入っていることもあり3人の暴行はエスカレートしていく。貴族の世界に深入りする気はなかったがあまりの執拗さにシゲは悪い予感がした。


「お前に位階を上げられるとこっちは困るんだよ、オラ!!」


三人はよってたかってヨイチを袋叩きにした。すでにヨイチの表情はうつろになっている。


『どうして、ヨイチさんは抵抗しないんだ……』


素朴な疑問が脳裏に浮かんだがヨイチの体は悲鳴を上げていた。


『死んじゃうぞ…』


3人はヨイチの髪をつかんで引きずるとさらに奥まった死角へと姿を消した。


『マズイ、これマズイって…』


 このままほっとけばヨイチがどうなるかわからない。助ける義理はないが目の前で嬲られている人間を放っておくこともできなかった。


 そんな時、サモンとイオリがヨイチの近くを通りかかった。シゲはとっさに大声で嘘をついた。


「サモンさん、そっちにノノさんが!!」


サモンの目つきが変わった。


「どっちだシゲ!!!!」


「北の土壁のほうです。」


 サモンは制服の佇まいを整えると、大きく深呼吸してシゲの指摘した方向に向かった。その顔はいつになく凛々しい。ノノに会うためにこれ以上ない演出をしていた。


『サモンさん、すいません。そっちにノノさんはいませんが……』


 シゲは機転をきかしサモンをヨイチのほうに誘導した。心中うまくいってくれればよいと思ったがその後どうなるかはシゲには見当がつかなかった。


                       *


午後の授業だが、サモンとイオリは教室にいなかった。


『やっぱり、ヨイチさんの件で…』


シゲがそんなことを考えていると講義の終わりごろ、サモンとイオリが教室に入ってきた。


いぶかしい視線を講師は二人に向けた。


「お前たち、遅れた理由を言え」


答えたのはイオリである。


「昼休み、ちょっとした事案がありましてその目撃者として事情の説明をしておりました。」


「ちょっとした事案とは何か?」


「暴行です」


クラスの全員がイオリに注目した。


「お前はどうだ?」


講師はサモンに質問を振った。


「右に同じです。」


講師は二人をじろりと見た後、席につくように言った。


                       *


 講義はそのまま進み、試験範囲の説明をしてから終わりを迎えた。そのあとシゲが見廻りに向かうための用意をしているとイオリと目があった。


「ヤミカジ、ちょっとこっちに来いよ」


シゲが廊下に向かうとイオリは斜に構えて声をかけた。。


「お前さぁ……」


イオリは言うや否やシゲの胸倉をつかんで壁に押し付けた。


「嵌めただろ!」


シゲは沈黙した。


「バレバレなんだよ、サモンは騙せるかもしれないが、俺はそうはいかないんだよ!!」


イオリは切れ長の目でシゲをにらんだ。


「平民が貴族を使うとはいい度胸してんじゃねぇえか!」


 シゲはマズイと思った。親方からも貴族の諍いには何があっても口出しするなと言われている、殴られるのは覚悟した……


だが、そうはならなかった。急に何もなかったかのようにイオリは手を放した。


「まあ、いいか、多少は講義もサボれたし……あの白貴族も……」


イオリはそう言うと話題を変えた。


「そう言えば妖魔が出たんだって?」


「はい」


シゲは反射的に答えた。


「やっぱりな」


イオリは笑った。


「えっ?」


「カマかけたんだよ」


「そんな……」


シゲはてっきりサモンが話したとおもい頷いてしまった。


「これでアイコだろ。」


さすがにシゲはマズイと思った。


「心配スンナ、このことはサモン以外にはしゃべらんよ、妖魔が出たことを平民に知られればまずいからな」


そう言うとイオリは颯爽とその場を離れた。


『マズイ、ばれた…』


 このことを報告すべきか否かで迷ったがとりあえずサモンだけには言っておこうと思った。



 シゲは身支度を整え見廻り組の活動に従事するべく講堂に向かった。そこにはすでにサモンがいた。


「サモンさん、あの……」


「イオリにばれたんだろ」


「はい」


微妙な空気が流れた。


「まあ、遅かれ早かればれてただろうけどな、あいつ頭イイかんな、さっきあいつに会った時、お前にカマかけたらゲロったって」


シゲは沈黙した。


「本隊がヒノエ村から帰ってきたらわかることだし、まあ、いいんじゃねぇの」


そんな会話をしているとノノが入ってきた。


「昨日は驚いたな」


「はい、びっくりしました。まさが死骸が出るとは」


サモンはノノに話しかけられ声のトーンが180度変わっていた。


「声が大きいぞ、サモン!」


「すいません」


「ところで今日はやるのか?」


「何をですか?」


「一発芸だ」


サモンとシゲは顔を見合わせ沈黙した。


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