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第十二話

24

サモン班の3人は帰る学舎までの道すがらさきほどの事を話し出した。


「サモンさん、妖魔の遺体ってどんな感じだったんですか?」


「野犬みたいだったな……牙は生えていたが……でも、デカかったな、あれ…」


「妖魔は犬や猫に憑くと言われてる、お前が見つけた妖魔はそれではないだろうか?」


ノノが会話に入ってきた。


「でも死んでるんなら、大丈夫なんですよね」


「下等な妖魔は憑依した宿主が死ねばそれで消える。問題ないだろう」


「まだ、ほかに妖魔はいるんですかね?」


「わからんな……」


ノノの悩む横顔を見てサモンは呆けた表情を見せた、


『ああ……すごくいい、ノノさん、めっちゃ綺麗だわ、悩むノノさん最高だわ…』


「何だ、サモン?」


「いや、何でも…」


 サモンが悟られないように答えたとき、シゲの目に黒塊がうつった。背中に槍を背負っている。


『あれ、あの侍は、うちに槍の研磨を頼んだ……なんでこんな所に』


 妖魔の遺体が見つかった貴族の別邸からかなり近い、シゲは黒い侍に不審なものを感じた。


                         *


家に帰ると仰臥していた親方が囲炉裏の火をおこしていた。


「親方、俺がやります。」


「いや、いい。多少は動かんと…」


親方の体調は相変わらずといったところだが、回復に向けて体を動かしていた。


「飯はどうしますか?」


親方は少し考えてから立ち上がった。


「久しぶりに外に出るか」


親方の一言で二人は半年ぶりの外食に出かけることになった。。


「何か食いたいものはあるか?」


 半年前、シゲは3人でウナギを食べたことを思いだした。シゲの学舎入学とルリの奉公が同時に決まった門出の時である。


 炊きたての白米の上に載ったかば焼はえもいわれぬ匂いを振りまいた。甘辛く味付けられたタレは微塵のくどさもなく固めに炊かれた白米に吸い上げられていた。口にかば焼きと飯を運んだ時の感動は今もって忘れがたい。


シゲは即答した


「ウナギがいいです」


「いいのか、天麩羅やカモ南蛮でもいいぞ」


言われたシゲは心が動いた。


「天麩羅か……どうしよう」


シゲは一瞬悩んだが、親方の様子を見て妙案が浮かんだ。


『ウナギの油は病み上がりならきついだろう、うどんにしよう。あそこなら天麩羅もある』


                       *


 こうして二人は街で人気のうどん屋に入った。イリコでとった出汁の香りが店内から漂ってきた。シゲは海老天うどん、親方はきつねうどんを頼んだ。


「親方、実は話があるんです」


「何だ?」


「妖魔が出ました」


親方の目の色が変わった。


「バカ野郎!!」


元気な時なら殴られていただろう、親方の顔は閻魔のようになっていた


「妖魔の話はここでするな。普通の人間にとって妖魔は恐ろしいものだ。」


と言ったものの親方もシゲの話には耳を傾けざるを得ない、ヤミカジとしての習性だ。親方は周りに客がいないことを確認するとシゲを促した。


「話を続けろ」


シゲはうなずくと今日あった顛末を話した。


「妖魔の死骸か…」


「犬のような獣に憑いました。」


「守備隊の連中は何て言っている?」


「大学校の研究機関で分析するそうです。」


 そんな時である、エビ天うどんときつねうどんが運ばれてきた。2匹の大きなエビが澄んだイリコ出汁のうどんの上に鎮座していた。ごま油でからりとあげられた天麩羅は食欲をそそった。


 一方、親方のきつねうどんは甘辛い油揚げがどんぶりいっぱいに載せられていた。別の小皿にはたっぷりのおろしショウガが添えられている、ショウガでキレをだし、油揚げの甘さをおさえるためだ。


「とりあえず食え」


 病み上がりの親方は全部食べられないと思ったのだろう、うどんの半分をしげのほうによこした。


「明日からの見廻りはどうなる?」


「普通に続けるそうです」


「そうか……」


「前にお役人の人が来てましたけど?」


シゲは先日、朝早くに訪れた役人のことを尋ねた。


「ああ、妖魔が出たという知らせだった。あの段階では何とも言えなかったが……妖魔の死骸が出たならもうおそわれることはないかもしれん」


親方はうどんの出汁を飲み干した。


「これで一件落着になればいいけどな」


「あの……親方はサヨ師範の薙刀をうったんですか?」


「ああ」


気のない返事であった。


特にこれということはないように聞こえたが、何か微妙な感じがした。


「あの薙刀は業物だが……扱う人間次第で……まあ、いい、俺たちカジヤにはあまり関係ない話だ。」


 親方は会話を打ち切った、余計なことを聞かないほうがいいと思ったシゲはそのまま海老天を頬張った。出汁に浸かった衣がちょうどよくふやけ、揚げ立てとは違ったうまさがあった。



25

翌日、シゲが出かけようとすると薬湯を飲んでいた親方が声をかけた。


「シゲ、ちょっと待て」


 親方はそう言うとフラフラした足取りで箪笥の所に向かった。まだ体調は万全ではないようだ。回復するにはもう少し時間がかかるとシゲは思った。


「これを持って行け」


 親方は引出しをあけると何やら見たこともない字の書かれた半紙をシゲに渡した。


「万が一に備えてだが、もし、妖魔に襲われたらこれを破り捨てろ。そうすれば一時的だがその場をしのげる。」


「これは何なんですか」


「よくはわからん。えらい宮司さんが書いた札らしいが……とにかくその時は破れ、そうすれば妖魔の目をくらませることができる。」


シゲはそうしたことはないだろうと思ったが一応大切に扱おうと思った。


「それ、かなり高価だからな、気を付けて扱えよ!」


シゲは親方の言葉を受けて学舎に向かった。


                      *


中年講師の話は熱を帯びていた。


「嘉悦帝の行われた数々の施作はことごとく成功した。まさに奇跡に近い。かつては妖魔に襲われ恐怖にうろたえていた人々も自信を取り戻した。人間の精神というのは甚だ不思議なもので活力というか、前に進む推進力というか、そうしたものが生まれた時の行動というのは実に力強い。」


幾何学の講義のはずがいつの間にか妖魔学に変わっていた。


「精神衛生上、恐怖という感情は極めて悪い。だが妖魔を倒す術を見つけた人々は恐れる心を反転させ力に変えた。街道や近隣の村に跋扈していた妖魔を追い出し、日々の生活が送れるように獅子奮迅の働きを見せた。戦いは長きにわたったが我々はとうとう勝利をつかんだ。」


 中年講師の顔は高揚していた。話のうまい講師ではないのであくびをしている生徒もいたがシゲは耳を傾けていた。


「だが、妖魔を倒すうえで一番の契機になったのは魔晶石の研究が発展したところが大きい。特に魔晶石の分析が進みその効果が分かってからは妖魔討伐が飛躍的に進んだ。まさに奇跡だな。」


 シゲはヤミカジの果たした役割にほとんど触れない講釈に気に食わない所もあったが


『世の中そんなもんだろう』


という思いもあった。貴族は自分たちの業績が平民の手により担保されていることを当たり前だと思っている。ヤミカジの創る武具なくして妖魔の撃退はかなわなかったわけだがその辺りには触れない、それが貴族の狡さである。



 こうして午前の授業は終わった。シゲは例のごとく握り飯の包みを持って庭に出た。雲行きが段々と怪しくなり授業後の見廻りのときは雨になりそうな気がした。そんな時である、ふと数名の生徒が目に入った。


『あれは……ヨイチさん…』


例のごとく黄色の3人に追われていた。




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