第九話:再
~テンの家の中~
門を抜けると、そこには日本家屋のような建物がこじんまりと佇んでいた。門と比べると、はるかに迫力は欠けるが凛々しさは負けていなかった。周りには、針葉樹や広葉樹の赤色の葉で彩られた鮮やかな木々が日本家屋を取り囲むように立ち並び、縁側の方には小さな池がある。
「テン!今日も俺が、居鯉に餌をあげていいか?」
カイトがすでに池の方へ向かって歩き出し、それの途中で今思い出しかのように振り向き質問してくる。居鯉とはなんだろうか。たぶん鯉のことなんだろう。別にかまわない。
「ああ、いいよ。あげて。」
「ほんとか!じゃ、あげてくるな。」
「私もいく!」
二人が池の方へいくので、僕もついて行かざるを得ない。なにせ、この世界の文化が謎なのだ。あまり下手な行動をとれない。
「そうだテン、エサってまだあった、って!うぉっっっ!」
「どうしたのカイト、・・っっ!!!!!」
大きな声が聞こえたので、二人に近づいていくと、二人の目の前に木からぶら下がった逆さま女性がいた。彼女は、たしかカエデという名だったはずだ。なぜここにいるのだろうか。
「はーびっくりした。急に出てくるから、驚いたー。・・・おねーさんは、なんでぶらさがっているの?」
「カイト。質問違うよ。なんで、テンのうちにおねーさんはいるの?・・・泥棒?」
「泥棒とは、ご挨拶だね。くっくっく・・・そうだね、この恰好じゃしょうがないか。ちなみに、ぶら下がっているのはあたしの趣味かな。えっと、あたしがここにいるのは、テン君を追いかけていたからさ。驚かしてあげようと思ってね。」
「え、テンと知り合いなのか?」
「知り合いだよ。今日僕が倒れているときに話しかけてきた。」
ぶら下がりながら、カエデは体をゆらゆら揺らしている。楽しいのだろうか。
「・・・なんであなたは、テンを追いかけていたの?」
「なんで・・・か・・・いろいろ理由があるんだけどね。あたし、壱の里の忍で、里交換制度利用してこっちの勉強してるんだけど、そのついでに蒼い目一族の子が有望だったら壱の里に引き込めって言われてるんだよね。それのための、観察が目的かな。」
「なかなか正直に言うんですね。引き込むなんて。」
「うーん、まあ、どっちにしろ勧誘と思うし遅いか早いかの問題でしょ?それなら早い方にするのがあたし。まだ、実力が未知数だから何ともいわないけど。それに、里が何考えてるかあたし知らないし。」
「テンはやらないぞ。俺の友達だからな。」
「うん、テンはあげない。」
前にいるカイトとアヤは僕をかばうように、手を広げる。肉体は今子供だが、精神的にはこの二人よりも数年年上なのだが、こうかばってもらうとうれしいものがあるな。
「くっくっく・・・仲良しなんだね君たち。うちの里ではありえないね。安心して・・・別に今すぐ、連れてくわけじゃないよ。滝行でのびてるようじゃ、まだまだだしね。そうだ、話は変わるんだけど君たちラワード物語っていう絵本は知ってる?」
彼女の目が少しだけ、細くなる。人間の行動に気を使って生きてきて、多少の違和感に気づくようになってしまい、些細なことに敏感になってしまう。
それにしても絵本か。知っているわけがないな。
「あぁー!ラワード物語かー!俺はよくよんでもらったぞ。な、アヤ?」
「うん、私は空中散歩の話が好き。」
「そうそう、そのラワード物語。絵本の中では、一番有名だね。君たちは、その絵本の原本って知ってるかい。特に、テン君。うちには、たくさん本があるらしいけど。」
「なぁ、おねーさん。げんぽんってなんだ?」
「そうね、例えると、卵焼きの卵焼きが本だとしたら卵が原本かな。」
「ふーん。よくわかんない。」
「やっぱり?だよね。ま、いいよ、でどうかなテン君。君はわかるでしょ。原本の意味?見たことある?」
カエデさんは、体を揺らすのをやめて聞いてきた。もちろん、僕にわかるわけがない。ラワード物語すら読んだことがないのだ。どうしようもない。