第八話:走
授業の終わりの鐘の音が聞こえ、カイジ先生とカイトとアヤは帰りの支度をはじめる。
「それにしても、テンのご先祖ってすごい人たちだったんだな。俺にもすごいってわかるってことは、すごいことだ」
「うん。テンのうちはよくいくけど、知らなかった。」
「そうだ、今日もテンのうち行っていいか。もしかしたら、テンの親父さんとかーちゃんに会えるかもしれないし。」
カイトは隣にいるアヤと話していたが、勢いよく後ろにふりかえり僕に目を合わせてきた。行ってもいいかと聞いているが、その顔はもう行かせてもらうのは当たり前だろと語りかけている。そうだな。自分の家がどこかわからないし、一緒についてきてもらおう。
「・・・いいよ。今日うちに来ても」
「ほんとかっ!うーん、なにして遊ぼうかなー」
「テン!もちろん私も行っていいよね。本読ませてもらいたいし」
「かまわないよ」
「・・・よしっ。」
「遊びの約束をするのもいいが、クナイと手裏剣の修行は怠るんじゃないぞ」
「「はーーーーーーい」」
「・・・はい」
「では、・・・散っ!」
ぼんっ
カイジ先生は、両手でいくつかの印を瞬時に結んだかと思うと、<散>の掛け声と煙とともに消え失せた。
「でた、カイジ先生今日も影分身だったのかよ。気づかなかったーー」
「さすが、陰遁の上級忍術・・・でも、カイジ先生は私たちにみせたいだけ・・」
「ま、今度こそ見破ってやるがな!よし、テンのうち行こうぜ!テンの家まだ、探索しきれてないからな。今日も探検だ」
「私は本を読むのがいい・・・」
「さあ、それじゃテンのうちまで競争な!よーいドン」
「あ、ずるい。」
二人が走り出すので、道がわからない僕もそれについていくしかなかった。
~テンの家の前~
「よっしゃーーー!俺が一番っーーー」
「はぁはぁ、・・・カイトはずるしたから、私が一番で、テンが二番・・・」
「なにっ!どこをずるしたっていうんだよ。」
「・・・開始の時に、先に走り出した」
二人が喧嘩しているところに少し遅れて到着する。はじめは、ぎこちない走りだったが、この体が覚えているのか、徐々に走り方が変わっていき前の二人と同じペースで走れるようになった。腕をほぼ振らない走り方が一番しっくりきた。これは、以前よんだ本の中にあった忍者走りだとすぐわかり、思ったよりも走りやすく、速度は出ないが安定して走ることができた。忍者は刀や他の忍具をたくさん身につけて走ることが多く、ガタガタ音がしたり物に当たったりすると敵に発見されやすいため、荷物をおさえて走ると本には書いてあった。読んだときは、変な走り方だなと思ったが、自分が走ってみると、腕を振らないことにより体がぶれないし、少し重心を低く空気抵抗を少なくしているためかそんなに疲れない。
「お、テーン・・・やっと追いついたか。まちくたびれたぞ・・・それにしても、テンの家の門はすっげぇよな。」
「うん。何度見てもすごい。」
二人は、首をこれでもかと上に向けて門を見上げている。僕も、遠くから大きさは確認できていたが、近くに来てみての大きさには驚かされた。高さは15mほどで横が10mほど。赤茶色の門には、荘厳な龍が右手に錫杖を持ち片手では印を結んでいて、尻尾は泉の中に隠れている様子が描かれ、その龍の周りには魔法陣のような模様が描かれていた。圧倒されるような迫力の中に、包み込むような優しさが感じ取れる不思議な絵だった。
「おーい、テン。自分の家の門に見とれてないで入ろうぜ」
そういうとカイトは、門の脇にある小屋のドアから家の中に入っていき、僕とアヤもそれに続いていった。