第七話:蒼
手のひらが少し緑色になっている。ジンバ草の葉の表層部が手のひらについたというよりも、絵の具で薄く緑色にぬったような感じだな。でも徐々に消えかかって元の肌色になってきた。そろそろ、普通の手のひらといっても申し分ない色にはなったと思う。何が起きたのかはまったくわからないが。
「なんでしょう。こんな現象見たことないですね。うーん、これがテン君の蒼い力なんでしょうか・・・」
「あの、先生。先ほどから言っている蒼い目一族とか、蒼い力とかは何なんでしょうか」
ぼろが出そうで、質問は控えめにしていたが、思わず質問してしまった。
「あれ、テン君は両親から聞いて、・・・いや、あの方たちは忙しいか。そうだね。常識として知っておいた方がよいね。カイト君とアヤ君もきいておいて。授業の一環だよ。」
僕の両親は、忙しいのか。両親か。僕は、その人たちにどんな対応をするんだろう。実際は僕の記憶的には、初対面なわけだからな。両親との距離感は、記憶が少ししかないのでまったくわからない。それにしても、このカイジ先生はいい先生だな。教科書をもっての授業だが、それにこだわらず実験をやったり質問の内容を授業に組み込んでしまう。こんな人が担任だったら、学校へもう少し長く行っていたのかと考えてしまうが、どうしようもないな。
「そうだね。蒼い目一族ってのは、単純に目が青い一族のことを言うんだ。ほら、テン君も目が青いだろう?」
「えー、テンはそんなに青いか?」
じー
カイトとアヤは、僕の顔を、いや、僕の目をのぞきこんでくる。
「あーー、ほぼ茶色の目だけどすこーしだけ青い部分がある!!」
「ほんとだーーー!!」
二人が驚きの声をあげ、驚きの表情をする。すばらしいリアクションだなこの二人は。
「そう、その目を持っている一族を蒼い目一族というんだけど、目が青いだけじゃそこまで特異性はない。蒼い目一族が、その名を広めたのは特殊な能力があったからだ。」
「特殊な能力?さっきの、テンみたいなことが起こることか?」
「うーん。そうだね、あれもそうなるのかな。蒼い目一族はそこまでその能力はすごいわけではないんだ。明日の天気がわかるとか、動物の言っていることがなんとなくわかるとか、ジンの流れが視えるだとか個性とよばれる類のものもあるのかな。」
「へー、じゃあなんでそんなに蒼い目一族は有名になったの?」
「理由は、大きくわけて二つかな。その能力をうまく駆使したことと、個性を認めたことかな。」
「個性を?」
「そう。まだ大陸が一続きだったころ、今でいうパンゲリア大陸から蒼い目一族は、我々が住むジャルニカ大陸の地方へ移住してきたという。これは、諸説あるので曖昧だが、これが大まかな見解なので勘弁してくれ。当時、まだ我々忍は激しい戦争状態だった。そこに、移住してきた蒼い目一族の居場所はなかった。だが、特殊な能力を駆使してするすると忍の里に溶け込んでいった。ほんとに、溶け込んでいったと表現せざるを得ないほどいざこざが文献を見るあたりないのが不思議なんだよね。」
カイジ先生は、世界地図を黒板をつかって描いていく。大まかに大陸が二つに分かれているらしい。大きい方は、ヨーロッパ、アフリカ大陸北・南アメリカ大陸全てがつながってさらに、焼き増ししたような形をしている。これはそう見えるのでそうとしか言えない。大きい方の上に、象形文字のような文字が書かれている。見慣れない文字だが、その意味はわかった。パンゲリア大陸と書かれている。脳内で日本語として変換されるのではなく、自然とその文字の意味がわかった。これは、不思議であるが、よく考えてみると言葉が通じるのも不思議だ。この体の脳に蓄積されている情報が、僕に理解させているのだろうか。そして、小さい方の若干細長い蛇のような大陸がジャルニカ大陸らしい。
「蒼い目一族は、我々忍の里に馴染み、そのころからか戦争は終結に近づいて行った。蒼い目一族が何か行動をしたのかしてないのか謎ではあるが、影響は間違いなくあったであろう。そこからは、みんなが知っての通り、十傑の里が組織されたり、アーリーの暗黒時代を経験してその後大陸分断事件があり、今に至るという感じだね。ここらへんの、歴史事実は今度試験に出すから覚えておいてね。」
「うわー、出た―。こういう風に急に試験をにおわすのはせんせーの悪いところだよ」
「私も、カイトに同意・・」
「試験はあるんだから、範囲を言ってるだけありがたいと思ってよね。」
カイトとアヤの抗議をうけ、苦笑しながら説明を続ける。
「大陸分断があってから、また土地の所有権を巡って戦争状態に陥りそうになったが、各里のトップの会談、十傑会議のおかげで戦争は起こされなかった。この裏には、蒼い目一族がいたとされている。前提として、蒼い目一族は表舞台に姿をあまり現さないんだよ。そういう点では、忍よりも忍らしいといえるね。彼らも今やれっきとした忍だが、過去には迫害や差別もあったらしい。だが、それらの被害に耐え、学び舎を組織したり各里に蒼い目一族を少数ずつ配置して、各里の仲を取り繕ったりとしてるうちに、彼らは忍の組織に欠かせない存在となっていったんだ。」
カンカンカンカン
いいところで、授業の終わりの鐘の音が聞こえた。