第四話:魔
カエデが去ってから、10分ほどが経った。10分でわかったことは、自分の体の身体能力である。小学生の体だからか、軽い。今まで、家にひきこもっていて運動していなかったので、体の動かし方ましてや走り方、ジャンプの仕方など忘れていたが、この体には問題ないらしい。久しぶりに走る感覚、地面の反発、どれもがこの体では新鮮に感じる。これは、生まれ変わったようなものなのか。
体を動かした後、また大きな樹の下に座る。数分たってみて、これはまぎれもない現実だと実感する。もう一度現状の把握をしてみる。この体になる前は、何をしていたんだっけ。蔵へはいり、本を戻し、本を何冊かもってかえる。いつも通りの行動をしただけだ。何か変な点はなかっただろうか。・・・変な点は、あった。そうだ。<変>で分類された本棚の一冊だ。あれは、おかしい。あの本を読もうとしてからの記憶がない。ほんとにぷっつりと切れている。あの本は怪しすぎる。<怪>の本棚にいれておくべき一冊だ。とりあえず、あの本を開いてから何かが起き、この体になりこの場所にいるという現象が起きているわけだ。この事実に変更はない。本の世界にでも入ったのだろうか。・・・わからないことが多すぎて、頭が変になりそうだ。
「おーい!生きてるかー?」
森の中から、はじめに出会った少年たちが帰ってくる。
「今日のクナイ投げの修行きつかったー!500投も投げてたら、腕がいかれちまうよ」
「カイトは、全力投球しすぎなんだよ。もっと力ぬいてなげないと。うん。」
「おい、テン。動けるなら里に帰るぞ。隣の里近くに、魔物がでたらしい。下忍は、避難だそうだ。」
少年と少女は、ずっとそんな調子で話し込んでいる。その二人の、監視役の青年が僕に近づいてくる。
「あの、魔物って?・・・」
「あぁ、ハングリーベアーが出たらしい。上忍レベルじゃないと、対処しきれんから、避難だとよ。中忍の俺でもいけると思うんだがな。だめだと。たかが魔物だろって思うんだけどな、過保護だよなうちの里。壱の里と弐の里では、下忍のうちから、魔物を倒させるらしいってのによ。ま、上の命令だからよ、帰るぞ。」
魔物。なんとファンタジーな単語か。忍者もいるし、魔物もいるのか。とんだ世界に僕はいるようだ。
「四の段の修行をやめて、今日はみっちり座学を下忍どもはやるんだとよ、しっかりな。」
「えぇーーーー、座学かよーーー」
「座学とかそんなに好きじゃないな。」
「とりあえず、移動だ。行くぞ。テンは動けるか?」
「いえ、まだ頭がくらくらするのでちょっと・・・」
移動か。先のカエデの移動方法から、この少年たちも特殊な移動をするはずだから、動けるが念のため動けないというかたちをとっておこう。
「それじゃ、テンはタツ兄におんぶしてもらっていくんだな。おれは先に行くぜ!ひゃっほーーーう」
「ちょっとまってよカイト。こけるよーーー」
カイトと呼ばれた少年は、急にかけだしてそのあとを少女が追う。
「元気だなあいつらは。ったく。よし、さあおんぶしてやるよ、乗れ。」
青年が、しゃがみこみ、早くのれと催促してくる。華奢な体だが、大丈夫なのだろうか。
「なんだ、俺じゃ頼りないか?いっとくけど、俺は中忍だぞ。お前なんか背中にのせたって、なんら変わらん。」
いわれるがままに、背中にのる。
「しっかりつかまってろよ!」
青年は一言だけ告げると、猛スピードで走り出す。何もいわれずに、力をぬいていたら振り落とされるところだった。バイクよりも早いのではないだろうか。さらに、森の密集地帯に入ると樹の幹を地面のようにのぼりはじめるのだから、しっかりつかまっていないと身の危険をひしひしと感じる。
「はっはー、あいつらもうあんなところにいやがる。」
少し先の地面を樹の枝の上から見下ろすと、少年と少女が走っているのがみえる。
「先について驚かせてやる。おら、テン。もっとしっかりつかめ。」
そういうと、青年は樹の枝から飛び出していくのであった。