第二十話:派手
~中忍の儀 三日目 夜~
「じゃ、作戦通りに。僕が風下から巻物をとりに行くから、二人は風上から蜘蛛をおびき出すかどうにかしておいて。あと、一応刺激草を焚いておいて」
「おう、わかった。気をつけろよ」
「うん。テン、気を付けて」
カイトとアヤの二人とは、別行動で僕が巻物を取りにいくことになった。カイトでは、忍び足がうまくできずに音を出してしまうだろうし、忍び足がうまいアヤは万が一何かあってはまずいと僕とカイトで反対したら、最終的に僕ということになった。
まずは二人に刺激草をたいてもらう。ツーンとした刺激的な匂いがする草で、焚くとさらに匂いがきつくなる。二人は風上で匂いに当たらなくていいが、僕は被害を直接受けることになる。忍者っていうのは、そういうものに耐えなくてはならないんだな。
(その前にある程度の距離は近づいておくか)
僕は常に行っている忍び足をさらに慎重に行いながら、徐々に蜘蛛の巣へ近づいていく。
(そういえば、昨日他の里のやつらはこいつらと戦ってたがなんで巻物をすぐにとらなかったんだ?実際、目もいいし耳もいいし鼻もいいから近づくのは容易ではないと思うが…そもそも、まだ巻物を視認していないじゃないか…どこにあるんだろう…魔物の巣とはいっていたが、あの蜘蛛の糸で網状にはりめぐらされた巣に入るというのは非常に困難だな。ちょっと、早計だったかな…)
(う、……匂ってきた…これは、きついな…)
蜘蛛の巣の端っこほどに侵入していた僕の鼻に刺激的な匂いがしてきた。もうすでに、蜘蛛の巣の中に侵入しているので忍び足ではなく犬足で四つん這いになりながらゆっくり進んでいく。
蜘蛛の巣は、木々をロープほどの大きさで粘着性がある糸と頑丈で粘着性のない糸の二つを利用してつくられている。巣は高いところにあるかと思いきや、胸高ほどの高さに水平につくられている。普通の蜘蛛は、垂直につくることが多いと思っていたが、この魔物の蜘蛛は別のようだ。水平に数百メートル網目状に糸がはられていて、常に四つん這いで歩いて行かなければならない。
こんな歩き方しないよって、カイトが修行中文句を言っていたがやっぱり必要だ。
粘着性の糸か、どちらか判断できないのでできるだけ触れずに巻物を探し出さなければならない。
ガサガサガサ
巣の糸が揺れて動き始めた。
おそらく、蜘蛛が匂いにつられて動き出したのだろう。
この匂いは確かにきつい。
ガサガサガサ
音が徐々に離れていく
予想通り匂いの風の経路から逃げようと、離れているのだろう。つまりは、この刺激的な匂いの風の経路をたどっていれば、僕は安全だということだ。この匂いをかぎ続けるのはきついが。
四つん這いで歩きながら、巣の中央に近づいていく。
巣の中央には、巻物が置かれていた。よく、あの蜘蛛が破壊しなかったな。気にしないものには関与しないのかな。
僕は、巻物の真下付近まで犬足で進んでいく。
(よし、あとはこの巻物を取ればいいだけなんだろうが、粘着性の糸だと面倒だ。それに、無理にはがすと糸を揺らして居場所がばれてしまう。ん、揺らせばいいのか。)
僕は名案を思い付く。
落ちていた大きな石や枝を数個拾う。これらを、巣のあちこちに一気に投げつけてひっかけるのだ。僕の投擲能力が試される。遠くになげないと蜘蛛に感ずかれてしまう。クナイや手裏剣を投げてもいいが、いざという時のためにとっておきたい。
ヒュンヒュンヒュン
適当に石や枝を放り投げていく。
(景気づけに音も派手に立てておくか)
さらに、懐から段雷とよばれる音だけの花火を取り出し火をつけ石と同じようにできるだけ遠くに投擲する。
ダダダダダダン
花火の音とともに僕は、蜘蛛の巣の下から巻物付近の糸をクナイで切ろうとする。
が、うまく切れない。
そこで火遁の印を結び手のひらから火をだし、糸を焼き切る。
(忍者の印は、別に結ぶだけだから楽だな。)
うまく糸を焼き切り、なんとか巻物を手に入れた。
結局音を派手に使うテン君。
忍者としては、まだまだですね。