第一八話:盗聴
~中忍の儀 一日目夜~
「伍の里のやつらになんで寝床なんてやったんです?」
「そうですよ忍者崩れの里のやつらなんかに!あいつら煙玉なんか投げやがって!…力づくでも情報聞き出せばよかったじゃないすか!」
「いや、少し気になることがあってな。あいつらの中央に顔がまったく変化してない奴がいたろ?」
「あぁ、確かにいましたね。隣二人がギャーギャー騒いでたんで余計に冷静に見えましたよ。」
「あいつ蒼い目をしてたろ。あれは
ザザーッザザザー
あいつは警戒に値するやつかもしれん。」
「あいつがですか?そこまでモウリ様ほどギラギラしたもんは感じませんでしたけどね。」
「ふむ、そうなんだが。」
「ま、モウリ様。あいつらのことなんて
ザザザ
で早くこんな儀式終わらせてやりましょうよ。情報も手にはいったことですし。」
「そうだな。壱の里に負けたくはないからな。」
「えっと、確か魔物の巣があるのは”捌の里”のやつら曰く頂上付近…もう行きますか?」
「いや、それはできない。まだ伍の里の伝を解読していないからな。ん?…おい、ザラキ…なんだそれは?」
「はい?」
ザザザっ
ザザ
「おい、ザラキそりゃくっつき草じゃないか!こんなものこうして」
ザザザっ
「おい!トラっ待てっそれをよく見…
ザザ
「こうよっ!!」
ザザザザザザ――――――
~テイネル山 とある洞窟~
「なぁテンまだかよーー?」
「カイト五月蠅いよ!今テンは集中してるんだから。」
カイトとアヤはさっきから同じような問答を繰り返していた。なんとか聞こえたからいいものの。
「終わったよ。」
「おぉ、終わったかー!!とーちょー!!で、どうだった?」
「向こうの代表格に怪しまれたがなんとかいい情報が聞けたよ。」
カイトは胡坐をかき、体をゆすりながら僕のほうをニコニコしてみている。さきほどから、地面に敷き詰められた草を両手でもちあげたり散らばしたりと楽しそうにやっている。洞窟の中は案外快適で、7畳ほどの広さに草が敷き詰められていて寝転がると気持ちいい。これらは、参の里のやつらがやったのか、元々こうだったのかは知らないがありがたい。
「さすが、テン詳しいこと教えて」
アヤは僕が術を使っている時には、カイトが悪さしないように見張っていたがそれも終わったのか僕の方に近づいてきて、カイトと同じように胡坐をかく。
「途中で捨てられたから、そこまで詳しいことは聞けてないけど、魔物の巣の在り処は聞けたよ。」
「おぉぉー、で、どこなんだ?」
「おそらく、山の頂上付近だろう。ま、なんとなく予想はついてたけど。」
「頂上かー。さっさと登る?」
「カイト、さすがにそれはないよ。もう夜だし。」
「うん。今日は一応ある程度の食料を確保するためにがんばったから休んだ方がいいね。」
「そうか…」
アヤと僕でたしなめるとカイトはしゅんと落ち込む。そんなに早く頂上に行きたいのか。
「それにしても、テンの忍術はすごいね。盗聴?なんてできるなんて。」
「おう、テン。実際あれは何してたんだ?」
「僕の蒼い力と、忍術を掛け合わせて声を聴いてたんだ。いくよ、見てて。」
僕はそう言いながら、両手で酉の印と寅の印を結ぶ。
「風遁、風聞」
「お、それ俺もしってる!できねぇけど!確か、周りの声を聴くやつだったか?」
「そう、これはただジンをつかって忍術をつかっただけ。ちなみに僕が聞こえる範囲はせいぜい3m。これなら、普通の耳で聞こえる範囲の方が広い。笑えるよね。でも…」
僕は敷き詰められている草の一つを取ると、両手にジンを集中させる。
すると、両手から透明な空気の膜のようなものが少しずつ湧き出てくる。よく見なければ何が起きているのかわからないだろう。
「なんかでてきた。」
「うん。でてきた。」
カイトとアヤはじっと僕の手を見つめている。
「これが僕のジンみたいなものかな。忍術の塊というか…んー、実際僕にもまだわかってないけど。」
「いいから、続き続き!」
「そうそう!」
カイトとアヤは続きを急かしてくる。
「うん。続きね。えっと、それでこのもやもやは今、”風聞”の性質をもっているんだ。これを、この葉っぱに纏わせる。」
僕は手に取った葉っぱに、この透明な空気の塊のようなものをべったりと付けていく。丹念に纏わせていく。
「これで完成だ。よし、僕は一旦洞窟の外にでるから。この葉っぱの近くで好きなこと話しててよ。」
そういって僕は、アヤに葉っぱを渡す。
~洞窟の外~
(よし、そろそろいいかな)
「風遁、風聞」
~~
「これ、ほんとに聞こえてるんのかなテン。」
「どうだろ?なんかじゃあ、キーワード言おうよ。何がいいかな?」
「そうだなー、じゃ俺が決める!!えっと、……キーワードは…」
「待って、カイト。そんな声大きいと洞窟の外でも聞こえるかも」
「わ、わかった。……」
「こ、これくらいか?」
「うん。大丈夫だと思う。」
「じゃ、キーワードは”草売り爺さん”」
「あぁ、あの話面白いよね。」
「今ぱっと思いついたんだよ。こんなのキーワードなんかにしないよな。」
「うん。いいと思う。よし。」
「「テーン、もういーーよーーーー」」
キィイィィィン
洞窟の外にいる僕に向かって大きな声を出すものだから、近くで声を盗聴していた僕には大音量だった。もう少し考えてほしい。
~洞窟の中~
「お、きたなテン。ん?どうした耳なんか抑えて?」
「…なんでもない。」
「そうか、じゃ聞こえてたのか問題な。俺が言ってたキーワードはなんでしょう?」
「…ラワード物語の”草売り爺さん”だろ」
「せいかーい!!」
「すごーい、本当に聞こえるんだ。この葉っぱ!」
カイトとアヤは二人して、様々な方向から葉っぱを見ている。
「この技術には問題があってね。よく見ると違和感に気づかれちゃうところなんだ。もっと薄く纏えればいいんだけど。なかなかうまくいかなくて。」
「いやいや、それでもすごいよ。これ。」
「テンは、なんか…」
「なんか?…」
「大きな技できないけど、うまいな。」
「確かに。まだ、中忍忍術一個も覚えてないのに強いもんね。」
なんかそういわれると照れるな。
「あ、ちなみにこの蒼い力は秘密にしてね。」
「「え、なんで?」」
二人がまるで事前に合わせていたかのように声をそろえて尋ねてくる。さすが双子だ。
「まだ、大人の人たちにはいってないんだ。いろいろ、話聞かれるのも面倒だし。壱の里のカエデさんもいるし、話題にさせるのは困るんだ。」
「ふーん。わかったよ。」
「そういえば、タツ兄にも詳しいこと言ってなかったもんね。わかったよ。あたしたちだけの秘密ね。」
「そういうことでよろしく。」
この後、明日の予定や魔物の能力の予測を立てながら一人ずつ休憩していった。