第十六話:開始
ダンさんに巣を作る魔物の情報をもらった。その内容を小屋の中で、僕たちは解読しようとしている。
「だから、陽遁では倒しにくくて隠遁なら倒しやすいってことだろ。」
「うん、それで足音たてたらだめ。」
「あと、風に身を任せろってのは風遁もつかえってことなのかな。わからないこともあるけど、有益な情報をもらったよ。これで、少しやりやすくなったね。二人とも荷物は大丈夫だよね?」
「おうよ、ばっちし。」
「うん。大丈夫。」
「それじゃ、そろそろ・・・
カンカンカンカン
鐘の音が広場に響きわたる。これから下手したら一週間山の中で過ごすわけだ。まずは焦らずに進んでいかないと・・・
「よっしゃーーー!いくぞーーーー。」
カイトは鐘の音を聞いたかと思うと、すぐに小屋を飛び出して木々が生い茂った森の中へ入っていく。それに、僕とアヤはやれやれとした顔をしてついていく。
~数分後~
「ちょっと、カイト待ちなさいよ。」
「なんだよ、さっさと魔物倒しちまおうぜ。」
「そんな簡単に倒せるわけないでしょ。ったく、テン、まずはどうしようか。」
「そうだね・・・」
アヤがやっとのことでカイトを止める。あたりは樹しかなく、緩やかな斜面になっていて、地面は落ち葉が敷き詰められていて音がなるため忍者としては好ましくない。
「そうだね、まずは樹の上へ移動しよう。地面を走っていたら魔物に会うかもしれない。」
「魔物なんて、倒せばいいだろ。」
「倒せばいいんだけど、まずは方向性を決めよう。やみくもに走りまわっても疲れるだけだよ。」
僕は、腰に巻きつけていた鉤縄を取り出し、勢いよく振り回すと遥か高い上にある木の枝に括り付ける。それを手繰り寄せるようにして、周りの樹を用いながらリズムよく登っていく。それについてくるように、カイトとアヤも登る。
「二人とも大丈夫?」
「おう。」
「うん。」
「よし、じゃまずは休める場所の確保。さらに、食料の確保が重要だ。」
「魔物探しじゃねえのか?俺たち、情報もらってるしすぐに終わるだろ。」
「いや、あのタツ兄だって三日間かかったんだし、まずは安全と食料の確保は最低限必要だよ。」
「うん、そうだね。野草や野獣もいるみたいだし、他の里もいるんだから早めにとっちゃったほうがいいよね。」
「アヤの言う通りだ。これは、僕たちの修行ではなく他の里との競争でもあるんだ。」
「なるほど、早い物勝ちなわけか・・・っと、テンあぶねえ!!」
カイトは、急に枝の上で立ち上がり僕の後ろへクナイを投げつける。僕が、あわてて振り返るとそこにはクナイに貫かれた人の顔程もある大きさの蜘蛛がいた。まだぴくぴくしている。僕は貫かれたクナイをぐいっと抜き取り、目の前にあった葉っぱでクナイについた黄色い液体を拭う。そして、そのクナイをカイトへ返す。
「危なかった、丸蜘蛛だ。本でみたことがある。こいつの牙には、麻痺毒があるらしい。助かったよカイト。」
「いいってことよ。仲間なら当たり前だ。それで、どうするんだっけ?」
「あぁ、今みたいに魔物や野獣が急にやってくることもあるから警戒心は常に持っておくってのが大事だね。これは、僕にも言えるけど。」
「わかった。」
「えーっと、何を話したっけ。・・・そう、第一に食料の確保か。水源の発見と、野草と野獣を今日中にある程度確保したいね。で、第二に寝床。寝床と言えないまでも、多少安心して休めるところね。魔物の巣の捜索はあと回しだ。」
「なるほど、わかった。」
「うん。さすがテンだね。それじゃ、食料の確保をしながら、休める場所をさがすってことでいい?」
「いいよ。じゃ、そういうことで。隊形としては、攻撃と反射がいいカイトが一番前で回復役のアヤが二番目。それをまとめる僕が殿をつとめる感じで。・・・よし、いこうか」
こうして僕たちの中忍の儀は始まったのだった。