第十五話:情報
~テイネル山 中忍の儀 広場~
僕たちは、小屋を出ると広場に集まる。広場は、芝生が敷き詰められていて座るには申し分ない。すでに、広場には、八つのグループができていてそれぞれでご飯を食べたり、談笑したり、座禅を組んだりしている。八つのグループで円陣をつくっていたが、その間に二つの隙間があり、僕たちはそこに座り込む。
「よし、お前ら、すぐ中忍の儀は始まるらしいから、飯はたべておけ」
「めしっ!!」
「はい、わかりました」
僕たちは、もっていたおにぎりを出して食べ始める。おにぎりは、味噌をつけて炙ったものだ。これは、僕が自分でつくった。元の世界でも、よく食べていた懐かしの味だ。この世界でも、味噌があってよかった。醤油もあり、コメもあり、食事に関して言えば、そこまで苦労していない。見たこともない、植物や魚、動物を食べるときは、躊躇したがどれもおいしいので満足している。だが、全て和風で質素な生活しかできないので、物足りない部分があるが仕方ないだろう。
「なぁ、お前ら肆の里の忍だよな。中忍の儀がんばろうな。」
おにぎりを食べながら、カイトは右隣にいるグループに話しかける。ほんと物怖じしないタイプだよなこいつは。カイトのことは、無視して、ほかの連中をさりげなく観察する。壱の里の忍は、5人か。みんな座禅してやがる。どいつも微動だにしないな、だが集中しているのがここから見てもわかる。壱の里の教育が厳しいというのがよくわかる。僕も、たまにカエデから壱の里にこないかと催促を受けたが、あんなピリピリした環境へは行きたくない。壱の里以外は、大概談笑しているな。周りをぐるっと見渡す。どこの里も同じような実力だろうな。格別は、やはり壱弐参の里の連中くらいだな。
観察していると、やはり引率できている人たちの実力がなんとなく把握できる。観察していても、隙が見当たらない。存在感もあえて出していないのだろう、注意しなければそこらへんにいる青年となんら変わらない人ばかりだ。
うっ
なんだ、一瞬どこからか殺気というか見られていると感じた。壱の里の方から。前に座っているタツ兄も気にしていないところを見ると、僕の気のせいかもしれない。鋭い気配だけが、感じ取れた。なんなのだろうか。
「ほあい、ちゅうもくちゅうもくー」
観察や考え事をしていたら、全ての里が集まったらしい。中央には、杖をついたお爺さんが大きな声をだしている。
「ほあい、今回中忍の儀を取り仕切る<山の翁>じゃ。よろしくー」
パチパチパチ
パチパチパチ
お爺さんは一人で、杖を器用に動かしながら拍手をしている。それにつられて皆まばらな拍手をする。
「あのお方は、このテイネル山に数十年住んでいるという伝説の忍だ。例年、この儀の仕切りをやっておられる。俺の時代もやっていた。」
タツ兄が僕の方へ振り向いて、説明してくれる。
「ほんじゃ、儀の説明といこうかの。えー、まずはなんだったかな。・・・えー、一つ!死なぬこと。死んだら中忍にはなれんから注意するんじゃぞ。下忍でも対処できるほどの魔物しかおらんが、油断すると殺されるからの。引率の忍もついていかんので、全て自分たちで処理するんじゃぞ。・・・えー、二つ!巻物をとってくること。ある魔物の巣十こに、それぞれ巻物を置いてきた。巻物をこの広場まで持ってきたら、晴れて全員中忍じゃ。里対抗でもあるからの。がんばるんじゃぞ。・・・三つ!一週間以内に達成すること。できなかった場合は、もう一年下忍じゃ。あとの補足は、ダンにまかせておる。以上」
そういって、地面に杖をトントンと二回たたくと音もなくその場から煙のように消え去った。
「では、引き続き補足をこのダンがさせていただく。」
消えた広場の中央に、鋭い眼光をもちながらニコニコ笑っている青年が歩いてやってくる。
「補足として、人数の少ない伍の里と捌の里は有益な情報を与えることとなっているから、あとで私のところへきてくれ。その時に、他の里の者が忍術で情報を盗み聞きするのは禁止だ。午の刻に鐘を鳴らすのでその時より開始とする。それまでは、各々自由。では、散。」
ダンさんが言い終えると、それぞれの里のものは自分たちの小屋へ戻ったり、準備運動をし始める。残ったのは、僕たち伍の里と捌の里だ。どちらも、3人ずつしかいない。
「まずは、伍の里の者に問おう。君たちは、食料の情報と魔物の情報どちらがいい?」
ダンさんは、僕たちの方へかなり近づいてきて小さな声で尋ねる。
「えーっと、しょくりょ・・・うむぐぐ」
「ちょっと、カイトは黙ってて・・・テンどうする?」
「うーん、食料の情報は知識としてあると思うから、魔物の情報の方が有益だと思うな」
「そうかい、ではテイネル山にいる魔物の弱点十と、魔物の巣をもつ魔物の情報どちらがいい」
「それは、魔物の巣をもつ魔物の情報で」
「・・・わかった、一回しか言わないから心して聞けよ。」
「陽は難きで陰易し。足音ひとつで屍ひとつ。風に身をまかしてみれば、おのずと道は見えてくる。」