第十三話:背後
もう一度僕は地面に両手を置く。
「土遁、土聞!」
感覚をとぎすまして、両手から直接脳内に地面の上に誰がいるか把握する。アヤはまだ気づいていないらしい。さっき、いた場所よりも僕に近づいてきていて、後ろの方向に近かった。危なかった。
忍者のかくれんぼは特殊で、ただ見つけ出すだけではなく、隠れる方は、一旦隠れたあと探す方の真後ろに立つか、攻撃をあてると勝ちになるのだ。だが、姿を見られたらまけであるため、なかなか難しいのである。隠れるものと、探すものどちらも修行になるため、下忍の特殊修行法である。
「ん、こっちの方向にいるはずなんだけどな・・・」
僕はアヤがいた場所へ少しだけ足を運ぶ。
「なるほど、木の葉隠れか?・・・それじゃ」
僕は、両手を使い酉の印と亥の印と丑の印を結ぶ。上忍にもなると、片手でさらに素早くやってのけるから驚きだ。
「風遁、風おこし」
僕は、腹に空気とジンを吸い込むと一気に吐き出す。すると、目の前にあった絨毯のように重なった落ち葉たちが一斉に巻き上がる。この術は、身を隠すときに用いるがこのような使い方もあると本に書いてあった。よし、これでアヤもみつけ・・・
ひゅんっ
「おっと!!!」
手裏剣が前から僕の顔めがけて飛んでくる。落ち葉を引き裂く音が聞こえなければ、確実に当たっていた。顔を少しずらしてよけることができた。危なかった・・・。
「ちぇ・・・私の場所把握するの早すぎるよテン・・・」
巻き上がった落ち葉が全て地面に落ちると、そこには黒髪を後ろに結んだ可愛い中学生くらいの少女が腕を組んで仁王立ちしていた。胸はほんのり盛り上がり、大人の色気を花咲かせようとしているが、まだまだあか抜けていない顔と体型とのギャップに少し見惚れてしまう。
「ふー・・・アヤ見ーつけた。後は、タツ兄だけだ・・・だけど、まったく見当たらない。土聞の時にも察知できなかったし・・・」
「テン。何言ってるの?・・・もうまけてるよ。」
「え・・・」
アヤが僕の後ろに向けて指をさすので、振り返ると僕よりも頭一つ大きいにこやかに笑う青年が立っていた。タツ兄だ。全く気付かなかった。ずっと、後ろをとられていたのか。
「よっ、全員集まったみたいだな。そろそろ行くぞ、おーいカイト行くぞ。」
「おーう!!」
カイトが僕たちのもとへ走ってやってくる。カイトの速さは、僕たち三人の中では随一だが、幾分音をたまに立ててしまっているので注意が必要だ。
「さて、では伍の里の引率はこの上忍<トカチ タツ>が務めさせてもらおう。よろしくな。さっさと行って、中忍になってきちまえ。では、行くぞ」
タツ兄は、そのまま音も立てずに地面を歩き始めた。向かうは、テイネル山だ。
「おいテン!やっぱり、タツ兄は見つけられなかったか!俺が見つかった時からずっと、テンの後ろにくっついてたぞ」
カイトは、僕に笑いながら話しかけてくる。
「あぁ、そうなんだよ。僕の土聞の術にも反応なかったし。全く気配がなかったし、気配消しの忍術でもあるのかな。」
「そうなのタツ兄?」
アヤがタツ兄に首をかしげながら尋ねる。
「気配消しの忍術?・・・いや、使ってないよ。そんな術もあるらしいけど、俺はまだ会得してないな。それは、口伝レベルの忍術じゃないか?そんなものがあれば、忍者として完成してるも同然だからな。俺がお前らに見つからない技術は全て、忍者の基礎しかやっていないぞ」
「さすが、伍の里の最年少上忍だなタツ兄は!だが、残念おれがタツ兄の記録を塗り替えることになっちゃうけど許してな!」
カイトは、腕を頭の後ろに組みながらにこっとしながらタツ兄に言う。こいつの笑顔は、二年間何一つ変わらない。
「そうか、カイトは俺よりもはやく上忍になるのか。それはいい。それならまずは、音をたまに出すその歩き方から直した方がいいぞ」
「ん、えと、・・いいんだ。これは、常の足の練習だ・・・」
「カイト、言い訳は見苦しいよ。それは、常の足でもないよ。混ざってる」
「そ、そんなこと言うアヤはどうなんだよ。できるのか?忍び足!」
「うん、私はしっかりできてる。ね、テン?」
アヤは、アヤの右を歩く僕の方へ顔を向けると上目使いで聞いてくる。さらに、手を腰の後ろで組んでいるのもポイントが高い。これが<くの一>の技術か・・・。
「あぁ、アヤはできてると思うよ。歩き方でいえば、僕たちで一番上手なんじゃないかな。」
「だよね。ほら、言ったでしょ」
「ぐぬぬぬ・・・」
僕たちは他愛もない会話をしながら、中忍の儀の会場へ向かうのであった。