第十二話:隠遊
~修練の滝~
「ここはいつ来ても美しいな」
僕は滝をみて思わず声をもらす。この修練の滝は、僕がはじめ目を覚ました時にいた場所だ。数メートル上から落ちてくる滝の水を受け止めるのは尋常ではないが、もう二年もやっていたら慣れてしまった。滝壺の周りには、岩肌を削られながらもなお水しぶきを浴び続ける頑丈な白い岩がごつごつと存在をアピールしている。
二人がいるという滝壺の近くに足を運ぶ。
ひゅんっ
僕は、葉が落ちる音にまぎれてなった音に反応し、地面に伏せる。
ざんっ
目を向けるとクナイが僕がさっきまでいた頭の部分を通過し、樹に刺さっていた。伏せたあとは、音を立てないように忍者の歩き方の一つ浮き足で素早く近くにある樹に背中を預ける。
僕は、地面に落ちていた、石を三個拾い、そのうちの一つをクナイが投げられたと思われる方向に投げる。
がさがさ
しゅんっ
木の上を動くような音がする。これはわかりやすい。僕は、音が教えてくれる動く存在の方向を先回りして石を投げ、さらに同じ軌道でもう一つの石を投げる。
きんっ
「っうぉっ!」
その人物は僕が投げた一投目の石をクナイで弾き飛ばしたが、もう一個同じ軌道できていた石に気づかず面食らうが、体全体をひねってかわす。しかし、
すたんっ
「やられた、見つかったか」
その人物はバランスを崩して、地面に降り立ち僕に目を合わせる。
「よく、あのクナイに反応したなテン」
カイトは、声変わりをむかえ低い声で僕に声をかけた。それにしても、二年というのは大きい。カイトの身長は一気に、アヤを追い越し僕と同じくらいまで伸びていた。体格は、スリムであるが、筋肉がほどよくついて芯がしっかりしている。
「まあな。だがカイト、クナイを投げ終わった後は、その場を離れろって教わっただろ?」
「そうだったか?」
「ああ、それに音を出しすぎだよ。動く先がわかっちゃう。」
「それは、いまだになかなか直せないんだよなー」
「だけど、カイトこそよくあの最後の石をかわしたね」
「あぁあれか。びっくりしたけど体が反応するんだよ。」
「カイトには、なかなか一発当てられなくてもやもやしてるんだ僕は。・・・アヤもどこかに隠れているんだろ?」
「アヤもタツ兄も隠れてるよ」
カイトは僕の方をみてにやにやして答える。タツ兄が僕たちの中忍の儀への引率と聞いたけど、こんな時まで遊ばなくてもいいのにと思うが仕方ない。まずは、アヤをさがそう。
コロコロコロ
「ん?・・・おっと!」
ぼんっ
僕が先ほどまで立っていた場所で小さな爆発が起きる。
「お、アヤか?・・・どこから投げたかわからなかったな・・・それじぁあ」
僕は、寅の印と酉の印を両手で結ぶ。
「土遁、土聞!!」
両手を地面にぴったりとつける。これは、土遁の基礎忍術で土の声をきき、相手の居場所を把握する忍術だ。普通の忍なら、地面に耳を当てるだけで把握することができるが、土遁使いはそれの精度と範囲は桁が違う。しかし僕は、まだジンの使い方が甘いせいで数十メートルの範囲でしかわからない。このレベルならば、上忍が耳を地面につけた方が範囲は広いであろう。
「なるほど、アヤ見ーつけた」
僕は、またも地面に落ちている石を拾いあげてアヤがいる足音がする場所へ投擲する。
<まだみつかってないよ!!陽遁、照!>
アヤが居る方向を見ていたら、急激な光に目がくらむ。・・・これは、陽遁の初等忍術。まずい、逃げられた。
「忍者のかくれんぼとかかなり厳しいな・・・楽しいけど・・・」
僕は、まだ土遁のジンをすこし手に纏っていたのでそのまま土聞の術をつかう。こんな些細なことには、カイトは気づかない。普通はもう一度、同じ印を結ばなければならないが、僕の場合は居残りのジンを使って同じ術をつかうことができるのだ。これは、最近発見した事実だ。
「さて、どこにいる?」