第十一話:中忍
僕がこの世界に来てから二年が経った。初めのころは、寝れば元の世界に戻れるだとか、あの時見つけた本をもう一度見つけて読んでみれば戻れるだろうとか考えてみたけれど、そこまで元の世界に未練はなかったし、この身体に満足していた。
二年の年月は長かった。伍の里長の子供で双子であるカイトとアヤと、様々な修行をした。
忍者の基本の歩き方や走り方、体術、剣術、柔術、投擲術、潜入技術、変装術、心理術、天文学、薬学、栄養学、兵法など何からなにまで勉強した。今まで元の世界も合わせてたくさんの本を読んできたが、知らない知識や実際に体を動かしてはじめて理解できることなど発見があふれていた。
それぞれの教科の先生曰く、まだまだ下忍レベルでの修行らしいからこの世界の修行には驚かされる。
もちろん、薬学や天文学は僕の知識の方が優れていたこともあった。幸いに、この世界には太陽と月に準ずるものがあったし、薬学は知らない草での調合はわからなかったが、理解できてくると元の世界の知識で十分対応できた。
座学の授業では、僕は天才の部類だといわれていたが、当然だと思っている。
僕の家には、巻物や本、絵画など書物があふれていて、本の虫の僕には非常にうれしかった。僕の懸念であった、この世界での両親との対面はまだ果たしていないのが、少し残念である。両親という存在に触れてみたかったのだ。元の世界での両親との思い出は、スズメの涙ほどしかなく、自分がどう接するのか興味があった。だが、こんなにも子供と触れ合わないのかと興ざめしたのも確かだ。
カイトとアヤの家も、そこまで両親と仲よくしないと聞いて、忍者というのはそんなものかと曖昧に納得したのを覚えている。
下忍の下段だった僕たち三人は、二年で下忍の上段まで上がった。リストバンドの色は、水色に変わっていた。
下忍の上段になって一番よかったのは、ジンの修行がはじまったことだ。
それまでも、経験したことのない修行をして、楽しかったが、ジンの修行は楽しかった。
基本の十二の印を覚えることから始まり、火遁、水遁、風遁、雷遁、土遁、陽遁、陰遁の下忍レベルの忍術の基礎を覚えることなど魔法のような技をつかえるのは夢のようだった。最初のころは、座学で基礎を学ぶ。火遁で例をだすと、火遁とは火を用いて隠れるということであり、火薬の調合や煙幕の効果的な使い方など、火に関する知識を問われそれらを習得したものが晴れてジンの修行もできるのだ。
カイトとアヤは自分の得意のジンの修行しかしていなかった。
カイトは、火・陽・雷。アヤは、陽・火・土。それ以外の修行は、座学のみ受けてあとは参加していない。全て受けていたのは、僕だけだ。僕は、すべて受けられて楽しかったが、ジンの習得という意味では二人に後れをとっていた。
カイトは、下忍でありながら火遁の中忍忍術を会得し、アヤも陽遁の中忍忍術を扱えた。それに対して僕は、全てのジンの忍術が下忍の中段レベルであった。
だが、僕には特殊な力があった。家で秘密裏に特訓していた、蒼の力だ。僕は自分の能力を、二年間かけて研究してきた。どうやら僕の能力は、ジンを纏えるということらしい。今はまだ両手にのみ纏えるだけだが、いつかは全身をジンで纏える時もくるだろう。これはまだ、だれにも見せていないのでカイトとアヤに見せた時のリアクションが楽しみなのは秘密だ。
そんなこんなで、今僕は中忍の儀という、中忍試験への会場へ行く途中であり、カイトとアヤを迎えに行く途中でもある。伍の里からは、三人のみの参加であるらしい。他の十の里もそれぞれ中忍試験へ出すらしいが、僕たちの里が一番少ない。各里での儀を受ける人数を合計すると、50人にもなり、その中の5分の1は試験に落ちるらしい。厳しい世界だ。
さらに、中忍の儀を行う場所は各里の中央にそびえたつテイネル山という、魔物が出る場所で行うらしい。魔物の知識は書物を読んで、調べてきたが、僕たちには少々厳しいと思っている。
とりあえずは、カイトとアヤが待つ滝へ行くことにしよう。