閑話1:空を歩く男
<空を歩く男>
あるところに
それはそれは大きな国と
大変きれいなお姫様がいました
その国の王様は
お姫様をそれはもう可愛がっておりました
王様はお姫様を可愛がるあまり
たかいたかい塔に
閉じ込めておりました
ですがお姫様は生まれたときから
その塔ですごしておりました
お姫様はたのまなくてもどんなものでもてにはいりました
きれいなドレスも
一年で一度しかとれない花びらも
光り輝く鉱石も
なんでもてにはいりました
お姫様にはそれが当たり前でした
あるとき
お姫様は国王にいいました
「お父様外の世界とはどんなところ」
国王様はそれにたいしてこたえます
「外の世界ならこの窓からみえるだろう
ここからみるかぎりは大丈夫だが
外の世界にはこわいことがいっぱいだ」
お姫様は外の世界には興味がありましたが
外の世界は国王のいうこわい世界でしかありませんでした
お姫様には自分のうまれた部屋がひとつの世界だったのです
一度おもいきって外にでたことがありましたが
お城のへいたいさんにすぐにつかまって
部屋へもどされてしまいました
お姫様はまいにちを
自分のへやですごしていましたが
なにかものたりないとも感じていました
そんなあるひ
お姫様が窓からいつものように
外をながめていると
奇妙な光景がみえてきました
なんと空を男が歩いているではありませんか
お姫様はびっくりして男にはなしかけます
「あなたはなぜ空をとんでいるの」
男はこたえます
「ここに大きな塔がみえたのでなんだろうと近づいてみたのです」
お姫様はさらにといかけます
「ここはわたしがうまれ育った塔です
それよりもあなたはどうやって空をとんでいるの」
男は不思議そうにこたえます
「わたしはただ空をあるいているだけですよ
あなたが歩くのとおなじように」
お姫様はかなしそうに男にいいます
「わたしはあなたと同じように空を
あるくことができません
外にもでたことがないのです
一度塔からすこしでたことがありますが
お父様につれもどされてしまいました」
男はいいます
「いいえ
あなたはりっぱな羽をもっています
いまにも外にはばたけますよ」
お姫様はこたえます
「いいえ
わたしには羽なんてありません
ここから羽ばたくことなど
できないのです」
男はくびをかしげてお姫様にいいます
「いいえ
あなたは外に羽ばたくことができますよ」
お姫様は泣きそうになって男にいいます
「わたしにはわかりません
ほんとうに羽なんてあるんでしょうか」
男はいいます
「はい
あなたは立派な羽をもっています
それがわかるまでわたしが外の話をしましょう」
お姫様はうれしそうにこたえます
「外のお話?
外の世界はこわいと聞いていたけれど
じっさいのお話はきいたことは
ありませんでした
はばたけるとわかるまで
おねがいします」
それからお姫様と男は
窓をとおして毎日たくさんのお話をしていきます
お姫様は男とあってからは
外の世界へ行きたいと思うようになりました
男のはなしがおもしろかったからです
そこでお姫様は国王様にいいました
「わたしをその世界へつれていってください」
国王様はそれにたいしておこっていいました
「おまえはこの部屋ですごしていればいいのだ
どんなほしいものでも
どんなことでもしてやろう
だが外の世界へはいかせんぞ」
お姫様はそのことを泣きながら男にいいます
「わたしは一生この塔ですごすことになりそうです」
男はここでも不思議そうにこたえます
「今にもあなたは羽をつかってはばたくことができますよ」
お姫様はかなしそうにこたえます
「そういってくれることはうれしいですが
羽なんてはえないですし
はばたくことなどさらにできません」
男はいいます
「あなたははばたけますよ
あなたはぼくに一言いえばいいのです」
お姫様はきょとんとしていいます
「一言ですか?」
男はこたえます
「ええ一言つぶやくだけで十分です」
お姫様は少し考えてはっとして男にむかっていいます
「わたしを
わたしを外につれていってくれませんか」
男は聞き終えると窓にはめてあった鉄格子をはずす
「わかりました
あなたの羽があなたをはばたかせましょう」
そういうと男はお姫様をだきかかえ外にはばたいていきました
そのあと二人は世界を回り幸せにすごしたそうです
おしまい