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第五夜
黒月は美桜の眠りが深いことを確かめるとその傍から離れた。
そして自分の家としていた人から捧げられた神殿から出て森深くの泉へと向かっていた。
そして着いた先には木々の間から木漏れ日が差し込む見ただけで清らかだとそう感じる開けた場所があった。
黒月はその泉に近づくことはせず遠くをただ遠くを見つめていた。
遠い遠い時の果てにおこった愛おしい記憶を辿っていたのだから。
そしてあまやかな声音で囁く。
「君は今私の腕の中にいる」
「だけれどどうしてでしょうか?」
「其れだけではたりないのです」
「この飢えを満たすことができない」
「美桜」
「はやく私だけのものに貴女がなればいいのに……」
愛しさと切なさ。そして切願が籠められた祈りの言の葉。
憂いげな其のかんばせは今はただ歪められている。
想いは今だ交差することはなくただ愛しさばかりか募るのです。
そして其の手は伸ばされるものの今は望むものをどちらもつかめないでいた。