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あの村

 汽笛の音が大きく聴覚の邪魔をした。小さな駅を降りて、去っていく電車が消えるまで見送った。

 隔絶された村に、緑川 静はやってきた。小さな駅は、そのまま本当に小さな駅で、電車から降りると、金網で囲まれているだけで、出口で入り口のアーチの下の階段を下りるだけだった。


「こんにちは」

 駅から降りると、エプロンをした女性が笑顔であいさつをしてくる。

「・・・・・こんにちは・・・・・」

 あまりに眩しい笑顔で静はたじろいだ。

「珍しいわね・・・・引っ越してきたのかしら?」

 静の顔をまじまじと見つめてから、手にしている大きな荷物に視線を移す。

「えぇ・・・・はい・・・・。緑川 静と申します。よろしくお願いします・・・・」

「ご丁寧にどうも。私は森川 歩よ。そういえば・・・・お家は?」

「あ・・・・えーと、すぐそこの・・・あれです」

 静は、はは、と笑って指をさす。そこには小さな家がぽつんと建っていた。

「あら・・・・そうなの。ここ電車の音うるさくない?もし良かったら、いつでも家に来て?海が近いわよ」

 森川と名乗るエプロンの女性は美しく笑った。

「え・・・あ・・・・・。ありがとうございます」

 引越しがそんなに珍しいのだろうか、静はそう考えて、では・・・・と話に区切りをつけると荷物を持って古びた小さな家に向かっていった。玄関のすぐ横に新しく塗られたポストが立っている。投函口に丸められた紙が入っていた。静はそれを抜き取る。

「・・・・地図・・・・・?」

 どうやらこの土地の地図らしい。ここの土地は規模が小さいため、一枚の大きな紙で収まっている。

「・・・・・男・・・・1人だけ・・・・?」

 個人情報保護というものがここには存在しないのか、地図にはその家に住む者の氏名、生年月日、性別が書き込まれている。静は誰か同年代の同性はいないかと思い、地図に目を走らせていた。ここに来て間もない。女子とあまり関わりの無かった静には同性の友人がいた方が心強かったからだ。住民は今のところ15人しかいない。しかも男は1人。生年月日から見ると自分と同じだが、学年はひとつ上。姉と二人で暮らしているらしい。

 女性が14人。男1人の15人。そして自分を入れて16人。静は溜め息をついて玄関の戸を開ける。

 家具は僅か。電気と古びた小さなテレビ、卓袱台。床はフローリング、壁は薄いピンク色の安そうな壁紙。一番安い家だった。文句は言えない



――――住民に挨拶行ってきた方がいいのかな・・・・・。


 静は荷物を床におくと、フローリングに横たわった。どこか手入れされている気がした。埃ひとつない。

 天井の模様を目で辿りながら、静は考えた。


 ピンポーン。引っ越す前までは聴きなれたインターフォン。こんな古い家にも付いているのかと感心しながら静は起き上がって、玄関の戸を開ける。戸に付いている大きめな窓は可愛らしい花柄の布で閉ざされていたため、訪問者を確認しなかった。

「きゃー!かわいい!」

「珍しいいい!」

 濁流に飲み込まれるように、玄関から流れ込んでくる女性。甘い匂いが鼻をつく。

「んなっ・・・!」

 顔に胸が押し付けられ、頬にすりすりと頬で撫でられる。

「柔らか~い!」

 数えると5人。

「歩ちゃんから男の子が引っ越してきたって聞いたのよ♪」

 静は自分に絡みつく女性を押しのけ、距離をとる。

「え・・・・・あ・・・・・?」

 頭に疑問符を浮かべ、静は尻餅をついたような格好で後退さる。

「ごめんね~緑川くん!」

 森川歩が顔の前に両手を合わせるようにして、笑って謝った。

「ほんと若い~!」

 森川歩含む5人は静をまるで動物園の人気な動物でも見るかのような目で眺めている。

「釘宮君はかっこいい感じだけど、緑川くんはかわいい感じね!」

「貴方たちは・・・・・?」

 静は恐る恐る訊ねた。

「あたし?あたしは小西悠!」

 明るい茶髪のショートカットの、赤いランニングを着ている女性が答えた。肌は小麦色で、運動が得意そうな印象を受けた。

「は、初めまして」

「悠ちゃんだけズルイ~!わたしはね、水樹有紗!よろしくね」

 ハニーブラウンの長い髪に、大きな瞳、ロングワンピースの上にデニム製の上着を羽織っている女性が小西の影から出てきてそう言った。

「ほらほら、困ってるでしょ」

 小西と水樹の間から割り込んでくるのは、太っているとは言えないまでもぽっちゃり体型の女性だった。この村に着いてから、森川、小西、水樹を見たが、彼女等は20代前半には見えたが、この女性はお世辞でも30代くらいには見える。

「あ・・・・初めまして」

「桜井よ。よろしくね」

 にこっと笑って桜井は静に手を差し出す。静は冷たい手を桜井に差し出した。

 これでここにいる人全員かと思ったが、そうでもないようだ。

「初めまして。緑川さん」

 つんつんとした口調の若い声。静はその声の主を見た。綺麗な金髪と青い瞳。外国人というよりはハーフに思えた。

「桑島・アリア・サトミよ。よろしく」

 どこか見下ろしたように話す、桑島。

「・・・・よろしく」

「どんくさいわね」

「これでも彼女、緑川君と同じ年なの。ごめんね」

 どういうつもりで謝ったのか、森川が後ろの方でそう言った。

「・・・・・え、そうなんですか」

 本音はケバい。同じ年とは思えない。というよりはフランス人形のようで、年齢という概念がこの桑島という少女にはないような気がしてならなかった。

「とりあえず俺、この釘宮って人に会いたいんですけど・・・」

 一番話しやすい森川にそう尋ねる。

「ああ、冷那レナ君ね。分かったわ、案内する」

 森川の発音に疑問を覚えた静は地図を広げた。

 その釘宮という男の名前は「冷那」。発音は「レナ」。あまり男にはいないような名前だ。もともと女性で男性になった、ということなのだろうか。


 静は緊張しながら、森川のあとを付いていった。

 


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