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「……幸せだったのかな、あいつ」

 ぽつりと漏らすと苦笑した風にラリーが答える。

「不幸な訳がないだろう?」

「何でだよ」

「君がいたからだよ。あの子は、幸せじゃなかったら自分から幸せになろうと努力する子だ。その子が一番いい笑顔を見せるのは君と一緒にいるときだった。不幸であるわけがないよ」

「そうか……」

 自分に関わらなければ彼女はこんなところで死んだりしなかった。

 だが、あの時彼女がマンシュタイン家に潜り込んで自分と出会わなければ、餓死していたかも知れないし、逆にもっと良いところに引き取られたかもしれない。悪い奴に嬲られたかもしれないし、違う人生を送れたのかもしれない。

 そう考えればきりがない。

 だから、彼女が自分といて幸せだったならそれでいい。

 少なくともそう考えなければ事実を事実として受け入れられなかった。

「なぁ、暫くオッサンの家に厄介になってもいいか?」

「構わないが……どういう風の吹き回しだ? 誘っても難癖付けて近づかなかったくせに」

「オッサンの家はマンシュタインの家を思い出すから嫌だったんだ。無駄に広くて、人が沢山いる」

 小さいけれど、二人で暮らす店舗兼自宅のウォールナットは居心地が良かった。多分それは彼女を捜し回る必要が無かったからだ。狭いけれど彼女を側に感じられる。だからあの家にいるのが幸せだったのだ。

「今は少し、一人になりたくないんだ」

 生まれて初めてそう思った。

 家にいるときは何もかもが煩わしくて、放っておいて欲しいと何度も願った。

 ここに来てからは彼女がいたから、いつか彼女がドアの向こうから顔を覗かせることを知っていたから、一人が寂しいなんて知らなかった。

 でも、もう彼女はドアを開いて中には入ってこない。

 うるさいのが帰ってきたとからかって、膨れた彼女に文句を言われたりしない。


 一人でいることが、こんなにも寂しいなんて初めて知った。


「うちは娘もいるし、会社の人間も住み込みで働いているのもいるから、君にとっては少しうるさいかもしれない」

 今はその位がちょうど良い。

「それでも良ければ、いくらでもいればいい。エリックは俺の大切な親友なんだから」

 エーリは彼の肩にもたれかかるように頭を置いた。

「………Ich danke Ihnen……」

 お前がいてくれて良かった。


 一人でいれば耐えられないだろう。

 彗星のようにほんの短い間で消えて無くなってしまった一人の女の為にこれから何年も苦しむのだろう。

 彼女の幻影に混乱し、取り乱すことがあるだろう。

 多分すぐには忘れられないし、立ち直ることも出来ないだろう。



 それでもいつか。




 いつか君の笑顔を思い出して懐かしいと笑える日が来ますように。







 君の声が、脳裏に響く。



『Ich liebe………Erich』(ボクはエリィのこと好きだよ)












 小さく、か細く、答えを返した。



「………Ich liebe Sie auch」(俺も愛してる)












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