第九章
キターーー!
さて、何がおきるのやら。
始まります! ……俺にとっては編集が……
トビラの先の部屋は広かった。
端から端まで50mくらいは十分にある。
本当はもっと広いんだろうけど、あまりに……部屋にあふれかえる物が多すぎた。
「悪いね。片付いてなくて」
ショウタさんにそう言われて、
「いやっ全然……あ、部屋、広いですね」
そう返したけど、もしかしたら顔が引き攣っていたかもしれない。
「すいませんね。片付いてなくテ」
その声はトビラ越しに聞いたものと同じ物だった。
初めから中にいたその男の人は、多分ショウタさんより若い人だと思う。
髪を両方ともボサッとはねさせて、汚れた白衣をきている。
顔はこちらに向けずに、さっきから資料に目を通している。
「はは、冗談だよ。コースケ」
ショウタさんはその男の人をコースケと呼んだ。
「まっ、汚いのは嘘ではないですし。そんなことより……見ましたよ、資料」
そう言いながら顔をこっちに向けて、資料をピラピラと振っている。
顔だちは良く鼻筋が通っていて、かつ頭が良い様にしか見えなかった。
俗にいう、インテリという言葉が良く似合う、と思った。
「その話の前に、自己紹介くらいしたらどうだい?」
「あ、そうですね。ボクの名前はコースケ。どうぞヨロシク」
いきなり自己紹介をされて、返す言葉を考えていなかった。
しかし、言われっぱなしも何か嫌だし、自己紹介を返さないなんていうのはどうかと思うので、
出来るだけ簡単に説明することにした。
「俺、じゃない……僕の名前はメグムです。よろしく~」
途中で噛んだ上に、妙に緩い自己紹介になってしまった。
……自己紹介的にはわりと酷い出来に入るだろう。
「別に俺でよかったノニ?」
と、小声でコースケさんに言われてしまった。
「自己紹介も済んだし、話に入ろうか」
そう言ってショウタさんは物の中から二つの椅子を引っ張り出して、
その一つを俺に座れるようにしてくれた。
「コースケは自己紹介のときに言わなかったが、ここは研究班。そしてコースケはここのリーダーだ」
「は、はぁ……?」
なんの研究をしているか聞きたいが、今は止めておこう。
座り終わるとコースケさんが、
「現場の状況からしておかしいことだらけだね。でも隊長のいう通りカイトの発言が加わって一つの可能性がでてくるのサ」
俺の前で話すってことはコースケさんが言っている現場とはショウタさんと出会った場所だろう。
でも他のことはわからない。
カイトは何て言ったんだ? おかしいってワタルがか? 悩んでいるとショウタさんが教えてくれた。
「すまないね。これはさっきの場所での出来事の話をしているんだ」
「それはわかったんですけど……。おかしいって?」
俺が聞くとショウタさんは、
「そうか。……なら、コースケ。出来るだけ、最初から説明してくれ」
とコースケさんに話をふった。
「うっす、わかりまシタ」
そう言って説明を始めてくれた。
「まず、君も……おかしいって思うこと、あったよネ。君と一緒にいた子の事とか、サ」
一緒にいた子……あぁ、ワタルか。
「ワタルの事ですか?」
「ふむ、ワタル君というのか。まぁそのワタル君が撃たれた事は本当なのかナ?」
「はい……絶対に、撃たれました。ワタルは、俺を庇って……。倒れたワタルを……抱えた時の、冷たく、凍えて、落ちるような……ッ」
思い出すと、余計に嫌だった。
なんだか、脳の底にこべり付くみたいに、記憶がそこにあって。
それに、ワタルのあのときの言葉が頭に響いて。
手にはわずかに消えゆく様な感触が戻るし。
俺の自分勝手でワタルは……ッ!
そのとき、コースケさんの口から一つだけ、、ポツリと言葉が放たれた。
「……でも、彼は無傷だった」
……無傷?
確かに、ワタルの傷は治っていた。
それは本当。
だけど!
決して無傷なんかじゃない。
ワタルは、確かにあの時、死にかけていた。
何を隠そう、俺が一番傍にいて見ていたんだ。
「無傷なんかじゃないですよ……! ワタルは、俺のことを守るために! 俺を……俺を庇って撃たれたんですから!!」
勿論、悔しさだって残っている。
今更どうにもならなくたって、自分を思い切り殴ってやりたくなる。
「でも、君も見たんだろ、傷が無かったことをサ。確かに服の紅はこんな世界なら色々な解釈ができる。そう考えたら撃った弾が彼にあたったかもわからないじゃないカ?」
……何、言ってんだ?
……この、人は……!
ふざけんのは、止めてくれ!
「ワタルは……っ! ワタルは、撃たれました!!」
「例えば、君の見間違いとか」
コイツ……見間違えるわけないだろ!?
俺は思わず席を立ってしまった。一歩、前に進む。
ワタルのやった事を否定されるのが、何より許せなかった。
「ワタルは俺に当たるはずの弾を、自分から当たりにいったんです! 初めて、自分から!自分の気持ちで……一歩踏み出したんですよ! それが……一体何の気持ちかもわかんないのに! 踏み出したんだ! 例え……それが間違った一歩だとしても……!」
踏み出した足にも、鉄をも砕くほどに力が入っていたため、少し前にでていたかもしれない。
そんなの、全く関係なかった。
今は、ただ、この言葉を。
それだけだった。
「ワタルが自分の足を動かして、俺を庇って撃たれた! これは……事実なんだ!! 誰にも変えられない真実なんだよ!! ワタルが初めて命を懸けて踏み出した一歩を!! 俺は誰にも……ッ! 否定はさせない!!」
言いたいことを言い切ると、その場が完全に無言になってしまった。
沈黙に包まれた状況で、俺は急速に冷静さを取り戻していった。
……良く考えると、もっと上手い言い方があったはずだ。
何も、怒鳴って言わなくても、良かったのかも。
「……悪かった。別に怒らせるつもりじゃなかったんダ」
そう謝られると、余計に自分が悪い気がする。
「いきなり……、すいません」
恥ずかしさもあって、頭を掻こうと右手を上げた。
顔の近くに来た右手が、グッと握られている事に気づく。
自分では気付かなかったけど、俺は両手を硬く握っていた。
硬く握り締めた右手を開く。
目に見える程かいた汗が、手の間接に流れている。
ワタルの顔が、手に浮かんだ気がした。
「……続きをいいカナ?」
コースケさんに聞かれて、手を見るのを止める。
「ハイッ。続きをお願いします」
答えた時に気づいたけど、ショウタさんは黙ってこっちを見ていた。
気のせいかもしれないが、少し笑っているように見えた。
「ワタル君が撃たれたのなら、何故か傷が治ったという事になるのカナ?」
「治ったんだと……思います」
変な話だけど、実際に治っていた。
「そうか……。なら、次の話をしようカ」
「えっ? 待ってください! まだ終わって……」
身を乗り出しそうになった俺の肩を、スッとショウタさんが掴んだ。
「すまないが……話を聞いてやってくれ」
俺はショウタさんにそう言われて、何も言わずに座り直した。
さっきから上手く進んでくれない話に少し嫌になる。
それでも何か分かるなら、話を聞こうと思った。
「ワタル君を撃った奴らがいたね。あいつらが動く時には理由があるんダ」
「理由? あいつらはいつも今日みたいな事をしてるんですか?」
「いや、いつも今日みたいに派手にやっている訳ではないよ」
ショウタさんが横から答えてくれた。
「あんな派手に動くのは……、隊員集めかな?」
……隊員集め? 違う。
あいつらは黒い石を探していたはずだ。
……そう考えると、ショウタさんも何のために動いているのかは分からないのか。
「隊員集めとは。何か……大きな事でも起こすつもりですかネ?」
「どうだろうか? そんな事にならなければいいが……」
なにか、さっきから違う事を話している気がする。
「違いますよ。あいつらは黒い石を探していたんです」
つい、話に割り込むように言ってしまった。
「「え?」」
二人はこっちを信じられない物を見るような目でこっちを見てきた。
「どっ……どうしたんですか?」
「、それは本当かい?」
ショウタさんが息を飲んだあと、一瞬置いて聞いてきた。
「本当ですよ。俺達があいつらの所に持って行ったんですから」
ショウタさんの目つきが変わって、睨まれるような感覚が俺に刺さる。
「……何故、そんなことをしたんだい?」
「あいつらがその黒い石を見つけるために、あの辺りを爆発させるって言ったからです」
睨むようなショウタさんの目が、スッと暗くなるのがわかった。
「クソッ……!! あいつら!!」
ショウタさんが初めて、喰らい付くように、そして吐き捨てるように言葉をはいた。
「ということはあいつらが手に入れたんですネ……」
コースケさんが諦める様に言った。
「手に入ってないと思います。あいつらが黒い石を手に入れても、結局爆発することに俺達が気づいたから渡さなかったんです」
俺がそう言うとショウタさんが顔を上げて、
「じゃあその石はまだあそこにあるんだね?」
と聞いてきた。
「ハイ……たぶん」
俺は投げてから石を見てない。
ハッキリとは言えなかったので、曖昧に返した。
「コースケ、私はメグム君とあの場所に戻る! 他の皆への報告を頼む! メグム君! 一緒に来てくれ!!」
「待ってくださイ!」
飛び出しそうなショウタさんにコースケさんの言葉が届いた。
「なんだ!?」
ショウタさんの声から焦っているのが伝わってくる。
「メグム君。君は多分って言ったね? 何で多分なんだイ?」
コースケさんが俺に疑問をぶつけてきた。
「その……ワタルが撃たれた時ムカついて。その石をおもいっきり地面に叩きつけたんです。そしたらその後探しても石がどこにも見当たらなくて」
コースケさんはショウタさんにではなく俺に話をしてきた。
「もう一つ質問。その石にワタル君が触れた可能性ハ?」
ワタル? 何で今ワタルの事を話すんだ?
「ワタルですか?」
「そう、ワタル君ダ」
そこでさっきまでそわそわしていたショウタさんが気づいたように、
「コースケ、もしかして」
とコースケさんに話しかけた。
コースケさんとショウタさんが、目を合わせるのがわかった。
何かを確信するような、しかし疑問の残る、そんな意味合いがその瞳から受け取れる。
俺はそんなことより答えないと。
そう思って、「触れた可能性はあると思います」と短絡的に答えた。
実際叩きつけた所はワタルから近かったし、確かにワタルは触れたかもしれない。
その答えを出すとコースケさんは、
「ワタル君の傷が治った理由がわかったかもしれない。話を続けるよ」
と言った。
ショウタさんもイスに座っている。
俺はワタルが治った理由が気になって、
「コースケさん! 早く話して下さい!」
とコースケさんを急かした。
不意に頭の中で、血だらけになりながら石に触れていたワタルが浮かんだ。
見てもいないのに鮮明に浮かぶ、ワタルの表情が心に刺さるようだった。
さて、次をお楽しみに!
次号を待て!
to be カムテュルー。
……なんか嫌な言い方になってしまった……
では、次で逢いましょう~。