第二章
第二章です。
手直しがしたいぜよ……自己満のために!
……わ……ざわ……
……どれくらい寝たのだろうか……。
手を目からどかして空を見る。空は相変わらず錆びた赤色だ。
どれくらい寝たかもわからないがこんな空をいつまでも見ていることも出来ず、もう一度手を顔に覆いかぶせる。
腹が減っていたが、もうどうでもよかった。ダルかった。
ざわ……ざわっ
ん……?
寝ぼけていて気がつかなかったが、大通りがうるさい。
人々が騒いでいるようだ。
こんな事滅多に無かった。
風化が始まってから人々は実に静かだった。
それこそ人々が滅びることを受け入れた様に。
騒ぎ立てても何も起こらない。そんな風に達観ているかのように。
実際、僕もここ最近言葉を発していない。
喋ったことといったらこの世界への不満だった。
人と話した記憶なんて、それこそない。
しかし、大通りは人の声でうるさかった。
がやがやという音が次第に大きくなっていく。
音が段々近づいてくる。
もうすぐでこちらにくる、と思った時
がさ……ッ、と。
声がしぼんでいった。
顔を上げようか、とさえ思ったが結局なにもしなかった。ダルい。
タッタッ!!
今度は小気味よく足音が近づいくる。
だからといって顔を上げるわけではない。ダルい。
「なぁなぁ!」
誰かに話しかけているのか……?
「なぁお前起きてんだろ」
……ん?
これはもしや……僕に話しかけてるのか?
今までに経験したことなど無かった疑問ができ、
それが気になり手を少しずらす。
「おぉ~やっぱ起きてんじゃん! そこで何してんの?」
どうやら僕に話しかけてる様だが、別になにもしていない。
ただここでうなだれていただけだ。ダルいんだ。もう、全部。
「もしかして! ビルの壁にネズミの住処みたいな穴を開けてネズミの気持ちになってみたとか!?」
……何をバカなことをいってるんだ?
そう思い、体が少し動いてしまう。
「おぉ動いた! そうだったのか! お前スゲー愉快だな! オレの負けだぜ!」
は……!?コイツは何をいってるんだ?
愉快なのはお前の頭だろうと思った。
だが動いて何か言ったらめんどくさくなる気がして黙っておく。ダルかった。
「ん!? しかもそこで寝ている!! スゲーよ。スゴすぎるよお前はもうネズミだよ!」
お……おい。何的外れなこと言ってんだコイツ!?
「もう誰もが認めるネズミだよ」
は……!?
「ネズミの王様ネズキングだよ!」
ちょ……!
「でもネズキングって名前が安直か……」
おまえ…………!?
「そうだ! ネズ公爵だ! ネズ公爵がいいよ! よっ! 天下のネズ公爵ー! フゥワ!」
自分の中で何かが弾けた。
「ちげーよ! なんだネズ公爵って!? 大体なんでネズミの気持ちになるんだよ!? 僕はアホか!」
すると奴は心底驚いた顔をして、
「えっ!? お前アホなのか!?」
とか言い出した。
「ちがうよ! アホなのはお前なんだよ!?」
「えっ!? オレはアホじゃないぜ! 何いってんだホントに愉快な奴だな」
「・・・・・・・・・・・・・・・ええー」
声が出なくなった。アホだ。こいつはアホに違いない。
「んっ!?どうした?」
「」
開いた口がふさがらない。口が動いてくれなかった。
「まっいっか! 早く立てよ!! こんなところで座ってても仕方ないだろ?」
「……は……?」
なんだか、その言葉を聞くと一気に自分の中で冷めるものを感じた。
凍えるように冷えていく心は、冷たく、今まで開くことの無かった冷たい口で、言葉を発する。
「別にどこいったって同じだろ」
冷たく、突き放すように。
そう、いい放ってしまった。まるで、前だけをしっかり見据え、突き進んでいく勇者を、蔑む様に、中傷する様に。
そして、嘲笑う(ねたむ)様に。
だが、
「どこも同じなわけ無いだろ! やっばりお前はアホか!?」
そう、言われた。
まるで、正しい事が分かっているかのように。
そして、正しい事が分かっているのに何もしない者を、叱るように。
「ハッ! ……ふざけるな! 分かってんだろ! 今はどこも……寄り掛かったくらいで! ボロボロ壊れるビルが広がってるだけだろ!! そんなの……!」
「それだけじゃ、ないだろ? 町には人がいる。その人達は、皆違う人だろ」
なんだか遠くを見つめる様に、透き通り過ぎてる目で空を見て、そういった。
「100人いたら100人違う、1000人いたら1000個の、いや・・・1000個以上の! 新しい事に出会える! お前だってその一つだろ」
そいつがそう言った時、風を浴びた気がした。
久々に。本当に久々に、この町に優しい風が吹いた。
「ほら、立てよ! 行こうぜ何かあるかもしれないだろ?」
「……あぁ……」
その時はそれしかいえずに、いつの間にか立っていた。
体が行きたいといっていた。
いや、僕の全てがそう疼いていた。
自分の狭すぎた視界じゃ見えなかった。まだ終わっていない世界を見たかった。
僕が歩を進めた時、
そいつは言った。ずいぶん小慣れた感じで、
「あっ! 名前聞いてなかった! 名前何?」
「僕の名前はワタル。そっちは?」
「オレの名前はメグム。よろしくな」
「ああ、よろしく! ところでなんで僕に話しかけたんだ?」
何気なく聞いてみた。少し、気になっていたのだ。
「えっ? ワタルとは仲良くできそうなオーラがでてたから!」
「なんだそれ」
妙に笑顔でそう言われて、僕はなんだか嬉しかった。多分この町で、初めて笑った。
それに大通りがうるさかった理由がメグムだったという事に気づいた。
ダルかった僕は、もうここには居ない。
世界を諦めてから初めての出会いは、うるさいくらい明るい出会いだった。
おお……最後がかっこいい。
珍しい……。