第十章
今回は早い!
頑張ったな菊田君!
ちなみに今回は菊田君によると、
「わりと色々変わるかも知れない回」
だそうです。
さて、どうなるのやら……
「まずあの黒い石の話をしようカ」
コースケさんが口を開く。
「それが……ワタルと、関係あるんですか?」
あの黒い石はたまたま俺達が運んで来た物だったはずだ。
そんな物がワタルと関係があるのか?
「あぁ。これはもしかしたらワタル君に……直接的に関係してくるのかもしれなイ」
「直接、的に……?」
じゃあ偶然持ってきた石がワタルに何か関係したのか?
だったら、ワタルとどんな関係が……?
関係があるとわかると、なぜだか嫌な気しかしなかった。
冷や汗か、俺の背中に服の端が張り付く。
仮にもワタルを撃った奴らが探していた物だ。
俺は、ワタルとそんな石とは関係があってほしくは、なかった。
あると、思いたく無かった。
「それは……ワタルの傷と、何か関係あるんですか?」
聞く。
あるいは、ありえないと思っていたからこそだった。
しかし、その希望は、
「僕はそうじゃないかと睨んでル」
一瞬でぼろぼろと崩れていった。
嫌だ、と思った。
よりにもよって、ワタルの傷と……
なら、多分傷を治したのもあの石なんだろう。
いや、多分じゃない。
あんな、一瞬で傷を治すなんてこと普通じゃできない。
つまり、ワタルの、もしくはあの石の理解できないような力が働いたんだろう。
ありえないとは思う。
しかし、現実で起きた事ならば疑う事も出来ない。
その得体の知れない虚無感が、心の中にもやもやと巣食う。
良く見ると、コースケさんの目つきがさっきとは違う。
ショウタさんに至っては落ち着かずに、さっきからずっと動いている。
たぶん本人は無意識だろうけど。
確信を得るため、俺はコースケさんに話を聞く。
「ワタルの傷……あの傷を治したのも、その石なんですか? もしくは、ワタルが?」
「僕のこの考えが正しければ、傷を治したのは間違いなく石だネ。それだけじゃなく、カイトが言ったことにも説明がつくんダ」
俺はまだカイトがなんて言ったかは知らない。
でも、たぶんありえないような事なんだろう。
あの石の事がなんだか分からない限り、結局他の事は何も分からないみたいだ。
つまり、
「石の事を教えて下さい」
ワタルに起きたことを知りたい俺には、この質問しか残されてないみたいだ。
なんだか、ワタルまでの距離がいきなり遠くに離れてしまった気がした。
俺はワタルの側で、ワタルに起きた事を全て見てきた。
そう思っていたのに、
今じゃ自分の目の前にいる二人にさえ、かなわない。
いきなり届かないとわかった距離は、あまりに遠く、苦しかった。
「はぁ……、クソっ」
ポツリと呟く。
頭を掻きながらついた溜息なら、どこまでも届きそうな気がした。
「じゃあ、今から説明をするヨ」
「……お願いします」
「最初に、あの石は地球の物じゃなイ」
と、いきなり突拍子もない事をいわれた。
「はあ」
俺はその言葉に驚き、思わず言葉を飲み込むような返事をしてしまった。
「君も知っているだろう。世界がこんなことになってしまった理由を」
あれ? もしかして危ない物じゃないよな。
「あれは……」
この考えが外れてくれるとどれほど楽か。
しかし、現実は時に厳しい。
「宇宙からの落し物。こんな世界になってしまった理由とされている物なんダ」
……完全に危ない物だ。
俺の予想は大当たりだった。
……軽く、泣けてくるくらいに。
「世界が風化を始めた時に、その落下物は調べられたんだヨ」
なら、その石がなんであんな所に落ちてるんだ?
「でもその時落下した場所にあった石はその一つだけだったんダ」
いや、探してくれよ……
「探すことも考えられたが、どちらかというと石を調べることに力を入れられたんダ」
だから、こんなことになったのか。
だけど、それならせめてこの世界になってしまった理由はわかったのか?
こんな世界に、なってしまった理由が。
「だが、結果は最悪。石も見つからずに、未だこんな世界になった理由はわからなイ」
結局わからなかったのか。本当に最悪じゃないか。
……しかし、今聞いた限りじゃワタルの事と関係があるようには聞こえなかった。
「それで……ワタルとの関係は?」
「それは最近わかったものと関係してくるんだが……」
コースケさんはそう言いながら資料をあさり始めた。
資料の中からファイルを取り出しページをめくって、
「これなんだけド」
と、グラフのようなものを見せてきた。
グラフは綺麗だった。
綺麗なくらい変化がない。
グラフは折れ線グラフと呼ばれる形だった。
これなら他のものと比較しやすいが、正直これじゃあ意味がない。
グラフは途中で切れていて、次のページに繋がっているようだ。
「これは、その石と、ある液体との反応を調べたものをグラフにしたんだヨ」
「あー、でも綺麗なくらい平坦ですね」
「いや、本当に見てほしいのはこの続きなんだヨ」
そのままコースケさんは
ページを送った。
「あ……」
一点だけ他から飛び出ているところがある。
飛び出ていると言っても普通のグラフで言ったら大した事は無い位だ。
それでもこのグラフで見ると、異様に存在感を放っている。
何という液体か確かめようと、点の下を見ていく。
「血液……」
「そうなんだヨ。他のどの液体にも反応はしなかったんだが、なぜか血液だけには反応したんダ」
なんで、血液なんだ?
「なぜ血液なのかはわかっていないんダ。それに、完璧に人の血液にしか反応を示さなイ」
でも、これでわかった。
なんでコースケさんが血のついた手でワタルが石に触れたかを聞いた理由が。
コースケさんは、石に血が触れたら反応を起こすことを知っていたからだ。
「そして、ここからがワタル君についてダ」
「はい! つまり、あの時にワタルが血のついた手で、その石を触ったってことですよね」
「確かにそうなんダ。だけど…」
そこでコースケさんは一拍おいたけど、俺には理由がわからなかった。
「実験で起きた反応にあんな物はないんダ! 今まで反応を確認できたのは専用の機械を使って、やっと気づくことの出来る程度の物なんダ」
「……えっ?」
じゃあ、……ワタルの、アレは何なんだ?
「僕達が調べてきた石の力が、ワタル君を通してわかるかも知れなイ」
その声は、俺にはあまり聞こえなかった。
唯一つ、
おい、ワタル……お前は、一体何をしたんだ……?
その疑問が、心を取り巻いていた。
なるほど……
ここからなにか変化が、というのはそういうことだったんですね。
さて、どうなることやら……
では!