ツンデレ令嬢はモフモフの犬にしか本音が言えない。実はその犬は、私のことを嫌いな婚約者でした!?
「グレン様っ」
私が声をかけると、婚約者のグレン・ミューケルトは面倒くさそうに私を見る。
今日は夜会にグレン様と参加していたが、姿が見えなくなって、探していたところだった。
彼は主催者の娘である侯爵令嬢と、親密な様子で何か話していた。
「また、他のご令嬢と親しげにお話なさっていたのですか?」
私が問い詰めると、まるでうんざりしたかのように大きく息を吐いた。
「エレノア、ただ挨拶をしていただけだろ」
「そ、それにしては、距離が近いのではありませんこと?」
「……俺を疑っているのか?」
グレン様の冷ややかな視線がこちらに突き刺さる。
「そうは申しておりませんわ。……それとも、何か心当たりがおありですの?」
「……君とは話にならないな」
彼はこちらを見ることなく身を翻し、この場から遠ざかっていく。
私たちはいつもこう。顔を合わせれば、皮肉ばかり言い合っている。
それは婚約が決まった二年前、十六歳の頃から変わっていない。
(どうして、いつもこうなっちゃうんですの……っ)
彼の後ろ姿を見つめながら、唇を噛みしめる。
私はグレン様に初めて会った時から、惹かれていた。
彼の金色に輝く髪も、エメラルドのような澄んだ瞳も、その落ち着いた話し方も、全て一瞬で私の心を捉えた。
(でも、グレン様は私のことが嫌いなんですわ……)
彼から注がれる視線や言葉は、いつも冷たい。だから、私も素直になれずに憎まれ口ばかり叩いてしまう。
私だって、他のご令嬢たちのように笑いかけてもらいたいのに。
「エレノア様っ」
一人残されてポツンと立っていると、声をかけられる。
「セリーナ様!」
彼女は王立魔術研究所に勤めている伯爵令嬢で、魔術や薬学を研究している。
少々変わり者で有名だが、裏表もなく、とても付き合いやすい。
「あらあら、ミューケルト様はまた行ってしまったの? エレノア様はまた余計なことを言ったのかしら?」
セリーナ様の容赦ない言葉が、胸に突き刺さる。
「うっ、セリーナ様……」
「ふふっ、図星?」
彼女は私の思いも、素直になれないことも知っている。
「他の令嬢とは話さないで、って可愛くお願いすれば、ミューケルト様も聞いてくれるのではなくて?」
「なっ……? 可愛くお願い……!? そ、そん……そんな恥ずかしいことできるわけありませんわ! ……それに、彼は、私を嫌っているのですよ……」
自分で言って、ズキッと胸が痛む。そう、どんなにお願いしようとも、私のことなど端から眼中にないのだ。
「ふっ、ふっ、ふっ。そんな迷える子羊ちゃんの為に、これを持ってきましたわ!」
セリーナ様は突然どこからか小瓶を取り出し、目の前に差し出す。中には透明な液体が入っていた。
「これは、なんですの?」
「これは、“相手の気持ちがわかる薬”ですわ!」
「相手の気持ちがわかる……?」
「そう! これを飲ませれば、彼が思いの丈を吐露するのですわよ。どう? 気にならない?」
(グレン様が思いの丈を吐露……。それってつまり……)
「い、嫌ですわ。本人から、嫌いだなんて……、聞きたくありませんわっ」
私は慌てて顔を横に思いっきり振る。
彼が“嫌いだ”と私に言う姿が容易に想像できて、涙が出そうになった。
「……はぁ、何で嫌いが前提なのかしら……」
セリーナ様が呆れたようにボソッと呟く。
「じゃあ、エレノア様、これはいらないんですね? 本当に本心を聞かなくてもいいんですね?」
セリーナ様に念を押されると、心が揺れる。
(……怖い、でも、気になる……。彼は本当に私のことが嫌いですの……? それとも、……少しでも……気になってくれていますの……?)
不安と期待で、胸がドキドキと高鳴る。
(……よし、決めましたわ……っ)
私は覚悟を決め、震える手で小瓶を受け取った。
◇ ◇ ◇
本日はグレン様と、我が家のガーデンテラスで定例のお茶会をしている。
向かいに座るグレン様は、先ほどから少しも表情を崩すことはない。
(本当に、つまらなそう……ですわね……)
私は痛む胸を押さえ、小さく息を吐いた。
セリーナ様からいただいた例の薬は、しっかりとグレン様のカップへ入れてある。
そんなこととは気づかない彼は、カップに口を付けた。
私は彼の様子を窺っていたが、特に変化は見られない。
(……あれ? 何も話しませんわ……)
「……あの、何か、私におっしゃりたいことはありませんか?」
「……は?」
グレン様が怪訝そうな視線をこちらに向ける。
セリーナ様は、思いの丈を吐露するって言っていたはずだが、彼は一向に何か言うような気配は見せなかった。
彼は黙って紅茶を飲み干し、時間が来るといつも通り帰っていった。
「おかしいですわね、失敗したのかしら?」
セリーナ様の薬でも、失敗することもあるのか。
ふと窓の外を覗くと、庭園に見慣れない物体を発見した。
日差しを浴びて、毛並みが金色に輝いているモフモフの――。
「え? 犬!?」
どこからか庭園に迷い込んでしまったらしい。
私は慌てて、犬の元へ急いだ。
犬は花壇の隙間で、丸くなっていた。
「ワンちゃん?」
私が声をかけると、犬は驚いたように身体を震わせる。
犬は大型で、耳は垂れ、長い毛並みをしていた。
「あ……、大丈夫よ、怖くないですわ」
私は警戒しているその子を怖がらせないように、優しく声をかけた。
犬は逃げずにじっとその場を動かず、こちらを窺っている。
手を出してみるが、おとなしくしていたので、私は首の下をそっと撫でた。
一瞬、ビクッと身体を震わせたが、特に嫌がる素振りはしなかった。
「……ふふっ、いい子ね……。どこから来たの? って聞いても分からないですわよね……」
金色に近い薄茶色の毛並はとても綺麗で、手入れされているように見える。
「飼い犬のようですけれど……」
首輪もないし、飼い主が分かるものは何も見当たらない。
私はとりあえず、部屋に連れて行くことにした。
犬を誰にも見つからないように、こっそりと部屋に入れる。
実は私は犬が大好きなのだが、母が苦手なために家では飼うことができなかった。
部屋に入るとワンちゃんは、戸惑ったように室内を見回している。
「ふふっ、可愛いですわ〜。あ、喉が渇いてるかもしれませんわね? ワンちゃん、ちょっと待っててね!」
私は調理場へ行き、お皿にお水を入れて部屋に戻った。ワンちゃんの前の床に置くが、首を振って飲もうとしなかった。
「あれ? 喉は渇いてないですの?」
ワンちゃんはさっきからソワソワと、落ち着きのない様子だ。
(どうしたらいいのかしら?)
犬を飼ったことのない私には、どう接したらいいのか分からない。
お父様が帰ってきたら、早く飼い主探しをお願いしたほうがいいだろう。
(飼い主が心配しているかもしれないわ。だけど、今だけは、まだ私が相手をしてもいいですわよね)
実は私は、一度やってみたかったことがあった。
深呼吸して、はやる気持ちを落ち着かせる。
「えっと、ワンちゃん、おすわりできる? おすわり!」
私はワンちゃんに号令をかける。
ワンちゃんの緑色の瞳がまっすぐこちらを見て、ふっと逸らされる。
やっぱり私の言うことは聞かないのか、と思った瞬間――、スッと座った。
「わぁ、ワンちゃん、凄い! いい子ね!」
私は嬉しくて、ワンちゃんの頭を撫で回す。ワンちゃんの表情もどことなく嬉しそうだった。
気をよくした私は、座っているワンちゃんの前に手のひらを差し出す。
「じゃあ、今度はお手ですわよ? お手!」
ワンちゃんはしばらく私の手を見つめていたが、ゆっくりと手を載せた。
ぽんと手のひらに、少し硬いワンちゃんの肉球が当たる。
「わ、わ、いい子ですわ! なんていい子なんでしょう! ふふっ、可愛い〜っ!」
再びモフモフの頭を撫で回すと、後ろに投げ出された尻尾がブンブンと揺れていた。
「そうですわ! 今度はブラッシングしましょうね!」
私はドレッサーから自分のブラシを持ってきた。
ブラシを通すとふわふわとした金色の毛が、一層輝き始める。
「本当、綺麗な毛並みですわね。ちゃんと手入れされてますのね」
こんなにおとなしくて、しつけされている。どこかの貴族の飼い犬で間違いないだろう。
私が優しく背中をブラッシングをしていると、ワンちゃんは澄んだ瞳でまっすぐに私を見つめていた。
「どう? 気持ちいい?」
綺麗な金色で、澄んだ緑の瞳……。ワンちゃんを見つめていたら、ふと、グレン様を思い出した。
彼も、金髪で綺麗な緑色の瞳をしている。だけど、私を見つめる視線はいつも冷たい。眉間に皺を寄せ、表情はいつも険しかった。
さっきも上手く話せなかった。彼の視線が怖くて、私はいつも思ってもいないことを言ってしまう。
……本当はグレン様と、笑い合いたいのに。
ワンちゃんがうっとりした表情を見せたので、私は微笑む。
しばらくブラッシングをしていた私は、ワンちゃんに愚痴をこぼし始める。
「私の婚約者も、ワンちゃんみたいに金色の髪に、緑色の瞳なんですわよ。でも、私のことなんて見てくれないのですわ。……目が合っても、いつも冷たく睨まれてしまって……」
そう言うとワンちゃんの身体が、ビクッと震えた。
「ん? どうしたの?」
ワンちゃんは慌てたように、首を振った。
私は優しくブラッシングを再開する。
「それなのに、他の令嬢には微笑みかけているのですわよ! 信じられます? 私には笑ってもくれないのに!」
「――キャン!」
突然ワンちゃんが小さく悲鳴を上げる。
ブラシを持つ手に力が入り、ブラシで毛を引っ張ってしまったようだ。
「あ、わ、ごめんね、ワンちゃん! 大丈夫?」
引っ張ってしまった箇所を慌ててさする。
「……でもね、ワンちゃん。……本当は、分かっているのですわ、……私が原因なことくらい。私が素直じゃなくて、可愛げがないから、グレン様が愛想つかすのも当然なのですわ……」
自分の言葉が胸を突き刺す。
本当は一緒にいたい。一緒に笑い合いたい。他の令嬢になんて、笑いかけないでほしいのに。
「本当は他の令嬢たちみたいに、甘えてみたいのに、そんな恥ずかしいことできなくて……」
グレン様を前にすると、言いたいことが何も言えなくなってしまう。
「……ねぇ、ワンちゃん。今からでも、間に合うのかしら? 私が素直に……『好き』と伝えたら、グレン様は私を見てくれる? 私を好きに……なってくれると思う……?」
(もう……遅い……? 私の言葉なんて、信じてくれないかもしれないわ……)
グレン様の冷ややかな顔を思い出して、涙が滲む。
「わ、私ったら、ワンちゃんに何を話してるのかしらね! ごめんね、ブラッシングの続きを――」
その時、ワンちゃんの顔が近づき、ペロッと私の頬を舐めた。
「え? ワンちゃん!?」
私は驚いて声を上げるが、私の涙を拭うようにペロペロと顔を舐めている。
(私が泣いていたから、慰めてくれたの?)
「ふふっ、く、くすぐったいですわよ〜。でも、ありがとう」
私はぎゅっとワンちゃんを抱きしめて、モフモフに顔をうずめた。
「ワンちゃん……、あったかい……」
その温もりに癒される。
――すると、突然、ワンちゃんの身体が白く光り始める。
(……え?)
私は何が起こっているのか分からず、その状況を見つめていると、光の中からよく知る人物が現れた。
それは――。
「ぐ、グレン様!?」
さっきまで、ワンちゃんだったはずなのに、グレン様の姿に変わっている。
「グレン様、ど、どうしてここに!? 今、犬の姿で!? ま、まさか、そのような趣味がおありで!?」
私がパニックになっていると、グレン様も真っ赤な顔で慌てふためいている。
「いや、違う! 趣味って、そんなわけあるか! お、俺は、気づいたらあの姿になっていたんだ!」
「え? 気づいたら……?」
グレン様の言葉を聞いて、心当たりが一つあった。
それは、“相手の気持ちがわかる薬”だ。あれしかない。
(あれは気持ちを吐露する薬じゃないんですの? もしかして、犬に変身する薬だったの……?)
しかし、私はそれ以上に、とんでもないことを思い出した。
それは、犬の姿のグレン様に、自分の気持ちを喋ってしまったことだ。
今更ながら全身の熱が上がって、今にも倒れそうになる。
(ど、ど、どうしましょう……っ。グレン様に気持ちを喋ってしまいましたわっ)
彼を見られなくて、顔を上げることができない。
「……エレノア」
グレン様が低い声で、私の名前を呼んだ。私は思わず、ビクッと身体を震わせる。
「……さっき言ったことは……、本当か?」
そう確認されて、私は思わず顔を横に振った。
「ち、違いますわ……、あれは、本当に違うんですの!」
「……本当に? そんなに真っ赤な顔で?」
グレン様に指摘され、両手で頬を押さえた。たしかに、燃えるように熱い。
「ほ、ほんと……に……っ、私……っ」
いたたまれなくて、早くこの場から逃げ出したい。
恥ずかしすぎて、まだ涙が滲んでくる。
でも、それじゃ、いつもと変わらない。ワンちゃんには言えても、当の本人には素直になれないなんて。
(……怖い。だけど、……少しでも、変わりたいの……)
震える手を握って、息を吸う。そして、私は半ばやけくそ気味に、グレン様に言い放った。
「そ、そうですわ! さっき言ったことは本当ですわよ! 私はグレン様に初めてお会いした時から、ずっとお慕いしてましたわ! でも、でも、分かってますわよ、あなたが私のことを嫌いってことは――っ」
その瞬間、私は腕を引かれ、彼の胸に抱き寄せられた。
ぎゅっときつく、背中に腕が回される。
「グレン様!?」
「俺もだ。俺も、初めて会った時から、君が好きだったんだ……っ」
耳元に、グレン様からは聞いたことのないような、熱の籠もった声が聞こえる。
私を好きだなんて、信じられない。都合の良い夢を見ているかのようだ。
「……そんな、嘘ですわ……。……いつも、私には冷たかったのに」
「俺だって、ずっと君に嫌われていると思って、何も言えなかったんだ」
(……それって、私と同じ……? 二人して、勘違いをしていたってことですの……?)
驚きと安堵で胸がいっぱいになり、嬉し涙が溢れる。
「……そうだったんですね……。……似た者同士ですね、私たち」
思わず笑みがこぼれた。
そっとグレン様の顔が近づき、頬に唇が触れる。
「へ!? ちょ、ちょっと!? いったい何をなさるの!?」
びっくりして後ろへ仰け反るが、彼の手は私を離さない。
「何って、さっきみたいに、涙を拭いてあげただけだが?」
私が焦っている前で、グレン様は悪ぶれずに答える。
「さっきって、あれはワンちゃんですし!」
「エレノア。君はあんなに近づいて、俺を触りまくっていたというのに。犬の時と態度が違うんじゃないか?」
「え? それは犬だと思っていたから、当たり前ですわ!」
離れようと抵抗するが、グレン様の長い指が私の頬に触れた。
「じゃあ、今度は、俺が君を思いっきり可愛がってあげるから、……覚悟して?」
そう言って笑うグレン様の瞳は、私の姿を映している。
ずっと、そうやって笑いかけてほしかった。……だけど。
(私はこれから、どうなっちゃうんですのー!?)
いたずらっぽく微笑む、グレン様の顔が近づいてくる。
「エレノア、好きだよ」
そう囁かれ、顎を上げられた私は、その愛を受け入れるしかなかった。
――後日、セリーナ様から届いた手紙には、こう書かれていた。
『どう? うまくいったかしら? 私はエレノア様たちをずっと応援してますわ。追伸――薬、間違えちゃった〜、ごめ〜ん☆』
(……面白がっているわけじゃないですわよね? セリーナ様……)
◇ ◇ ◇
【番外編】モフモフside
「はぁ」
エレノアとの定例の茶会を終えて、俺は子爵邸の庭園を歩きながら溜息をついた。
『……あの、何か、私におっしゃりたいことはありませんか?』
珍しくエレノアが普通に話しかけてくれたというのに、急なことでテンパってしまい、上手く返せなかった。
「……何で俺はいつもこう……、上手く言えないんだ」
毎度のことながら、自己嫌悪に陥る。
次こそはしっかりと気の利いたセリフを言えるように、考えておこうと心に決めた。
二年前、初めての顔合わせで、俺はエレノアに一目惚れした。しかし、彼女が俺を見る目はどこか冷たくて、俺は言葉を呑み込んだ。
彼女は動物が好きなのだろうか。
街に出掛けた時、犬を見て笑顔になった彼女から、目が離せなかった。
(もし俺が犬だったら、あんな風に笑いかけてくれるんだろうか……)
なんて、馬鹿げたことを考えて自嘲した、その時――。
突然、俺は白い光に包まれる。視線が低くなり、全身は金色の毛で覆われていた。
自分の腕をまじまじと見つめる。手のひらには黒い肉球が……。
(……この手って、まさか……犬じゃ……? さっき俺が犬だったらなんて考えたから、犬になってしまったのか……?)
俺は愕然とする。しかし、ここにいるのはまずいと思い、人に見つからないように花壇の間に身を隠した。
(これから、俺はどうすれば……?)
「ワンちゃん?」
後ろから声を掛けられ、恐怖で身体が震える。
「あ……、大丈夫よ、怖くないですわ」
(エレノア……!?)
一番見られたくなかった、だけど、一番会いたかった人だ。
彼女は恐る恐る俺の首元を撫でる。
「……ふふっ、いい子ね……。どこから来たの? って聞いても分からないですわよね……」
エレノアは俺に向かって優しく微笑む。
(……そうだ。俺は、この笑顔が見たかったんだ……)
そして、俺はエレノアの部屋に連れて来られた。
(ま、待て。エレノアの部屋だと!? この香りは……っ)
犬の嗅覚になった俺は、目一杯にエレノアの香りを感じて、クラクラしそうになる。
まるで、エレノアの髪に触れて、その綺麗な髪に顔をうずめたかのような――。
と、理性が飛びかけて、慌てて首を振り気を引き締める。
(……平常心、……平常心……)
エレノアは水の入った皿を置いた後、俺の前に座ってこちらを覗き込む。
「えっと、ワンちゃん、おすわりできる? おすわり!」
(……は?)
俺は思考が停止した。たしかに、犬は命令に従っている。
やらないといけないのか。犬だったら、やるべきなのか。考えを巡らせる。
ちらっとエレノアを見ると、彼女は期待するような純粋な瞳で、こちらを見つめていた。
(…………。仕方がない)
スッと俺はその場に腰を下ろす。
「わぁ、ワンちゃん、凄い! いい子ね!」
嬉しそうに笑うエレノアは、俺の頭を撫で回した。
ちょっと、くすぐったいが、悪い気はしない。
「じゃあ、今度はお手ですわよ? お手!」
俺は彼女の白く細い手のひらに、自分の手を乗せた。
「わ、わ、いい子ですわ! なんていい子なんでしょう! ふふっ、可愛い〜っ!」
こんなことで、彼女がこんなにも喜んでくれるなんて、犬が羨ましくなった。
(フッ……、犬に嫉妬してるのか……? 俺は……)
苦笑しながら、俺は笑顔の彼女を見つめていた。




