表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蹴鞠と糸のフィールド  作者: やしゅまる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/36

第16話『風、海を越えて』

久留米の街に、祝賀の喧騒が続いていた。Wリーグ初優勝──かつて“凡庸な選手”と見なされていた久留米FCレイヴンズが掴んだ奇跡の戴冠。


花村いとは、静かなスタジアムの一角に佇んでいた。誰もいない観客席。芝の匂いと、勝利の余韻だけが、夜の風に乗って流れていた。


その背後から、英語混じりの声がかけられる。


「Bonsoir, Hanamura Ito(こんばんは、花村いと)。あなたの風を、もっと遠くまで吹かせてみない?」


振り向いた先には、銀髪の女性スカウト。フランス女子リーグの名門「リヨン・ルミエール」のマネージャーだった。


「我がクラブに、貴女の“即興”と“詩”が必要なの。鞠を通じて、サッカーを芸術に昇華させる……そんな選手は、欧州にも滅多にいないわ」


──風を、吹かせる。異国の地で。


いとは静かに視線を落とす。足首に巻かれた“藤の紐”が、微かに揺れた。


だが、簡単には頷けない。久留米で出会った仲間たち──ほのかの叫び、舞子との兵法談義、すずの間合いの笑顔、そして……澪の、一撃。


「おまえがいなくなったら、こっちの舞が成立せんくなるやん!」


すずが頬を膨らませて言う。舞子は「情報戦的には損失大です」と真顔で呟き、ほのかは鼻で笑ったあと、いとの背中をどんと叩く。


「行ってこいよ。……オトナになったら、それくらい世界と殴り合ってこいっての」


そして、最後に──澪。


壁にもたれ、腕を組んだまま言う。


「……あんた、鞠の神様に選ばれたんだろ。なら、行ってこいよ」


目は逸らしたまま。でも、その声には確かな温度があった。


いとは目を閉じる。まぶたの裏に浮かぶのは、平安の空の下、共に鞠を交わした友の顔。そして、現代のこの世界で出会った“仲間”の姿。


──ゆえに、我は行く。風の導くままに。


藤の紐を、きゅっと結び直す。


「風、吹かせてみせようぞ。異国の空にも、わが舞を」


花村いとは、蹴鞠の達人・藤原鞠之介としての矜持を胸に──海を越える。


その風はまだ、誰にも止められはしない。


(第16話・了)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ