第14話『再戦、そして舞』
「ようこそ、決勝へ」
ピッチに現れた大阪セレーネの司令塔、神崎ルナは、微笑を浮かべながら言った。
「今回はそう簡単にはいかないわよ、久留米の“風読み”さん」
いとは頷き、静かに視線を返す。
「風が読めぬなら、舞うのみ。すべての刻を、舞の中にて紡ぐまで」
決勝戦。奇跡の決勝進出を果たした久留米FCレイヴンズと、女王の名をほしいままにする大阪セレーネの一戦が幕を開けた。
開始早々、いとの動きは制限された。前回、いとのヒールパスから得点を許した大阪は、徹底した対策を敷いていた。トップ下のスペースをつぶし、パスコースを遮断。いとがボールを持てば、即座に2人がかりでプレスがかかる。
「見事な“封じ”じゃな……」
いとは冷静に状況を見つめ、味方の動きに目をやった。だが、ボールは繋がらず、レイヴンズは押し込まれる時間が続く。
前半30分。大阪のサイド攻撃から、ゴール前に鋭いクロス。一瞬のマークのズレを突かれ、失点。
0-1。
静まり返るベンチ。しかし、いとは表情を変えなかった。
「恐るることなかれ。風が止まぬ限り、我らの舞もまた、終わらぬ」
後半。ピッチサイドで、志摩舞子が白板を手に立ち上がる。
「いとを中心にするんじゃなく、陣を変える。私が下がって、いとをサイドに逃がす。すず、あなたはウイングバック気味に動いて。全体を“斜め”にシフトして流れを変える」
「了解っす!」
すずが笑みを浮かべ、グラウンドへ駆け戻る。
布陣は可変する。舞子の設計した“ひし形の変形”が発動された。中央で囮になる舞子、縦に抜けるすず、空いたスペースへ流れるいと。
大阪のディフェンスが一瞬の混乱を見せる。
その瞬間だった。
「今じゃ」
いとはすずからのリターンをワンタッチで受けると、ヒールではなく、左足のインサイドで逆サイドへ流す。
澪が走り込んでいた。
「来い……!」
いとの心の声が、風に乗る。
「――すべては、舞の中に」
その言葉が、実況席のマイクに拾われた瞬間。澪が右足を振り抜いた。
鋭い弾道のシュートが、ゴール右隅へ吸い込まれる。
1-1。
レイヴンズのベンチが沸き立った。
流れが変わった。
大阪の中盤が後手に回り始め、レイヴンズのパスがリズムを刻む。いとは流れるようにサイドから中盤へ戻り、再び舞子と目を合わせた。
「次は、“あれ”ね」
舞子のパスが、すずへ通る。すずがドリブルで仕掛け、今度は斜めの折り返し。
中央でいとがワンタッチで落とす。
「澪!」
その声に、誰よりも早く反応したのは、もちろん三宅澪だった。
ラインの裏へ抜け出し、ダイレクトで合わせた一撃。
ゴールネットが大きく揺れた。
2-1。
逆転。
そして、そのまま――タイムアップ。
久留米FCレイヴンズ、奇跡の優勝!
地元サポーターの歓声が、夜空を突き抜けた。
表彰式の列に並びながら、澪はそっといとの肩を小突いた。
「……決めたぞ。お前の“舞”、悪くなかった」
いとは目を閉じ、小さく微笑む。
「矢よ、よくぞ飛んだ。されど、次の風は――いずこより吹くやら」
照れたように顔をそむける澪。
その隣で、いとはゆっくりと、足首の藤の紐を結び直した。




