EP08.訪問者2
三人でティータイムを楽しんでいるとやっとファントムが現れた。ルカの姿を見つけるなり、珍しく驚いた表情を浮かべる。
「なんだ、来ていたのか」
「なんだじゃないわよ~。遊びに行くって連絡したじゃないの!」
「すまない。悪かった」
「もう!忘れっぽいんだから!」
ルカはぷりぷりと拗ねてみせるがファントムは気にも留めていないようだ。マーサさんの情報では、二人の付き合いは長いらしくたまにこうして会ったりしているらしい。ファントムは紅茶を淹れると俺たちと同じテーブルについた。
「今日はどうした?」
「用事がないと来ちゃいけないのかしら?麗しの仮面様に会いにきてあげたのよ」
「何ももてなせず、すまないな」
「とっくの昔にマーサちゃんとたっくーにお・も・て・な・しをしてもらいましたから大丈夫よっ」
マーサはにこやかにその様子を見守っている。俺はというと、テンション高めのルカといつも通りクールなファントムとの温度差に少し戸惑って目を泳がせていた。そんな中、ルカがふと真顔になりファントムを見つめて言った。
「最近変な事なかった?」
「変な事?」
思わずドキリとした。まっさきに頭に浮かんだのは、道に迷ってこの館に転がり込んできた自分のことだ。ファントムとマーサが一瞬だけ俺のほうを見たような気がする。
「いや、特に」
ファントムは答えるとティーカップを口に運んだ。
「そう?ここ数日、巷がなんだかざわざわしてて騒がしいのよねえ。仮面がどーたらこーたら言ってて。イグニス、何か知ってる?」
「ここ最近、街には行ってないから様子がわからないな」
「そっかあ。じゃあ何かわかったらまた知らせるわ。今日はいいもの見せてもらったし♪」
そう言ってルカは俺にウインクを送ると、テーブルの上に残っていた最後のクッキーをひょいとつまんで帰って行った。
(あっ、気になっていた最後の一枚を食べられた)
嵐のように現れ、嵐のように去っていったルカ。その姿はインパクト大という意味では申し分なかった。ファントムはやれやれといった風にため息をつき、残りの紅茶を飲み干すと静かに部屋へ戻っていった。