EP07.訪問者
「お〜い、誰かいる〜?いたら出ておいで〜♪」
玄関のドアをノックする代わりに、どこか間の抜けた朗らかな声が館中に響いた。館の片付けをしていた俺は思わず顔を上げ、マーサと目を見合わせる。
「あら…あの声は…」
次の瞬間、廊下の奥から足音が聞こえ、サングラスをかけた見たことのない男がひょいっと顔をのぞかせた。
「やっほー!久しぶり!誰も出てこないから、裏口から入っちゃった☆麗しの仮面ボーイはどこ?って、あら?君、新顔ね?」
見るからに派手なスカーフを首に巻き、無造作に伸ばした髪を後ろで束ねている。がっしりとした体格と日に焼けた小麦色の肌、何よりその目が印象的だった。サングラスを外し、軽いようでどこか人を見透かすような目で話しかけてきた。
「君、ここに迷い込んだクチでしょ?わかる〜、その目がまさに迷子の子犬ちゃん」
「えっ、あ、いや、俺は……」
「もうルカったら、初対面の人をからかわないの」
マーサが笑いながら止めに入ると、男――ルカはふふんと笑って肩をすくめた。
「ごめんなさぁい。でもほんと、ここで拾われる子って、似た空気あるのよね。寂しそうで、でもどこか諦めてなくて」
「…誰ですか?」
「ご主人様の古い友達よ。ルカさん、彫刻家。いちおう大学で教鞭もとってらっしゃるの」
「先生なんですか?」
「んー、先生ってほど固くないけど?大学の非常勤講師でニンゲンのカ・ラ・ダについて教えてるの。人体は神秘よ!って熱く語ってるわよ♪」
ファントムとは真逆のような人だった。軽やかで、人懐っこくて、するっと懐へ入り込んでくるけど、絶妙な上手い距離感。
「じゃ、せっかくだしお茶しない?アップルティーとかアイスチャイもいいわね。あと、ほら、たっくーが作ったティラミス残ってないの?ね、マーサちゃん♡」
(た、たっくぅ?俺の事?なんでティラミスのこと知ってるんだ?)
「あらあら、ティラミスはもう食べちゃったから、クッキーでも出しましょうかね」
こうして“陽気なる来訪者”ルカとの、ちょっとにぎやかな時間が始まった――。