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EP03.偶然か必然か

(……偶然じゃない?)


 その言葉に胸の奥がざわついた。


「……どういう意味ですか、それ」


 そう聞き返すと、仮面の男はうっすら微笑んだ気がした。


「この館には時々“迷った者”がたどり着く。不思議に思うかもしれないが事実であり、君もその内の一人だ。」


(俺はただ、タイヤがパンクして、道に迷って、たまたま……)


「そう。たまたま、かもしれない。けれど君は導かれた。それは偶然ではなく”必然”とも言える」


 俺から仮面の奥の表情は読めないが、嘘をついてるようには思えなかった。


「遅くなったが、自己紹介をしよう。私はイグニス。ここの“マスカレードハウス”の主だ。皆は“(あるじ)”や“ファントム”と呼ぶが、好きに呼んでくれ。こちらはマーサ。館のことを任せている。分からないことがあれば彼女に聞くといい」


 この館の(あるじ)でイグニスと名乗る仮面の男は、端正な顔つきだが、落ち着いた雰囲気のわりには人とは思えないような存在感があるオーラを放っている。まるで亡霊(ファントム)みたいだ。その隣ではマーサがにこやかにうなずいた。


(…仮面つけてる変な人だけど、なんか……優しい人かも)俺は少し安堵した。


「拓海って言います。昨夜はありがとうございました。助けてもらい感謝してます!」


 深々と頭を下げた俺を見ていたマーサが聞いてきた。


「あなた、学生さん?」


「はい。高校1年です。ちょっと事情があって、いま学校休んでて…」


 仮面の男が全てを察したかのように話した。


「無理に説明しようとしなくていいんだ。この館は“心と体”を休める場所だから、ゆっくりしていくといい」


 その時、マーサがティーカップを差し出すと紅茶の香りが部屋に広がった。セイロンティーだ。朝の茶葉より香りが深い。


「この紅茶は、疲れた心を落ち着かせると言われているのよ。香りだけでもリラックスできるわ」


 すうっと温かい香りがさっきまでの緊張を少し溶かしてくれるようだった。


(……焦って帰る必要、ないよな。てか、あのまま倒れてたら……)


「じゃあ…少しだけ、お世話になります。イグニス…ファントムさん?」


 仮面の男は窓の外を見ながらつぶやいた。


「ファントムで大丈夫だ。今日はいい天気だ。庭の草花も喜んでいるだろう」


「庭…?」


 窓に近寄りそっと開けると、庭には色とりどりの花が咲き、風にゆれている。潮の匂い、花の香り、そして紅茶のやさしい香りが混ざりあっていた。


(なんて綺麗な庭なんだろう)


 これは夢なんだろうか。でも夢と言うには、全てがリアルであたたかい。


 ここにいてもいいかもしれない。

 少しだけ。ほんの、少しだけ――。


 そんな気持ちが、胸の奥に灯り始めていた。

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