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EP12.噂の真相3

「……今日はもう帰ろうか」


 突然ファントムがつぶやくと、俺は置いていかれまいと慌ててミニクーパーに飛び乗った。静まり返った山道で、ファントムは無言のままエンジンをかけ、ゆっくりとハンドルを切る。先ほど見た“影”のことを口に出せないまま、気まずい沈黙が車内を満たしていた。


「……ファントム、さん」


 言葉を選ぶように、俺は静かに口を開く。


「事故の噂って……あれって、やっぱり……」


「事故を起こしたライダーたちは、何か“見た”。それが仮面の者だったのか、幻だったのか……それとも——自分の記憶の残滓(ざんし)だったのかもしれない」


「記憶……?」


「昔、ある仮面職人が言っていた。“人は心の奥にあるものほど、姿を持たせたくなる”と」


 ファントムの視線は前方の道路ではなく、もっと遠く、目に見えない何かを追いかけるように宙を彷徨っていた。


 車はやがて森を抜け、マスカレードハウスの門が見えてきた。午後の光を浴びて静かに佇む館は、相変わらず夢とも現ともつかない美しさを保っている。


「今日はゆっくり休みなさい。明日はあの道とは違う場所に案内する。君に見せたいものがあるんだ」


 ファントムのその言葉に、なぜだろう胸の奥がざわついた。


 館の扉が開き、穏やかに微笑むマーサが迎えに出てきた。彼女のエプロンの端には、白い粉と紅茶のシミが滲んでいる。


「おかえりなさいませ。焼きたてのスコーンと、特別なブレンドティーをご用意していますよ」


 仮面の館——マスカレードハウスに帰ってきたというのに、どこかまだ夢を見ているような、ふわふわとした錯覚に囚われていた。


 けれど俺は、まだ知らなかった。

 この館に帰ってきたことで、さらなる“記憶の扉”が開こうとしていることを——。

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