表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/12

EP11.噂の真相2

「ここが例の事故現場ですね」


 拓海が慎重に車を降りてあたりを見渡すが、山道はしんと静まりかえり、真昼とは思えないほど薄暗かった。


「このカーブで立て続けに三件の事故が起きている。どれも下りの際に『対向車を避けようとして』という共通点がある」


 ファントムは白手袋を付けて歩き出すが、車がまったくと言っていいほど通らない。静けさのあまり靴の音がやけに響く。


「俺が道に迷ってファントムのマスカレードハウスに辿り着いた時でも、この道を通った覚えはないです。そもそもここは館とは方向が違いますし…」


「そうだね。だからこそ“初めてここに来たヒト”がどう感じるかを見ておきたくてね」


 ファントムはそう言うと崖に面したカーブの路肩にしゃがみ込んだ。俺もその隣に膝をつく。


「見てくれ。ここに複数のスリップ痕がある。恐らく道を下る際にバイクが無理に進路を変えた跡だろう」


「うーん、でも、対向車のタイヤ痕はなさそうです。あとガードレールにぶつかった跡もありませんね。綺麗に対向車を避けたんでしょうか」


「“避けた”跡はあっても“相手”の跡はどこにもない、か…」


 ファントムは立ち上がるとカーブの先を見つめた。下りのカーブの先には、崖と草むらと木々、そして遠くには海と空が広がっているだけだった。


「…対向車は、本当にいたんでしょうか?」


 俺の質問にファントムはすぐには答えなかった。静まりかえった山道で、風が木々を揺らす音だけが響いている。


「対向車はいなかった可能性の方が高いだろうね」


 ようやく口を開いたファントムは、仮面を指で押さえながら続ける。


「ブレーキ痕、スリップの方向、そしてこの地形……どれを見ても、“何かを避けた”という動作はある。でも、肝心の“何を避けたか”はどこにも残っていない」


「錯覚や幻ってことですか?」


「目で見た情報が真実とは限らない。パニックや恐怖で人間の脳が錯覚することがある。しかも、事故当時はいずれも夜の山道での出来事だ。この道は所々舗装が割れていて、バイクでの走行時は注意が必要だろう。つまり、事故が立て続けに三回も起こりやすい条件が揃っていた。そういう特異な状況の事故で混乱した脳が幻覚を作ることもある」


 俺は黙って周囲を見渡した。まだ昼のはずなのに、空気が急に重たく感じる。

 

 ──そのときだった。カーブの先、木立の影に、何か黒い影がふっと横切った気がした。


「……あれ?」


「どうした?」


 ファントムが拓海の声に振り返るがそこには何もいなかった。きっと俺の気のせいだ、木の枝が風に揺れているだけだったのかもしれない。


「何かが横切ったような…。いえ…すみません。俺の気のせいでした」


 風が通り過ぎ、木々がざわりと音を立てる。ふいにあの旅館の女将が言っていた“赤い仮面の噂”を思い出した。


(対向車じゃなくて…本当に、誰かがこの道に立っていたのかもしれない)


 事故、幻、仮面の謎──

 すべてが薄い靄のように感じられる中、俺たちは音のない風の中に身を置いていた。

 草がそよぎ、遠くで鳥が一声鳴いていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ