第8話 最強
ノネとサラがいると思われる場所へと向かうアスタとフーマ。
「アスタ、やっぱ戻ろうぜ」
「なんだよフーマ。最強剣士の戦いだぜ? レアすぎるだろ」
「それはそうだけど……」
フーマ自身も、気にならない訳ではない。むしろ気になる故に、アスタに強く説得ができない。
「しかしあの二人速すぎだろ。見当たらないし」
そんな時、どこからか視線を感じる二人。
「なんだ?」
「やっぱ戻ろうアスタ」
「いやでも……」
「あの二人が戦う相手だぞ。俺らじゃ何秒立っていられるか。いやむしろ足でまとい……」
足音も呼吸音も、感じなかった。だがハッキリと、認識した。自分達の後ろに、ノネとサラではない別の《《なにか》》がいると。
「お……まえ……たち……は」
不気味な気配に話し方。アスタとフーマは動けなかったが、瞬きと同時に、二人は物陰に移動していた。
「あれ……」
「俺たち移動してる。なんで」
場所が変わり困惑するアスタとフーマ。
「全く……二人共大丈夫ですか?」
「サラさん。俺たち」
「フーマ君なら、分かってくれたと思いましたが」
「ごめんなさい、サラさん」
「まぁその話は後で。《《アイツ》》はノネが対処します」
《《なにか》》の正体は、人の形をした魔物。まだ慣れていないが言葉を話し、そして少しの知恵がある。
そんな怪物の目の前に立っているのが、最強剣士ノネ。
「お……まえ……て……き」
「……」
自分達が相手になる所か、恐怖で固まっていた敵に、物怖じしないノネの姿を見て、改めて凄さを痛感するアスタとフーマ。
「……」
動かないノネ。どんな勝負をするのか、気になっている二人だったが、勝負は呆気なく、気づけばノネは、怪物を斬っていて、モンスターは時間差で少しずつ消滅していった。
「今……」
「見えたのか?アスタ」
「いや、全く」
完全に消滅する怪物。アスタ達の方へ歩いてくるノネ。
「アスタ、フーマ、無事か?」
「はい。あの、ノネさん」
「ん?なんだフーマ」
「えっと、ごめんなさい」
「謝るなら、もうこんな真似はするなよ?」
「はい」
先程のノネとは違い、プロの風格を感じたフーマ。
「で、お前は?」
「えっと……俺は」
「また、やるのか?」
「え……」
「アスタ、お前が強い者に興味を持ち、その強さを知りたいのは、私もそうだから分かる。だが、それで友達が死んだら、どうするんだ」
「!……それは」
「運が良く助かっただけで、本来なら死んでいた。友達を巻き込んでな。そんなのが、アスタの望みか?」
「違い、ます。ごめんなさい」
強く厳しい言葉だが、フーマはもちろん、特にアスタには強く響き、自分が取った行動を深く反省した。
行動には結果が伴う。自分の行ないが、一分一秒の未来に何をもたらすのか、なにも考えずにした行動がいかに危険か、思い知った。
「ノネさん」
「ん?」
「俺が剣士試験に受かったら、で……いや」
「なんだ?」
「剣士試験に受かって、貴女やサラさんの様な、強く立派な剣士を志します。そしていつか、俺も誰かの助けになりたい」
剣士試験に受かったら、弟子入りし近くで学びたい。そう考えていたアスタだが、アスタはその言葉を口にはせず、自分で考えて、自分で戦場を駆け巡りながら、ホントの強さを探す決意を固めた。
「ま、剣士試験にも落ちるようじゃ、私への弟子入りなんて、夢のまた夢だしな」
「さすがに言いかけただけに、バレてましたか」
「当たり前だ、でも口にしなかったな」
「俺は、自分の力で、自分だけの剣士を目指します」
「いい答えだな。アスタ、一つ聞くが」
「なんですか?」
「君は、力を何の為に使う。敵を倒す為?己の自己満足?それとも」
「俺は、守りたい人の為に、力を使います」
「子供のくせして、大人の回答だな。全員救う、とか言わないのか?」
「ほんのさっきまで、そう思っていました。でも俺は弱い、誰かを救えるの前に、自分すら守れない、だから」
「だから強くなる、か?」
「なにか、変ですか?」
「別に、変ではない。だが一つ言っておく」
「なんですか?」
「アスタ、お前は救える命しか救わないのか?」
「何が言いたいんですか?」
「それは至極職務的な回答だ。もちろん間違っている訳ではない。でもな、お前だからこそ言う。さっき自分が弱いと言ったな?」
「言ったけど、それが?」
「弱いと、誰かを助けちゃダメなのか?」
「え……いやそんな事は、でも」
「もちろん、お前は弱いし、助ける前に、自分の身すら危うい」
「なら」
「お前は、次にフーマや大切な人が危険にさらされ、絶対に敵わない相手と遭遇したら、どうする?勝てないから逃げるか?」
「……」
「難しいか?」
「そりゃあ」
「まぁ、私の考えもあるし、確かにイジワルを言った。だがアスタ、きっとお前なら」
「俺なら?」
「内緒」
「え!! そこまで言ったなら」
「お前なら、きっと分かる」
ノネの言葉の真意は、この時のアスタにはまだ早かった。だが、ノネは心の奥底で感じていた。
アスタは、権力や犯罪などの汚れに溺れることのない、志の強い剣士になると。