第5話 剣士の闇
アスタとユキが屋敷に戻ろうと決断する数分前、サオリとミユキは受付係のレンを、当初の予定通り保護していた。
「お姉ちゃん……」
「大丈夫よ、あの二人なら」
不安を感じているミユキに言葉をかけて、安心させるサオリ。 だが内心サオリ自身も、顔に出さないだけで不安を感じていた。
ユキとアスタに対する心配こそないのだが、得体の知れない〘何か〙への不安。
その〘何か〙は、少しずつアスタ達の心に侵食していった。
「ん?……(人の気配……でも、ユキちゃん達じゃない)」
「サオリさん? どうかしましたか?」
「ミユキちゃん、レンさんと一緒に、私の後ろへ」
サオリの後ろへと下がり警戒している中、ドアが開き、複数の剣士達が入ってきた。
「ノックもなしに土足で踏み入り、失礼じゃないですか、何者ですか、あなた方は」
いつでも刀を抜けるよう、戦闘態勢に入るサオリ。
「ランク三位の上級剣士サオリ、それに上級剣士ミユキ、そしてターゲット。 兄貴、噂の最強集団が、まさかホントに女だけとは」
「いや、一人男のガキもいるらしいぞ、よく知らねぇけどな」
「黙れお前ら。 失礼、我々は彼女に会いに来た者です。 サオリさん」
「会いに? 攫うの間違いではないですか。 その全身黒の身なりに、手の甲にある人のタトゥー、犯罪組織の者ですね。 恐らく誘拐を専門とする」
「お見事、素晴らしい洞察力です。 我々は誘拐を目的とする者、彼女、渡してもらえませんか」
「私達は彼女を護衛、守っているんです。 渡す訳ないでしょ」
「まぁ、そうですよね。 渡してくれたら、事が楽に運んだんですが」
「貴方たちの目的はなんですか」
「我々はただ依頼をこなすだけ、どんな人物からであろうが、ターゲットが誰であろうが、攫うだけ」
「貴方たちも、元は善良な剣士だったはず、真っ当な職につき、人を守る気持ちは、ないのですか」
「ふん……世の中を知らない意見だな。 まぁいくら強いと言っても、所詮はただの小娘、社会の闇を知らない。 のんきに刀を握り戦おうが、それがなんだ。 無償で人を助け、正義の味方を気取っている貴様ら剣士を見ていると、吐き気がするよ」
「なにが貴方を、貴方がたを変えてしまったのですか」
「いずれ分かるさ。 それと、先程から気になっていたのですか、貴方たちの集団は四人でしたよね。 ターゲットは当然入れないとして、残り二人はどこに行ったのですか?」
「白々しいですね、元は貴方がたの仕掛けた事でしょ」
「ん?……あぁ、そういう」
「なんですか」
「いえ、こちらの話です。 所で、私の仕事は、そこにいる受付係レンさんを誘拐することですが、もう一つありましてね。 答えられるなら、ミユキさんでも良いのですが、サオリさん達にお聞きしたい事があるのです」
「今度はなんですか、先程の様な事なら、拒否します。 レンさんは渡しません」
「最近、我々の仲間を狩りまくっている迷惑な輩がいましてねぇ……話によると、背も声も男のガキの様で、上の者も探しているのですよ。 暗殺専門のリーダーが言うには、恐らくあの男だろうと」
「あの男?」
「アスタ……この名前、知らないですかね?」