なちゅ01 どうしてか私は夢を見る
一つしかない宝は何かな?
「尊い、尊い女の子。あなたはどうして牛ですの?」
「あなたは赤かりし猛牛となる」
「きっとKiss出来るわ〜ん」
「あなたが求めているわだかまりはいつか分かる時が来るわ。もう一度言うわ。牛よ牛。ふふふ」
《うわわわーん》
起きた。寝た。また起きた。あっ、現実だった。ジリリジリリと目覚まし時計。で、何でか壁掛け。
「もういい。知らないよ。自分から起きたら良いんでしょ」
やっと目が覚めたら、誰かの呼ぶ声が聞こえてきた。少しずつ暖かくなってきたせいか、小鳥の鳴く声も聞こえてくる。
「起きな。菜緒、もう時間よ」
起こされたのがよっぽど腹立つのか、はたまた昨日食べたインスタント焼きそばが悪かったのか分からない。とにかく機嫌が悪いのが目立つ様だ。
「菜緒ちゃん、ご飯が出来てるよ」
「そうよ、だから早く起きて食いなさい菜緒」
菜緒は素早く起きると、洗面所で顔を洗い、拭きながら食卓に着いた。
「やっぱり朝はパパが作るお味噌汁が美味しいんだね」
「こらぁ、ママにも挨拶しなさい。佃煮無しになるわよ」
「御免なさい、ママ。パパの海苔の佃煮食べたいよ。おはようございます♪」
台所で、アジの開きを焼いている父、耕一は今日も顔がほころんでいた。
「あまり怒るとしわたる美になるぞ」
「嫌ですよ。シワなんて一つしかないのに」
母、美和は目尻のシワを手で覆いながら喜んでご飯をしゃもじですくって渡すのだった。
「パパ、ママ。毎日ありがとうございます。今日も朝ごはん頂きます」
『頂きま〜す』
この日の朝食はご飯とアジの開きとお味噌汁とたくあんだったが、この家族はアレンジ好きだった。
「私はバジルとチーズを乗せるの好き。パパもママもやってあげる」
アジの開きはチーズを乗せられることになるのだった。
「美味しいよ。菜緒ちゃんはアレンジ上手だな」
「悔しくないわ。ママだって。ポン酢とゴマドレ混ぜてみるから」
『やめて〜』
父、耕一は高校の教師。母、美和は専業主婦で仲の良い二人だと近所でも評判の夫婦であった。
「そんな事より、菜緒。今日は始業式でしょ。早くしないとダメよ」
「そうだな。菜緒は中学3年生なるんだな。早いものだ」
「えへへ。今日からは上級生だから、良い事あるよ。先輩になって、スマホを買って貰った事自慢するんだ」
「後輩の子も羨ましいはずだわ」
「そうだね」
「そっ、そうかぁ」
朝食はゆっくりと食べた後は、歯磨きをして、自転車に乗り、学校まだ向かうのだった。
都会ではないのんびりとした自然に囲まれた町で、菜緒は暮らして居たりする。のどかな田園風景の中でバスや電車が走っている。山や海に接するこの町で
生き生きと暮らす人々に愛されながら、子供達は無邪気な笑みを浮かべている。
「あれに見えるは心臓破りの坂。通称、ロッキード。行けるかな」
「ダサいわね。こんなの登れない方が美容で負けてるわよ。ハイ、決定〜」
「イーーだ。美容で勝とうなんて勝とうなんてカッコ付けてるよ」
ロッキードは傾斜角45度。プロのアスリートでもきつい場所で待ち構えるのは同じく中学三年生になったばかりの明日香だった。
「今日は朝ご飯バッチリだから、絶対勝つよ。菜緒ちゃんファイ!」
「ああ〜嫌ね。インチキ嘘付き娘は。明日香様におはようと言い!」
「朝から嬉しくないなぁ〜。明日香は足腰弱いからな。ダサいって何それ」
「電動機付きマウンテンバイクよぉ〜」
_____ガクガクブルブル
「やってやろうじゃんかよ」
「それでは、お先遊ばせ〜」
菜緒は果たして明日香に勝てるのか?学校まではもう少しかかりそうだ。
続く