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奪われたクリスマスデート

作者: ウォーカー

 年の瀬が迫った12月。

街はクリスマスムード一色で、カップルたちが我が物顔で恋を謳歌している。

クリスマスの喧騒は、学び舎である学校にまで及んでいて、

カップルがうろうろする学校で、モテない男子学生がそれをうらやんでいた。

「もうすぐクリスマスだからって、どいつもこいつも・・・。

 あー、僕も彼女が欲しいなぁ。」

その男子学生の恨み節は、隠しきれない願望の裏返しだった。


 その男子学生は、いわゆる恋人いない歴イコール年齢の、冴えない青年。

学校でも女子学生と話す機会はほとんどなく、いつも遠巻きに眺めているだけ。

今も、その男子学生は、自分の席に座って顔を突っ伏して、

近くの女子学生たちのおしゃべりに聞き耳を立てていた。

「それでね、この学校に古くから伝わる、

 恋愛成就のおまじないがあるんだって。」

「へぇ、どんなおまじない?」

「おまじないって言うか、儀式みたいなんだけど。

 まずね、教科書を並べて魔法陣を作るの。

 そこに願いを叶えたい人が入って、強く願うんだけど・・・」

その男子学生が聞き耳を立てているとも知らず、

女子学生たちはキャアキャアと話に花を咲かせている。

「・・・で、指をちょっと噛んで血を出すの。

 そうしたら、恋愛成就の悪魔が来てくれるんだって。」

「悪魔って、出てくるのは恋の天使キューピッドじゃないの?」

「うん、天使じゃなくて悪魔。

 このおまじないはね、代償が必要なの。

 願いが叶ったら、願いの対象になった何かが代償として奪われるんだって。

 だから、恋愛成就の悪魔のおまじない。」

「えー、怖い!」

怖がる女子学生たちがお互いに身を寄せ合う。

すると、ある一人の女子学生が、凛とした声で話した。

「わたしは、そんなの怖くないと思うな。

 だって、恋愛成就って前提があるんだもの。

 それって願った人が不幸になるような代償は取られないってことじゃない?

 そうじゃないと、おまじないの意味が無いもの。

 出てくるのが天使か悪魔か、それは人間の見方次第。

 恋に悩む人は、試す価値があるんじゃないかな。」

机に突っ伏していたその男子学生は、いつの間にか顔を上げていた。

凛としたその女子学生から目を離せない。

その女子学生は、美しい黒髪を背中まで伸ばしていて、声以外も美しく、

その男子学生が密かに想いを寄せる相手だった。

ふと、その女子学生と目が合った気がして、その男子学生は慌てて目を反らした。

「あんな女の子と一緒にクリスマスデートができたら最高なのに。」

誰にも聞こえないような微かな声をこぼして、その男子学生はまた机に突っ伏した。


 それから学校の授業は恙無つつがなく済んで放課後。

その男子学生は、男友達連中と二三言、言葉を交わして教室を出た。

家に帰るための帰路も、街はむせ返るようなクリスマスムード一色。

右を見ても左を見ても、腕を組んだり手を繋いで歩くカップルばかり。

もしも、あの憧れの女子学生と一緒に、ああやってデートができたら、

さぞクリスマスは楽しいことだろう。

しかし、実際には、付き合うどころか会話をする機会にも恵まれない。

会話をするのはせいぜい、学校の集団学習の班で一緒になった時くらい。

思えば、授業で一緒に課題を行うのに話したのが楽しくて、

あの子を意識するようになったんだっけ。

そんなことをその男子学生は思い出していた。

妄想に思いを馳せるその男子学生の横を、

カップルがくすくすと笑いながら通り過ぎていく。

その男子学生はコートの襟を立てると、なるべく周りを見ないようにして、

足早に家へと帰っていった。


 苦痛に満ちた外からやっと家に帰って、その男子学生はほっと一息。

かといって、家に帰れば救われるわけでもない。

テレビを点けても何を見ても、話題はカップルのためのクリスマス。

その男子学生はテレビを消し、一人寂しく夕食を済ませると、

勉強や風呂などの日常生活を淡々とこなしていった。

あとは寝るだけ、クリスマスなど無関係の生活。

そう考えると虚しくなって、急に何かが込み上げてきた。

「やっぱり、僕も彼女が欲しいな。

 あの子と一緒にクリスマスデートができたら良いのに。

 ・・・そういえば。」

ベッドの上でジタバタしているその男子学生の脳裏をよぎったのは、

今日の学校で聞いたおまじないの話。

「恋愛成就のおまじない、だったっけ。

 馬鹿馬鹿しい。・・・でも。

 今の僕には、おまじないくらいしか頼るものが無い。

 もう、一人っきりのクリスマスは嫌だ。」

そうしてその男子学生は、半ば自棄やけっぱちで、

学校で耳にしたおまじないの儀式を試してみた。

教科書を並べ、魔方陣を作り、幾つかの作業を行い、

最後にはその男子学生自身が魔法陣の中に入り、

指先を齧って血を滲ませた。

「・・・何も起こらないな。

 やっぱり、おまじないなんてただの出鱈目でたらめか。」

諦めて片付けをしようとした、その時。

ゴゥ・・と床から風が吹いて、

床に置いた教科書のページがパラパラとめくれ上がった。

家の外の音が遠くなっていって、急に静寂が広がっていく。

チカチカと明かりが瞬いて薄暗くなったかと思うと、

重々しい声が、地の底から聞こえてきたのだった。

「我を呼び寄せたのはお前か。」


 その男子学生が戯れに行ったおまじない。

しかしそれは現に、この世ならざる何者かを呼び寄せたようだった。

重々しい声が語りかけてくる。

「今一度問う。我を呼び寄せたのはお前か。」

質問を放って置くのも居心地が悪くって、

その男子学生は半信半疑で声に答えてみた。

「そう・・、そうだ。僕が呼び寄せた。

 あなたは本当に恋愛成就の悪魔か、それともいたずらか?」

「どちらでもよい。我にとっては同じことだ。

 我は人の願いを叶え、糧を得る。

 今回はお前の召喚に応えたまでのこと。

 さあ、願いを言うが良い。」

いたずらと考えるには重々しい声。

現に今、家の外は水に潜ったように静かで、

薄暗くなった家の中では魔法陣が淡く輝いている。

魔法陣の輝きを見ていると、まるで導かれるように、

心の中の願望が口からいて出てきた。

「僕には、好きな人がいます。

 同じ学校、同じクラスの女の子です。

 その子と付き合いたい。

 一緒にクリスマスデートがしたい。

 それが、僕の願いです。」

誰にも言ったことがない本心を、言葉にして口にした。

気恥ずかしさに顔が熱くなる。

こんなことを言えば、きっとからかわれるか馬鹿にされる。

もしこれがいたずらならば、なおさらだ。

しかし、地の底からの声は、ふざけることなく真剣だった。

「ほぅ、今、お前の事情を観たぞ。

 お前の意中の相手は、あの女子おなごか。

 よかろう。お前の願い、叶えてやろう。

 ただし、願いが叶った後に、代償を頂くぞ。」

意外な出来事に、その男子学生は代償のことをすっかり忘れていた。

「だ、代償って?」

此度こたびの願いの対象になったもののいずれかだ。

 それは我の糧となる。」

「そんな!それじゃあの子は・・・!

 代償に持っていくのなら、僕の命にしてくれ。」

「もう遅い。お前の願いは聞き届けられた。

 願った本人の命は、代償としては受け取れない。

 それでは願いの身も蓋もなくなってしまうからだ。

 後はせいぜい、願いが成就するまでを楽しむが良い。」

代償の存在に気が付くも、時既に遅し。

地の底からの声は消え、異変は全て元に戻ってしまった。

もう魔法陣が輝いたり、教科書が勝手にめくれたりはしなくなった。

「これ・・・いたずら、だよな?

 そうじゃなかったら・・・。」

後に一人残されたその男子学生は、ぶるっと身震いをした。


 そんなことがあった次の日。

その男子学生が、いつものように学校へ行くと、信じられないことが起こった。

「ねえ、ちょっと、そこのあなた。

 もし良かったら、休み時間にわたしと話さない?」

そう話しかけてきたのは、その男子学生が想いを寄せるあの女子学生。

どうしたことなのか、その女子学生の背中まであった美しい髪は、

肩の辺りで短く切り揃えられていた。

髪を短くしたその女子学生は、上目遣いの笑顔で、

その男子学生に話しかけてきたのだった。

意中の女子学生の方から話しかけてもらって、

一も二もなく、その男子学生は了承。

授業の後の休み時間に、人気ひとけのない空き教室で、

その男子学生はその女子学生と二人っきりになった。

教室に入るまで背中を向けていたその女子学生は、

二人っきりになると、くるっと身をこちらに向けた。

いつもの凛とした様子とは違う、可愛らしい動き。

しかしその男子学生には、これがその女子学生の本当のように感じられた。

「ねえ、あなたは今、付き合ってる人はいるの?」

遠回しだが直接的な問いに、その男子学生はドギマギと答える。

「ううん、誰とも付き合ってないけど。」

「そう。だったら、今度のクリスマス、私とデートしてくれない?」

「な!?ななな、なんだってえ!?」

その男子学生は驚きすぎて、思わず腰を抜かしてしまった。

恋人いない歴イコール年齢のその男子学生に、遅い春がやってきたのだった。


 そうしてその男子学生は、思いも寄らない形で、

意中の女子学生の方からクリスマスデートに誘われることになった。

これは夢か幻か、神の思し召しか。

それからその男子学生が考えたのは、あのおまじないのこと。

「そういえば、恋愛成就のおまじないをして願ったんだっけ。

 あの子とクリスマスデートがしたいって。

 じゃあ、これは全ておまじないの効果というわけか。

 なあんだ。そりゃそうだよな。

 僕みたいなモテない男が、女の子の方からデートに誘われるわけがない。」

浮き足立った心に、失望が重しのようにのしかかる。

自分の力ではない、おまじないというインチキによる結果。

しかし、それでも。

意中の女子学生からクリスマスデートに誘われたという事実に、

幸福感がじわじわと湧き出てきた。

「おまじないの結果にせよ、あの子とクリスマスデートができるのは事実。

 これでようやく僕もクリスマスを一人っきりで過ごさずに済むぞ。

 そうと分かったら、目一杯楽しまなきゃな。

 さあ、当日までに準備をしなければ。」

おまじないの結果は結果と開き直って、

その男子学生はその女子学生とのクリスマスデートを楽しむことにした。

遅い春を迎えたその男子学生の頭には、

おまじないの代償のことはすっかり抜け落ちていた。



 それから数日後。

今日は、その男子学生と女子学生がクリスマスデートをする日。

「や、やあ。待った?」

「ううん、今来たとこ。」

二人とも精一杯のおしゃれをして待ち合わせ場所で出会うと、

ぎこちなく挨拶をしてから街へ繰り出した。

二人でクリスマスムード一色の街を堪能する。

ウィンドウショッピング、食べ歩き、クリスマスオーナメント鑑賞。

一人では色褪せて見えたそのどれもが、

好きな女子学生あいてと一緒だと、目が眩む程に楽しかった。

カップルだらけの街が、今は心地良い。

「ねえ、次はあっちに行ってみようよ!」

話す女子学生の顔は眩しい笑顔で、これがデートなのかと実感させられた。


 そうして、日は暮れて夜になって。

その男子学生と女子学生は、カップルで混み合う一角にやってきた。

そこには大きなクリスマスツリーがあって、

色鮮やかなクリスマスイルミネーションの虹彩が踊っていた。

踊る色彩を目に受けながら、

その男子学生と女子学生はいつの間にか手を繋いでいた。

ある程度の関係を重ねたカップルには、この後も行く場所があることだろう。

しかし、その男子学生と女子学生は、まだ初めてデートしたばかりの学生同士。

二人にとってのクリスマスデートは、そろそろ終わりを迎えようとしていた。

その女子学生がクリスマスイルミネーションから目を離して言う。

「今日はありがとう。わたし、すごく楽しかった。」

クリスマスイルミネーションを受けたその女子学生の目が潤んで見える。

このまま帰すのが惜しい。そう思うと、返事が出てこない。

その男子学生が返事もできず、その女子学生の手を握っていると、突然。

ドゥンと地の底から振動がしたかと思うと、目の前の全てが色彩を失った。

その女子学生の目も姿も、クリスマスイルミネーションも、周囲の人々も、

色彩を失って石のように動かなくなってしまったのだった。

「な、なんだ?どうしたんだ、君!」

その女子学生の肩を掴むが、石のように固まって動かない。

するとまたしても地の底から、あの重々しい声が聞こえてきた。

「これにてお前の願いは成就した。

 では約束通り、願いの対象を我の糧とさせて貰う。」

その女子学生とのクリスマスデートがあまりに楽しくて、

つい、その男子学生は失念していた。失念しようとしていた。

あのおまじないには、代償が伴うということを。

「やっ、やめろ!彼女には手を出させないぞ!」

「無駄だ。これはお前が望んだことだからだ。」

姿が見えない相手を探して、その男子学生は視線を走らせる。

しかし、おまじないをしていた時と同じく、相手の姿は見えない。

やがて、ズァっと吸い込むような強風が吹き付けた。

その強風に吹かれると、その男子学生は強い虚脱感に襲われた。

何かに吸い込まれるような感覚。

意識を保っていることができない。

「やめろ・・・!彼女を、奪わせるものか・・・!」

しかし威勢が良いのは言葉だけで、

やがてその男子学生は女子学生を庇うようにして、

立ったままで意識を失ったのだった。


 冬の空気、人々の喧騒、クリスマスイルミネーションの虹彩。

その男子学生は、立ったままで失っていた意識を取り戻した。

「うっ・・・あいつは!?この子を連れて行かせるものか!」

威嚇するその男子学生に、周囲のカップルたちが訝しげにする。

どうやら、意識を取り戻したのは自分だけではないらしい。

周囲の色彩は戻り、凍っていた時も動き始めていた。

地の底からの声はもう聞こえない。

きっともう、願いの代償を奪われてしまったのだろう。

ガックリと崩れ落ちるその男子学生の、後ろから袖を引く手。

「ねえ、あなた、急にどうしたの?」

手を辿ると、そこには、あの女子学生が立っていた。

その男子学生は、慌ててその女子学生にしがみついた。

「良かった!無事だったんだ!」

「ちょ、ちょっと・・・!」

抱きつかれたその女子学生は顔を赤らめている。

それから二人は、比較的人通りが少ない場所に移動して、

事情の説明をすることにした。

「じゃあ、あなたは、恋愛成就のおまじないで、

 わたしとクリスマスデートがしたいって願ったんだ?」

その男子学生が恋愛成就のおまじないの話をすると、

その女子学生は疑うこと無く受け入れてくれた。

おかげで話はスムーズに進んだ。

「うん。それでてっきり、代償に君の命を取られたと思って。

 でも、君の身に何も無かったのなら良かったよ。」

ともかくもほっとしているその男子学生の前で、

その女子学生は背を向けて手を後ろに組み、足先で地面を弄んでいる。

顔は見えないまま、その男子学生は疑問を口にする。

「あの恋愛成就のおまじないの悪魔は、

 願いの対象になったものを代償として取っていくと言っていた。

 願った本人の命では駄目なんだ。

 でも君はこうして無事にいる。

 だったら、僕の願いの代償は、何だったんだろう?」

すると、その時、その女子学生がくるっと身を翻してこちらを向いた。

その顔には溢れんばかりの笑顔が浮かんでいた。

「やったぁ!大成功!」

何のことなのか、その男子学生はとんと見当がつかなかった。


 その男子学生は、恋愛成就のおまじないで、

その女子学生とクリスマスデートをすることを願った。

願いは叶えられ、代償として願いの対象が奪われた・・・はずだった。

しかし今、願いの対象のはずだったその女子学生は無事で、

事情を聞いたその女子学生は大成功と喜んでいる。

事態は自分の手の中に無い、その男子学生は事情を聞くしかできなかった。

「ど、どういうこと?」

「あのね、恋愛成就のおまじないをしたのは、わたしもなの。」

「・・・なんだって?」

「あの日、家に帰ってすぐに、わたしは恋愛成就のおまじないをした。

 恋愛成就のおまじないの悪魔は、わたしのところにも現れたの。

 わたしが願ったのは、好きな人の願いが叶いますように。

 その願いは叶えられて、次はあなたのところに、

 恋愛成就のおまじないの悪魔が現れた。

 わたしの願いの代償は、私の髪。

 願った本人の命以外なら代償に含まれるみたい。

 それで、私の髪はこうなったってわけ。

 どう?短くしたのは初めてだけど、似合ってるかな?」

その女子学生は、今は肩までに短くなった髪に手を当てて見せている。

少し短くなった髪も、彼女の快活さを良く現しているなと、

その男子学生は見とれていた。

見とれて疎かになっていた思考を元に戻す。

どうやら、自分の下に恋愛成就のおまじないの悪魔が現れたのは、

その女子学生の願いによる結果だったらしい。

そのことが示すある事実に、その男子学生はまだ気が付いていない。

その男子学生が気にしているのは、自分自身の願いの代償だった。

「き、君の言うことはわかったよ。

 恋愛成就のおまじないは本物だって、僕も確認したしね。

 君の願いの代償が髪の毛で済んだのは、

 願いがあまり大きなものではなかったからだろう。

 じゃあ、僕の願いの代償は何だったんだろう?」

「うふふ、まだわからない?

 わたしの願いと同じく、そんなに大きな代償じゃないはずだよ。

 わたしにはもうわかっちゃった。」

好きな女の子とクリスマスデートをしたい。

そんな願い事の対象であり代償は何だろう。

その男子学生には、いくら考えても答えが出ない。

だから、いたずらっぽく微笑むその女子学生を頼った。

「わからない。教えてくれ。

 僕の願いの代償は、何だったんだ?」

「ふふふ、これこれ。」

するとその女子学生は、手首に巻いていた小さな腕時計を指さした。

言われてその男子学生も腕時計を見る。

時間に変化はない。

だけど日付を見て、その男子学生は仰天。

12月17日。

確かにクリスマスデートをしていたはずなのに、

腕時計の日付は、クリスマスの一週間前に戻っていた。

「なんだこりゃ!?12月17日!?時間が、巻き戻ってる!?

 時計の故障じゃないよな?」

「そう。

 あなたの願いの対象は、あなたとわたしと、それからクリスマスデート。

 だから代償として、クリスマスデートが取られちゃったみたい。

 時間が丸々一週間くらい巻き戻って、今日は12月17日。

 そのせいで今日のデートは、クリスマスデートじゃなくなっちゃった。」

「なんてこった、そうだったのか。

 まさか時間を代償に取られるだなんて。

 でも・・・、君が無事で良かった。

 クリスマスデートが消えちゃったのは、残念だけどね。」

今度こそ、恋愛成就のおまじないで願いが叶えられて、

その結果、その男子学生もその女子学生も、二人とも無事なのが確認できた。

ほっとするも残念そうなその男子学生。

するとその女子学生は、可笑しそうに言うのだった。

「残念に思うことは何一つ無いでしょう?

 だって今年のクリスマスは、これからもう一度やってくるんだから。

 覚えてる?このデートに誘ったのは、わたしの方からだったよね。

 今度はあなたから、わたしをクリスマスデートに誘ってくれる?」

「あ、ああ。ああ!そうだね。

 クリスマスはもう一度やってくるんだ。

 改めて、僕の方からお願いするよ。

 僕とクリスマスデートをしてください!」

頭を下げて手を差し出すその男子学生。

その願いへの答えは、その男子学生もその女子学生も、

二人とも既に知っていることだった。



終わり。


 今年ももうすぐクリスマス。

クリスマスデートを楽しむカップルの話を書きました。


作中、男子学生の念願のクリスマスデートは、

恋愛成就のおまじないの悪魔に奪われてしまいました。

でも、奪われたクリスマスはまたやってくる。

クリスマスデートのお誘いを女子学生に受けてもらえるのか、

答えは既に一度見ているのでもう安心です。


恋愛成就のおまじないは、願いが成就した後、

願いの対象の何かを代償として持っていかれますが、

実はこのおまじないには、ある攻略法があります。

それは、お互いに相手を想う二人が、お互いを願いの対象にし合うことです。

そうすると、お互いに致命的な代償を払わずに願いを叶えられます。

これこそが、このおまじないが恋愛成就のおまじないである所以ゆえんです。

あるいは恋愛成就しているほど、このおまじないは上手くいくのです。


男子学生と女子学生の二人は、期せずしてこの攻略法を実行していました。


お読み頂きありがとうございました。


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