入学試験 1
王立魔法学院の入学試験当日。
ケインは校門まえであくびをしていた。
試験会場が分からなかったため、周りの行き先を窺っていたのだ。
「オイオイ聞いたか? 今年は脱糞勇者がこの学院を受験するらしいぜ...」
もう何回目だろうか。
どうやら俺は有名人らしい。
「おい、目を合わせるなよ。 目があった相手に脱糞の呪いをかけることができるらしいからな」
酷い言いようだな。
だがその魔法。
実に素晴らしいアイデアだ。ムカつくやつにうってつけではないか。
今度考えてみようか。うん、そうしよう。
王様は学生という身分を楽しめと言ったが、
合格したところで普通の学生にはなれないだろうな。
そんなことを考えていると、急に周りの空気が一変するのを感じた。
後ろからはコツコツと心地よい革靴の足音。
注目の主が自分の横を通り過ぎる瞬間、目が合った。
肩まで伸びた美しい金髪。
エメラルドのように美しい緑眼。
所作からは育ちの良さがにじみ出ていた。
だが、そんな好印象は、一瞬ではじけとんだ。
アイツ、俺の顔を見て鼻で笑いやがった。
脱糞魔法があったなら、懲らしめてやりたいぐらいだ。
とりあえず……
ま、適当なやつについていくか。
――― * * * ―――
試験会場に入ると、さっきのどこぞのお嬢様が視界に入った。
どうやら同じ試験会場らしい。
結構な数がいるってのに、ひときわ目立つ。
自分の席に座ると、後ろの男から声をかけられた。
「おい脱糞男。 頼むからこの試験会場で糞をもらしてくれるなよ。」
男の発した言葉に、会場が嘲笑で包まれる。
センター分けの髪型をしたその男は、いかにも性格の悪そうな表情をはりつけていた。
「聞いた話によると、勇者パーティーでもクソだったらしいな。 クソはクソらしく生きろよな。」
「分かった。 俺はクソだ。 クソらしく生きるよ。」
「お、おう 分かればいいんだ...」
腹は立つ。
だが素直に反応するより、相手の反応を楽しみたい。
事実、こいつは困惑している!
それからいくばくかの時が流れる。
試験監督の入場により、会場の雰囲気は緊張感と静寂に変わった――