勇者、脱糞する
「俺たち、魔王を倒したんだな。」
騎士団に囲われての凱旋。
騎士の配置で作られた一本道を歩く。
自分らを称える歓喜の声が街に響き渡る。
歓声を聞き、自分たちが勝利を手にしたことを実感する。
それと同時に、虚無感が満ち溢れる。
魔王討伐に全てを捧げた俺の人生。
これから自分は誰からか必要とされるのだろうか。
魔王亡き今、もう勇者は用済み。
人々は勇者を求めないだろう。
――― * * * ―――
王城のバルコニーから民衆を見下ろしていた。
勇者一行を代表して自分が挨拶をすることになったのだ。
他の者がやるといっても、自分にやらせてくれとお願いしただろうが。
目下に見える民衆には、期待と高揚の感情が入り混じっている。
きっと、安寧の約束にお祭り気分なのだろう。
固唾を飲んで、いまかいまかと俺の発言を待ちわびている。
民衆の注目が集まる中。
ズボンを下ろして挨拶を始めた。
ついでに挨拶中に脱糞もしておいた。
静寂の中、自身の発した声はよく通った。
もちろん、すさまじい脱糞音もよく響いた。
とてもすがすがしい。
魔王討伐だなんてクソみたいな任務とはおさらばだ。
これからは自由にやらせてもらう。
誰にも文句は言わせない。
平和の立役者の一人なのだから。
――― * * * ―――
王室のソファーはとても座り心地がいい。
俺たちは地べたで寝泊まりしてったのに。
「何やってるんですの!! あ な た は!!!!」
前のめりになり怒鳴りつけてくる魔法使い。
肩までかかった金髪が、その衝動でふわりと揺れる。
「いや、おまえにもあるだろ? なんか急にこんなことしたらどうなるんだろうか? 的な衝動。」
「あったとしても、普通思いとどまるものでしょうが!!」
「何を言う。 俺たちは勇者様御一行だ。 普通なわけあるものか。」
肩をわなわなとさせる魔法使い。
今にも怒声が溢れてきそうな雰囲気を醸し出している。
「まぁよいではないか...」
「よくないです!!!!」
同席していた王が仲介に入るも、あっさりと切り捨てられる。
「とはいえ話が進まない故... 今のところは抑えてくれ」
わざとらしく咳ばらいをして、話を進めだす王。
「そなたらの今後についてだが、勇者ケインよ。 そなたは来年度から王立魔法学院に通うとよい」
「王立魔法学院ですって!?」
「どうしたローズよ。 ケインが王立魔法学院に通うことに問題でもあるのか?」
「いえ、そういうわけでは...」
「ということでケインよ。 そなたは学生という身分を存分に楽しむとよいぞ」
「はい、学生という身分を存分に楽しみたいと思います」
「心配だわ...」
肩を落としたローズのため息が、彼女の不安をよくあらわしていた。