表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

レールに沿った人生でいいじゃない

出張で東京に来た際、かの有名な京急快特に乗ってみました。最高でした。イヤホンでベートーヴェンの第九交響曲を聞いていると、ふとある着想を得ました。そこで、現代社会で働く若者たちの葛藤や迷いを、クラシック音楽と鉄道の独特の世界を通して描く物語を紡ぎました。登場人物は今の所一人ですが、彼の物語を通して皆様が共感できる何かを見つけられることを願っています。


私の表現力や筆力にはまだまだ課題がありますが、皆様に少しでも心に残る物語をお届けできるよう努力いたします。どうか、温かい目で読んでいただけると幸いです。

「京急とクラシック」


土曜日、午後。大手金融機関の総合職として働く鈴木は、たまの休日を楽しんでいた。大学を卒業してから、彼は専門スキルを持ちながらも、日々の仕事に追われることが多かった。久しぶりに訪れた一人の時間を満喫することにした。


彼は京急快特の下り電車に品川から乗り込んだ。偶然、転換クロスシートが配置された2100系の先頭車両の全面展望席が空いていたので、彼はそこに座ることにした。そこから見える景色は、心の中と同じく変化に富んでいた。


鈴木はリッカルド・シャイー指揮、ゲヴァントハウス管弦楽団演奏のベートーヴェン交響曲第3番第4楽章を聞きながら、電車が加速するのを感じた。この盤は重厚な豪速球であり、テンポを上げても決して雑にならない。細部の細部まで緻密な表現が崩れることはない。


京急快特は、品川〜横浜間で120km/hの最高速度や京急車両の強烈な加速性能、120km/h時の唸るようなVVVFインバータ音が特徴的だ。


彼は耳に流れるクラシック音楽と、窓の外を駆け抜ける景色を見比べながら、ふと考えた。クラシック音楽と電車の運転は、意外と似ているのではないだろうか。電車はあらかじめ決まったダイヤや制限速度が、クラシック音楽は楽譜通りの演奏が求められる。しかし安全性と高速性を維持し、お客を魅了する何かを付け加えることが必要だ。


まるで指揮者のように、京急の運転士はマスコンを握り、電車の速度を上げる。ベートーヴェンの交響曲も2100系も、どんどん速度が上がる中で、その美しさや力強さが際立ってくる。


鈴木は、電車の揺れに身を任せながら、自分の人生もまた、そんな風に速度を上げていけるのだろうかと考えた。彼の心には、仕事と趣味、そして将来への希望と不安が渦巻いていた。しかし、この土曜日の夕暮れ、彼は電車とクラシック音楽が織り成す完璧性の中で、彼はただ電車に揺られる静かな孤高を感じていた。


関西出身で経済学部卒の彼は、大学時代に関西の某私鉄で鉄道マンのアルバイトをしていた。割と本気で鉄道マンになろうと思ったこともあったが、運命のいたずらか、今は大手金融機関で働いている。


別に仕事が辛いわけではない。むしろ、彼はうまくやっているつもりだった。しかし、土曜日の夜にふらっと外に出て、なんだか逃避行のような電車の乗り方になってしまった。自分でもなぜそのような行動をしているのかわからなかった。


彼が夕暮れの電車で独り感じる哀愁や無常感、孤独。それらが合わさって生じる孤高。それらは、彼が過去に抱いていた夢と現実の狭間にあるものなのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ