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第27話 王都血闘

長く時間があいてしまいました。

単行本3巻も宜しくお願い致します。

 俺とゴルラそして伯爵とベネティアもまた、後の掃討を負傷して尚士気の高いモブルク卿に任せて王都に飛び込んだ。


 野戦で主力の第2第3軍団が打ち破られた上に奇襲部隊に踏み込まれた王都内は大混乱だ。


 王都の守備隊は算を乱して逃げ回り、既に武器を捨ててしまっている者も多く戦闘部隊として機能していない。


 油断でもなんでもなく既に勝ちと言い切って良い状況だ。


『悪の代官め成敗に参った!』


 そして件のリシュの声は王都の中心、王城から響いていた。

相手は自称王の公爵なのだがリシュの中では悪といえば代官らしい。


『そこにいたのか! 神妙にお縄――』


「あの子はなんでまた敵のど真ん中にいるのか」

「リシュの声で城の中の状況がだいたい把握できてしまうのがすごいな」


 恐らくリシュは何らの手段で再度荷馬車隊に潜入してしまい、そのまま偽装部隊に紛れてやってきたのだろう。荷馬車隊は囮で場合によっては焼き払わさせる予定だったので一安心ともいえるのだが。


 ともあれ早急に回収しないと。


『う、うわっなんだお前達は! ええい手向かうか! 者共やってしまえい!』 

 

「状況怪しくなってきたぞ……」


『なんだこの金属の塊! ヤバい引け! ものども退け―!!』


 声が途切れると同時に味方部隊が王城から飛び出してきた。


 その後を追うように王城から数百の騎兵が飛び出す。

全員が鋼のフルプレートを纏い、その装備は第4軍団の重騎兵より勝っている。


「ナヴィス直属の騎士団だ! 王城内に温存していたか……ならば奴もいる!!」


 バルベラ伯が呻く。



「総員、陛下を逃がすぞ。血路を開け!!」


 騎士団は号令一つでたちまち見事な突破陣を組む。


 味方部隊もなんとか阻止しようとしたが、その衝撃力は凄まじくたちまち突破されてしまう。


「ナヴィスを逃がすな! 門を封鎖せよ!!」


 ベネティアの命令で全部隊が正門前を固めて瓦礫や木材も積み上げられる。

さすがにこれを突破するのは不可能と思われるが。

 

 敵騎士団は慌てることなく進路を変えて、王都の端、倉庫が連なっている地区へと駆けていく。


「馬鹿め王都の出入り口は正門ただ一つ! どこに逃げても袋のネズミ……」


 ベネティアの弁を伯爵が遮る。


「苦し紛れにしては動きに迷いがない! 正門の封鎖を解除せよ。全部隊をあげて追撃に入れ!」


 俺も伯爵と同意見だ。

奴らは明らかに目標をもって移動している。

そしてナヴィスが王族に連なる者であることを考えれば――。


「王都外壁の一部が崩れます!!」


 突然土煙を立てて石造りの外壁が崩れ落ちた。


 既に王都に進入している味方が攻城兵器を使う意味はない。

また強力な重騎兵とはいえナヴィスの騎士団が石造りの壁を叩き壊せるわけがない。


「最初からそういう仕掛けがあったということか! 王族のみが知る仕掛けが!」


 王都王城は文字通り王家の城だ。

王族以外には知られていない仕掛けが山ほどあってもおかしくない。

ナヴィスが王都を奪取した後、現王を捕らえられなかったのもそのせいだろうか。


「なんて言っている場合じゃない。まずいぞゴルラ!」


「ああ、奴らの行く先にリシュがいる!」


 運が良いのか悪いのか、王城で蹴散らされた部隊が逃げた先は崩された壁の方向……つまり敵の退路を塞いでしまっているのだ。これでは敵の猛攻撃を受けることになりリシュの命も危ない。


 リシュを救うには俺達が無理やりにでも突撃するしかない。


「ゴルラ頼むよ! こっちからも圧をかけないと前が殲滅される!」

「おう!!」


 ゴルラが剣を構えて敵騎士団に突っ込んでいく。


「むっ貴様抜け駆けする気か! 見上げた根性だが大将首は渡すものか!」


 何やら勘違いしたベネティアも続いて駆けていく。



「む、貴様は……」


 敵騎士の一人がゴルラに気付いて反転した。 


「どけ! 今は構っている暇がない!」


 だが相手の騎士は馬から降りてゴルラと相対する。


「主の命が掛かっている。そうもいかぬとわかるだろう?」


 ゴルラも焦りながら足を止める。

強行突破できる相手ではない。


「ナヴィス陛下の騎士。ブーカ・オグトロス参る!」

「ゴルラだ! 押しとおる!!」



 ベネティアの方もまた別の騎士と騎乗のまま相対する。


「三度会うたな千人長。ここまで来れば運命を感じぬでもない」


「そんなものはない。ここで貴様を討ち取る」


 幾度のベネティアと戦った美麗騎士は兜と剣の鞘を投げ捨てた。


「グルス・エルトミア。いざ参る」 

「ベネティア・イルレアン。その首もらい受ける!」


 どさくさに紛れて昔の姓を名乗ったベネティアもまた切り結ぶ。


 そこに味方兵士も追い付き、一騎討ちと乱戦が同時に始まった。



「どけぇぇぇぇ!」


 ゴルラの声が戦場の喧騒をすら切り裂いて響く。

通常の倍はありそうな太い両手剣が風切り音と共に振り下ろされる。

丸太のような腕から繰り出される振り下ろしは並の兵士が受ければ盾ごと押しつぶされかねない。


「どかぬ! 押し通れ!!」


 だがナイト・ブーカもまたゴルラに微塵も劣らない太い腕に血管を浮き上がらせながら振り下ろしを受け止め、一声呻いて弾き返した。


 ゴルラの剣が跳ね上がり巨体が一歩後ずさる。


 その隙をナイト・ブーカは見逃さない。

筋肉の塊のような体が躍動し、隙だらけの胴を狙って強烈な斬撃が放たれる。


「ぐっ!」


 ゴルラは咄嗟に体を捻るが避けきれない。

剣が火花を立てて甲冑の表面を削り、脇部の鎖帷子を切り裂いて鮮血が飛んだ。


「がぶっ!」


 だが同時にあがった呻き声はゴルラの口から出たのではない。

斬撃に合わせるようにゴルラが振り抜いた左腕がナイト・ブーカの顎を打ち抜いたのだ。


 よろめきながら折れた歯を吐き捨てるナイト・ブーカを今度はゴルラが追撃する。


 脇から流れる血をものともせずに振りかぶったゴルラは大上段から強烈に剣を振り下ろす。

ナイト・ブーカは最初と同じように盾で受け止めるが、顎への一撃で頭が揺れているのか力が足りず、弾けず姿勢を崩す。


「ウォォォォォ!」


 ゴルラは野獣のような雄たけびと共に剣を振り上げ、何度も何度も振り降ろす。


「ぐっ! 貴様! ぐおっ!」


 ゴルラの剛力で振り下ろされる連撃によって盾はひしゃげ、遂に壊れてしまった。

盾を失ったナイト・ブーカは咄嗟に小手で受けるも、甲冑は豪快に凹み、生木を折るような音が響く。


「これで決める!」

「まだ終わらん!」


 とどめの一撃を放とうとするゴルラに対して、ナイト・ブーカは小手にめり込んだ剣ごとゴルラを引き寄せ、片手で構えた剣を突き出す。


 下からの突きはゴルラの腰の隙間から腹部を捉えた。


「うぐっ! ぐぅぅ」


 ゴルラはよろめきながら後ずさり、足を伝って血が流れ落ちたが、それでも剣は離さない。


 ナイト・ブーカもまたよろめきながら立ち上がり、折れた腕を垂れ下げながら片手で剣を構える。


「これ以上は戦えん。次で決着といこうじゃないか」


「こっちもこれ以上リシュを待たせられん! 望むところだ!」


 ゴルラとナイト・ブーカはふらつく体をなんとか立たせて向かい合う。


 そして裂帛の声と共に真正面から最後の一撃を繰り出しあう――。





「ふっ!」

 

 ベネティアの剣が横一文字に降り抜かれる。


「ほう鋭い!」


 だがナイト・グルスは余裕綽々、風切り音を立てて迫る刃に怯むことなく同じ軌道で剣をぶつけた。

そして僅かに角度をつけてベネティアの剣を滑らせる。


 斜めに振り上がってしまったベネティアの隙を狙って抉り込むような突きが放たれた。


「なんの!」


 だがベネティアは喉を抉ろうとする突きを上から肘で叩いて逸らせる。

そして振り上がった剣を反転させ、兜を捨てたナイト・グルスの頭頂部目掛けて振り下ろす。


「くっ!」


 ナイト・グルスは優雅さのないうめき声と共に落馬寸前まで上半身を反らせ、なんとか回避に成功するも美麗な金髪が一束切れ落ち、血が頬を伝って流れ落ちた。


「ふん。恰好つけて兜を捨てたのが仇になったな」


 ベネティアは剣を戻して再度振りかぶりながら言う。


「そうでもない。重い兜があれば今の一撃避けられなかった。あんな馬鹿力で殴られては兜があっても昏倒してしまっていたさ。素晴らしい膂力……さて、これは女に言って誉め言葉になるかな?」


「貴様! ここに至っても小馬鹿にするか!!」


 激昂して斬りかかろうとしたベネティアの喉元を閃光のような斬撃が掠める。

反射的に体を引いたベネティアの喉にスッと赤い線が入り、数滴の血が流れ落ちた。


 まさに紙一重。

十分の一秒引くのが遅れていればベネティアの喉は切り裂かれていただろう。


「馬鹿になどしておらんよ。貴様は強い。全霊でかからねば斃れるのは俺だ」


 ナイト・グルスは目を見開き、ベネティアを正面から見据えて言う。

その瞳には嘲笑どころか一片の余裕もなかった。


「次で決めよう。ゆるりと戦っている時間がなくてな」


「望むところだ!」


 ベネティアは剣の柄で額を叩いて気合いを入れ、フッと大きく息を吐いて駆ける。

ナイト・グルスもまた歯の隙間から鋭く息を吐き、剣をクルリと回してから駆ける。


 雄たけびも気合いの声もない。

二人は全ての力を次の一撃に集中させて交差した――。




 敵陣に切り込んだ二人の一騎討ちを見ながら俺と伯爵のいる本隊も敵に追い付く。


「ユリウス。俺達も前に出るぞ」


 ここでなんと伯爵が剣を抜いて前に出る。


「司令官が前に出るのは……」

「決戦である。続け」


 最高司令官にこう言われてしまえば部下の身としては選択肢はない。


 俺は伯爵に続きながら戦況を分析する。


 敵騎士団は圧倒的に精強でリシュのいると思われる部隊を一方的に蹴散らし、先頭は既に脱出口へと到達している。しかし蹴散らされて逃げ惑いながらの散発的な抵抗は敵の足をそれなりに遅らせており、俺達は敵の尻尾になんとか食いついた格好だ。


 戦況と部隊から見て脱出部隊にナヴィス本人がいるのは明らかだ。

王都での勝利は最早決まったが、ここで彼本人を押さえれば内戦そのものが終結する。


 つまり……司令官自ら危険を犯しての突入が間違っているとも言い切れない。


「わかりましたが……あてにしないで下さいよ」


「ふ、どこまでも飄々とした奴だ」


 そういうのじゃなくて本当にあてにならないからね。


 

 伯爵を中心に第4軍団の重騎兵が敵の背後から突っ込んだ。


 周囲で数騎が斬り合うも、押しきれた者はなく全員が止められ、逆に二名ほどが斬り捨てられた。

やはり敵は相当な手練れだ。


「貴様バルベラか! これぞ天啓、ここで討ち取ればこの戦いも……ぐおっ!」


 伯爵は振り下ろされる剣を刀身で受けて滑らせてから、伸び切った肘部を斬り払う。

敵が苦悶の声と共に前のめりになった瞬間に甲冑の上から頭頂部を盾で一撃、敵はバランスを崩して落馬し、顔から地面に落ちて動かなくなった。


「おのれ木っ端貴族!! 名門ハートス家に連なるこの俺が――」


 次いで襲いかかってきた相手の突きを刀身が頬を這っているかと思うほど紙一重で避け、その腕をとって引き寄せる。


「お前など知らん」

「ぐ、名門ハートスを知らぬなど、これだから新参の……」


 バルベラ伯は敵の腕を捩じり上げながら続ける。


「お前自身を知らぬと言ったのに家名を語るな愚か者が。貴様のような愚鈍、新たな世にはいらん」

「バ、バカやめっ! 俺は貴様のような奴が手にかけて良い者では……ギャッ!」


 伯爵は敵の喉下の隙間から剣先を突き入れる。

掠れた悲鳴に続いて大量の血がフルプレートを赤く染めた。


 大将自らたちまち二人仕留めてしまった。


「敵と剣を交えるは本来お前達の役目であろう。俺だけが戦ってどうする」


 バルベラ伯が苦笑しながら言うと兵達は気勢をあげて敵を押し込み始める。

将自ら戦って兵を鼓舞するとは劇中の話だけではなかったようだ。


「ユリウス。お前も俺の後ろにばかりいては兵の手前恰好が付かんぞ。遠慮なく前に出よ」


 伯爵は言いながら血刀を振るいあげて前に出ていく。


「……ええい仕方ない」


 俺は伯爵と違って使用感のまったくないピカピカ新品の剣を抜いて振るい上げて馬を駆けさせる。


 とはいっても俺が斬り合い本職の中世騎士に挑みかかって勝てるわけはない。

ならば目的は一つ、リシュを探し出すことだ。


「むっ貴様! あの軍装は――」

「待て! あの雰囲気は並の腕ではない! 無暗に仕掛けると返り討ちになるぞ!」


 なるべく厳めしい表情を作り。


「わ、我こそはエミオン家が4男ピコ! い、いざ尋常に――」

「役者不足、下がれ!」


 威厳のある声を出して威圧する。



 乱戦をハッタリで切り抜けた俺の前にひっくり返った味方の馬車が見える。

破壊された馬車を背に少数の味方が戦っていたが、敵の騎士に囲まれ、半分は既に斬られている絶望的な状況だ。


「ふん、雑兵共が王城に足を踏み入れるなど万死に値する」

「ナヴィス陛下に剣を向けた罪、首となって償うがいい」

「特にちびこい女! ウサギのようにすばしっこく逃げおって!」


 直感でリシュだと判断する。

ひっくり返った馬車の中に追い詰められ、敵騎士に槍とクロスボウで狙われているのだ。


 反射的に助けに出そうになったが、俺が決死で飛び込んでもあの中の一人も止められない。


 心を鎮めて周囲を見回す。

逃げ回る味方部隊、脱出しようと駆ける敵軍とそれを追いかける第4軍団、正に大乱戦だ。


 俺は息を吸い込み、剣を抜いて騎士達に向ける。


「敵を発見した。魔法部隊、攻撃準備!」


 その声に反応して敵騎士が一斉にこちらを向く。

 

「ま、魔法部隊だと!?」

「あの軍服は第4軍団の千人長か!?」

「馬鹿な! 敵味方入り乱れる場所で魔法などうてるものか!」


 俺は不快感を押し殺しながら、感情のない冷酷な声で続ける。


「決戦である。構わないから味方ごと撃て」


 敵騎達士の腰が一気に引けた。

 

「ば、バルベラの外道め!」


「既にナヴィス陛下は脱出された! ここで死ぬのは無駄死にぞ!」


「引け、引け引け――!」


 敵は囲みを解いて我先にと逃げていく。


 もちろん魔法部隊などおらず全てハッタリだ。


「嘘だから大丈夫だよ」


 俺は頭を隠して丸まった味方に向けて苦笑しながらリシュを探す。


 だが馬車の中に居たのは別の女の子だった。


「……あれ?」


 俺が女の子の頬をフニフニと触ってから顔をあげた時、特大の歓声が起こる。




 ゴルラとナイト・ブーカがの剣が交差する。


 数瞬おいてゴルラの肩が吹き飛び、ドバッと大量の出血と共にゴルラは剣を取り落として膝をついた。


 反対にナイト・ブーカは剣を握りしめて仁王立ちのまま微動だにしない。


 周囲の兵がざわつく。


「き、決まった」

「ああ、まさか」

「ナイト・ブーカが……平民に負けるなど」


 ナイト・ブーカの短く揃えられた頭髪が真っ赤に染まっていく。


「力の剣、見事なり」


 ナイト・ブーカはそう言って笑い、仁王立ちのまま前のめりに倒れた。


 


 騎乗のまま交差したベネティアとナイト・グルスは互いに向き直る。

美女美男子の二人がそうする様は、まるで劇のように見えた。


「……なぜ最後に剣を引いた」


 ベネティアはそう言いながら鮮血に染まった顔を拭う。

 

「ふ、どの道お前の命には届かなかったさ。美顔に傷だけつけるのは無粋というものだ」


 ナイト・グルスは切り裂かれた頸動脈から噴水のように噴き出る血を押さえようとしてやめた。


「血薔薇にまみれて死ぬのも……また一興か」


 ナイト・グルスは一つ笑い、そのまま傾き落馬して息絶えた。  




『グルス卿ご戦死!!』

『ナイト・ブーカ 討ち取ったり!!』


 敵味方が同時に音声をあげた。


 これをもって俺達を足止めしようとしていた敵騎士団は完全に崩れた。


「ユリウス敵が崩れたぞ」


 伯爵がやってくる。

その甲冑は更に返り血を浴びており剣も二本折れて三本目を持っている。

こりゃ彼には物理的にも逆らっちゃいけないな。


「ナヴィスは逃がしたか」

「残念ながら」


 敵の先頭は既に相当な距離まで逃げている。

当然ナヴィスは真っ先に逃げただろうし相手が総騎兵であることを考えれば追い付ける見込みはない。


「壁を崩しての脱出までは想定できませんでした」

「王族しか知らぬ仕掛けであろう。やむを得まい」


 さて、ここで本来ならば追撃は無意味と言いたいところなのだが。


「逃げ遅れた敵を追撃し殲滅すべきです。精鋭部隊は全て騎士達で構成されています。これは――」


「貴族共の子弟がほとんど。殲滅すれば家の者は見捨てて逃げたナヴィスに不満を抱く」

 

 その通り。言いたくないことの補足をありがとう。



 ちなみにリシュはこの後どこにも見当たらず、俺とゴルラが最悪の可能性に顔色を無くしたところで、王宮に飾られた甲冑の中で寝ているのが見つかった。


 軽く甲冑をノックしてみる。


『ん、んがっ!? ワ、ワレはバリズレラに眠る英霊の魂ナリ。触れるとなんかヤバいことになるのでスルーすべし……』


 俺とゴルラは顔を見合わせ、二人で同時に甲冑をカンカン叩く。


「あー! うるさい!!」


 リシュがたまらず飛び出してきた。

きつくお説教しないといけない。

 


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


敗走するナヴィス部隊――。


「おのれ……おのれ……おのれぇ!! バルベラごとき木っ端貴族が! 奴ごときに負けるガルドリエスもバルザーラの重みを理解できぬ阿呆揃いめ!!」


 優雅さの欠片もない汎用馬車の中でナヴィスは何度も壁を蹴る。


「か、閣下お気を確かに! ご領地のオルホードに戻れば兵はいくらでも集まります。周囲の領主も全て子飼いなれば地域全体が要塞のようなものです。まずは――はっ!?」


 部下は鬼のようなナヴィスの表情を見て自らの失言に気付く。


「閣下……だと。俺はもう王ではないとぬかすか!」


「い、いえ! これはただの言い間違いです閣――ゴホゴホ!」


 ナヴィスが剣を抜こうとしたところで前方から馬が駆けて来る。


 周囲に緊張が走ったが、馬に乗る者達がナヴィスの家で使う豪奢な衣服を纏っていることに気付き、逆に安堵の息が漏れた。


「お、オルホードからの迎えですぞ! これで追撃の心配はなくなりましたな! はは、ははは……」

「……ふん。次はないぞ」

 

 ナヴィスは部下を睨みながらも、やはり安堵の表情を浮かべる。


「一時でも下賎の者に王城を明け渡すは不本意極まるが止むを得ん。オルホードで守りを固めつつ軍を再建、しかる後に再び玉座を正道に戻す。暇はない。すぐにかかるのだ」


「もちろんでございます閣下! あっ!?」


 ナヴィスが三度立ち上がった時、迎えの者が馬車の前に飛び込んできた。


「ええい粗暴な。ナヴィスに伝える者であれば――」


 普段ならあり得ないことにナヴィスの弁へ部下の叫びが割り込む。


「ひ、東の国境からゼイサス王国の軍が侵入しております! 進路は我がオルホードです!」


「なんだと!!」


 更に部下の悲鳴のような報告は続く。


「しかも近衛――第1軍団が彼らを先導しているという情報も! 国境付近の領主達はこれに戸惑い、阻止できず見送るのみであると!」


「――――!!!!」


 ナヴィスの声にならない怒声が馬車に響いた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


バルザリオンの戦い


参加兵力⇒戦闘後

王太子派


第4軍団

歩兵2600⇒2200 騎兵400⇒300

イグリス領主兵+宰相直属

1000⇒700

領主兵2000⇒1400

偽装兵500⇒150



ナヴィス派

第二軍団

3500⇒600(降伏)

第三軍団

2000⇒200(降伏)

王都守備隊

1000⇒800(降伏)


ナヴィス直属

一般2500⇒1000 騎士団500⇒300

領主兵

3000⇒1000

次回は戦いから少しだけ離れる予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新終わりなら一言お願い致します!
[良い点] 敵方の将の散り様が格好良かったです。 [気になる点] なんか露骨に主人公を動かすためのダシにされるリシュが可哀想だな…
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