表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/28

第1話 異国の大元帥

ここから本編となります!

 俺は季節外れの嵐の風に煽られて轟々と燃え上がる街を見つめていた。

燃え上がるような夕陽と相まって幻想的ともいえる光景だ。


 大陸東端部、要塞都市ルヴァリオン街の運命が遂に定まった。


「閣下。残念ですがここまでのようです。力及ばず、無念です」


 副官ヴァイパーが歯を食いしばって告げる。

少々きつめながら整った顔立ちと褐色の肌、メリハリのついたスタイルを持つ麗しき女性だ。


「仕方ないさ。元より8000対50万ではどうにもならない。撤退しようにも振り返れば大海原、逃げ場はどこにもない。反乱軍の最期としては劇的すぎるね」


 俺はいつもの苦笑でヴァイパーに告げる。


「そろそろ司令部に白旗をあげよう。日が落ちてからでは見えないかもしれない」


 各部隊に抗戦が不可能になれば降伏せよと指示は出していたが、どの部隊も抵抗をやめる気配がない。


 最後の最後までついてきてくれた彼らには感謝しかないが、これ以上の戦いにも犠牲にも残念ながら意味はない。


「さて人のいない場所を用意してくれるかい?」


 拳銃を確かめながら言う。

聡明なヴァイパーならば意味をわかってくれるはずだ。


「閣下こちらへ」

「ははは、幸いにも予定は全て空いているからね。どこにでもいくとも」


 人目の無い場所を確保してくれたのかと思っていると何故か港に連れていかれる。


 港も敵の砲撃を受けて既に機能を停止している。

有力な軍艦は全て港内で座礁し、輸送船は脱走者を乗せて逃げ散った。


 昨日までは沖合に帝国軍の戦艦が並び猛烈な艦砲射撃を加えていたのだが、今は嵐で海が荒れているせいかその影は見当たらなかった。


「しかしこんな場所まで来なくても適当な場所で……うわっ!」


 言い終わる前に足を払われ、襟首を掴まれて船に放り込まれる。


 動力船ながら砲撃の目標にもならなかったほど小さな船だ。


 既に準備ができていたのか、ヴァイパーがレバーを蹴飛ばすと船はゆっくりと進み始める。


「ここは大陸最東端! 先は探索進まぬ未開の海! この嵐では捜索もできますまい!」


 ヴァイパーはそう言いながら船から岸壁に飛び移る。


 慌てて続こうとするが、俺の身体能力では到底無理な距離だった。


「待ってくれ! 俺の勝手で始めた反乱だぞ。俺が逃げるなんてあり得ない。それだけはない!」


 ヴァイパーは言う。いや叫ぶ。


「皆、覚悟をもって閣下の勝手についていったのです! 勝算があったから? そんな奴らはとうに寝返った! 今ここに居る者達は閣下に正義と希望を見たのです!」


「いやでもね……これ操作どうするんだい……」


 慌てて船を操作しようとしたが、レバーが圧し折られている上に、そもそも俺は船の操作ができない。


「閣下が生きている限り希望は消えない! 最後まで生き残る、それが皆を導いた貴方の責務だ!」


 言い終わるなりヴァイパーは、初めて会った日と同じような、綺麗で完璧な敬礼をした。


「さらばです閣下! いつかもう一度お会いできたなら――」


 その先は風と波の音で聞こえなかった。

俺は溜息をついて木の葉のように揺れる船に寝転がる。

 

「まあ……結果は同じか」


 嵐の外洋にこんな小型の船では、すぐに転覆してお陀仏だろう。

苦しんで死ぬだけになるだろうが、それもまた世界を乱した愚か者の責務だと受け入れよう。


 俺は苦笑しながら、全てを受け入れようと目を閉じた――。



 幾日かが流れて嵐は収まった。


 また幾日か流れ、食料がなくなり、そのまた幾日後には水がなくなった。


 俺はただ目を閉じ、運命を受け入れようと横になり続けた。


 また幾日が過ぎ、飢えと渇きと暑さで意識が闇に落ちていく――。



 小さな衝撃で意識を取り戻す。


 そして渇きで掠れた声で独語してみる。


「なんとも遠回りしたものだけど、ようやくあの世についたかな」


 何日ぶりかに開いた目に飛び込んで来たのは……。


「浜辺……」


 浜に打ち上げられたらしい船から身を乗り出すと船の側面に沢山のカニが取り付いている。


「うわっ!」


 どう見ても人の顔にしか見えない模様のカニは俺の声に驚いたのか逃げ去り、代わりにどう見ても人間の手のようなものが生えたヤドカリが指のような足でゆったり海岸を歩くのが見える。


「な、なんだいこりゃ。地獄にしてもちょっと気持ち悪すぎでは……」


 呟きながら目線をあげると遥か遠くに火山特有の均整のとれた形をした美しい山が見えた。

大陸の地図は腐るほど見たが、浜辺からあんな火山の見える場所はどこにもない。


「ここは大陸じゃないのか……はは、なんてことだ。逃げおおせてしまったよ」


 俺は浜辺にへたり込む。


 ヴァイパーの望みに添えたと喜べばよいのか、何百万も殺した自分がおめおめ生き残ったと悲しめば良いのか。


 ダメだ。

空腹と渇きでまともな思考ができない。

 

「ボルノフ様。誰かいますぜ。遭難した漁民でしょうか?」


 ぼやけた頭でも人の声には鋭敏に反応する。


「身なりがいいですね。商家の奴が賊に襲われでもしたのかも」


 品のない声に馬蹄の音……どうやら幻聴でもないようだ。

助けを求めてみようか。


「はっ。どっちでもいいさ。下賎な奴の身元なんて……」


 声の方向に顔を向けた瞬間に衝撃が走り、俺は砂に顔を突っ込む。


「……いたい」


 蹴られたのか? 

初対面で蹴り飛ばすなんてどういうやつなんだとをあげた顔を踏まれる。


「ゴミクズみてえだな下民。でも仕方ねえ、俺は強くてお前は弱い。文句があるなら俺の足を跳ね除けて抵抗してみろ。くく、できるならよぉ」


 などと言いながら頭をグリグリ踏まれる。どうやら相手は体躯に恵まれた男らしい。

不平はあるが残念ながら抵抗するだけの体力が残っていない。


「なんだよ。何の反応もしねえ。まったく下民共はちょいと逆らう気概すらねえ。女なら少しばかり使ってやるところだが、男じゃあな……このまま踏み潰してみるか?」


 あれだけの大惨事をやった俺がこんな理不尽な暴力で死ぬとは。

何とも呆気ない結末だが、世界とはこういうものかもしれない。


「ボルノフ様。こいつの服、汚れていますが良く見たら相当な上物ですぜ」

 

 帝国の将校軍服をそのまま着ていたそうだろうな。


「金細工までつけています。こりゃ恐ろしく精巧だ」


 さすがに将軍時代の勲章は外していたが、副官ヴァイパーのあげた戦果で貰った黄金盾勲章だけはそのままつけていたのだ。


「下民の癖に金細工とは……生意気な。取って潰してしまえ。お前らの酒代ぐらいにはなるだろ」

 

 服を奪われ、勲章が毟り取られる。


『暴力を振るうな』『大事な物を奪うな』

俺はそんなこと言える立場ではない極悪人だ。

そう分かっていたのに。


 毎日嬉しそうに勲章を磨いて胸につけてくれたヴァイパーの顔が浮かび、俺は銃を引き抜いて目の前の三人に向けていた。


「服はくれてやる。だが勲章は返せ」

 

 時代遅れの旧式単発銃。

一つの目的にしか使う予定の無いものだったが、威嚇ぐらいにはなるだろう。


「あれ?」


 だが相手の顔を見てみると、まったく脅えていないことに気付く。

銃など恐れぬ勇猛さ――でもなく、ただキョトンとしているのだ。


「なんだそりゃ短剣か? いや刃もねえ、ただの筒じゃないか」


「ボルノフ様に踏まれ過ぎておかしくなっちまったんじゃ?」


 思わず肩を落とす。これは銃を知らない反応だった。


 俺達の大陸では子どもでも銃ぐらい知っているが、ここは未知の場所、こういうこともあろう。

 

 よく見れば三人は腰に剣を差している。

中世レベルの文化圏だったのだろうか。


 そして三人の中の一番体格が良くて偉いであろう男が俺に露骨な敵意を向ける。


「頭がいかれてようと、向けたのがただの筒だろうと……下賎のカスが俺様に逆らいやがった。それだけで万死に値する! 焼け焦げてのた打ち回れ!」


 リーダーの男はそう言いながら何故か剣を抜かずに両手を前に突き出した。

その仕草は意味不明だが、脅しが効かないとすれば撃つしかない。


「新兵よりも下手くそと言われた僕だけれど、この距離ならば」


 男の眉間に狙いを定めてから、すぐに足元に修正する。

 

 俺の大事な物、あるいは命を守る為であっても、もう一人も殺したくなかった。


 いよいよぼやける視界に男の腕が赤く光ったような幻覚を感じながら引き金を引く。


 グスンと湿気った火薬の手応えを感じた瞬間、俺は後ろに吹き飛ばされる。


 凄まじい轟音と衝撃波が浜辺の砂どころか海の水さえ振動させ、男の足元に着弾した弾丸……ただの旧式ピストルの弾によって砂が3mを越える高さまで巻き上げられた。


「「「うぎゃあああ!」」」


 一人の男は陸の方に吹き飛ばされ、草むらに突っ込む。


  もう一人は海の方に飛ばされ、数メートル冲に落下して派手な水しぶきをあげた。

 

 肝心のリーダーの男は悲鳴をあげながら浜辺を何十回も転がり、流木で頭を打ってから砂に顔を突っ込んで動かなくなった。


「えぇ……ただの単発銃だよ」


 大砲でも担いで発射したような衝撃に腕がしびれて動かない。

長く漂流して火薬が湿気っていなければ腕ごとなくなっていたのかもしれない。


「ボルノフ様! ありゃ土魔法の魔道具ですぜ! しかもとんでもない威力だ!」

 

 焦る男達の声を聞きながら飢えと渇きで限界だった意識が遠のいていく。

音は聞こえているものの言語として理解できない。


「早くボルノフ様の魔法でやっちゃって下さい! 次が来たら今度こそやばいですぜ!」

 

 そういえばここが全く別の大陸、あるいは島だとするなら。


「え、ま、にげ……引き上げだ! すぐに逃げ上げるぞ!」


 どうして言葉が理解できるのだろうか。


「ふふーん、ふんふん、ふんふふふーん♪ ってなんだこの穴! 焦げ臭っ! まさか「制約」に触れた!? って人が死んで……まだ息があったか。おっと割と好みの顔……」


 意識を失う直前に感じたのはギャアギャア騒ぐ女の声。

優しく……いや割と大雑把に襟首掴んで引きずられる感覚。

そして握りしめた勲章の感触だった

コミック版と少々違う部分があるかもしれませんがご容赦下さい!


誤字脱字などありましたら、ご指摘頂けると幸いです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ