表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

"あなたは甘い恋♡と苦い恋♡どちらを選ぶ?〜ビッターバター王国物語〜"とかいうふざけたタイトルの乙女ゲームの断罪シーンを夢に見たので王子を引っ叩いたら夢じゃなかった

作者: 水瀬月/月


"あなたは甘い恋と苦い恋♡どちらを選ぶ?〜ビッターバター王国物語〜"



とかいう変なタイトルの乙女ゲームがあった。

友人に強く勧められて、一応最後までプレイしたけれど。

甘いと苦い、どちらを選ぶ?とかいってるけど、

甘い要素なんてあったかな。

なんかもうただの育成ゲームだったような。

乙女ゲームならキスの一つでもしなさいよ!


なんて大学の講義中に考えていただけなのに。


はて、なぜ私はこんなところにいるのだろうか?


どこかのダンスパーティー会場にでも紛れ込んでしまったかのようだ。

周りを見れば女の子たちはみんな派手なドレスを着ている。

うわ、髪色も瞳の色も派手ですね。


え、ピンクとか染めるの大変そう……。

わざわざみんなカラコンまで入れてるの!?


そんな派手な女の子たちは私の方を見て嘲笑っている。


なんだなんだ?

感じ悪いわね?


「ほら見て、ラテ令嬢ったら殿下にエスコートしてもらえなかったみたいよ」


「会場に一人で来るとか恥ずかしくないのかしら?」


「私だったら恥ずかしくてとても無理だわ〜」


おやおや?

それって私のことかしら?

喧嘩なら買うわよ?


私はあなたたちのことを知らないのに、私のことをよくご存知のようね?


で、私って誰なの?

おっかしいなぁ、さっきまで大学で授業を受けていたはずなんだけれど。


あ、そうか夢か。

これは夢ね!


でなければこんな派手なドレスを着てこんなところにいるわけないものね!

ほら、それに私はこんな髪色してないよ?

手で髪を触るとそこには見事な金髪が。

今時ここまで真っ金髪ってなかなかいないよ?


というよりこれ長すぎよ。

邪魔だわ。


突然会場がざわざわと騒がしくなった。

みなが同じ方向を見ている。


「ビッターバター王国の第一王子ユイール殿下、並びにオー男爵令嬢のご入場です!」


ビッターバター。

今ビッターバターって言った?


あのふざけたゲームの王国の名前じゃない。

しかもユイールにオー?

ゲームと一緒の名前だわ。


それより、二人の名前ってただの油と水じゃない。

相性悪いじゃん。

いいの?すぐ別れるかもよ?


うん、これ絶対夢だわ。

だってゲームの中とかありえないもの。


なんて考えていたらいつの間にか王子と男爵令嬢が目の前まできていた。


「ラテ!よく逃げずにきたな。それだけは褒めてやろう」


王子が私に向かってびしっと指をさす。

人に指をむけてはいけませんよ。


「私は真実の愛を見つけたのだ!よって、今日ここで貴様との婚約を破棄する!」


「はぁ、そうですか」


私の返事に王子はポカーンとした。

あー、この場面って悪役令嬢の断罪シーンだっけ?

目の前で言われるとなんか腹が立つわね。


「うぐっ。そうですか、ではない!貴様のこれまでの数々の……」


「悪行をここで暴く!とか言うんですか?」


王子が話している途中だったけれど最後まで聞くのは面倒なので先に言ってあげる。

私、優しい。


「私の言うことが分かったということは自ら罪を認めるということだな!?」


王子はなぜかドヤ顔だ。

せっかくのイケメンが台無しではないか!


このゲームの王子ってこんな性格だったっけ。

違うよね、だって人気投票で一番人気だったはずだもの。

友人が推していたから覚えてる。


そんな王子たちの周りを見れば、ゲームの他の攻略者たちが私を睨みつけながら立っていた。


やだ、弟くんまでいるじゃない!

そんなゴミを見るような目で見ないで!


「罪を認めるんだな!?」


えー、面倒だな。

これって、今から断罪されるんでしょ?


私がやっていないと言っても冤罪確定なやつではないですか。


証拠なんてなくて、男爵令嬢の勇気ある証言こそが証拠だ〜!とか言うんでしょ?


この場面だって、もっとかっこよく王子が悪役令嬢を断罪するシーンだったはずなのに。

なぜかゲームとは違う王子のアホっぽさにしらけてしまう。


そもそも夢なんだからゲーム通りにしなくてもいいよね?


私を……じゃなかった。

悪役令嬢を陥れる男爵令嬢を一発ぐらい殴ってもいいような気がしてきた。

いや、そうするべきだわ!


だってここは夢の中。

ゲームの中のバッドエンドではいつも処刑されてしまったかわいそうなラテ。

今ここで私があなたの恨みを晴らしてあげてもいいんじゃないかしら?


男爵令嬢を見て狙いを定める。


あれ、なんか。

オー令嬢、迷惑そうな表情をしていらっしゃる?


王子がさりげなくオー令嬢の腰に手を回すと、その手をパシッと払い除けた。

しかもため息をついている。


あらら?

ゲームでのヒロインのイメージとはだいぶ違うね!?


あれでもちょっと待てよ。

これってどのルートだ?

ゲームをプレイする上で、3人の中からヒロインを選択できた。


「さぁ、みんなの前で話してもらえるかい?」


オー令嬢はさらに嫌そうな表情になった。

まさにゴミを見る目。


先ほど弟くんが私に向けていた目と同じだわ!


「殿下、何度も申し上げておりますが私はラテ様に意地悪など……」


「あああぁ!かわいそうにぃぃ!」


おい王子、人の話最後まで聞きな?

オー令嬢きれそうですよ?


このやりとり最後まで見なきゃダメ?

よし、やろう。

今すぐやろう。


私は一歩を踏み出した。

王子の目の前に立つ。


「な、なんだ!?」


私は右手に思いっきり力を込めて王子の頬をスパーン!と叩いた。

私の手も若干痛い。

いい角度ではいったようで、叩いたときの音がとても大きく会場内に響いた。


王子はその勢いで床に倒れ込む。

突然の私の行動に周りの理解が追いつかないのか、会場内はシーンとした。


ハッと気付いた王子の側近が急いで駆け寄る。


王子の頬は真っ赤になっていた。

おぉ、けっこう痛そう。


「き、貴様!オー令嬢だけではなく王子にまで手をあげるとは!」


側近は剣を抜いた。


わっ。


いくら夢でも剣で切られたくない。

さて、どうしようか。


「待て」


側近を止めたのは王子だった。


「しかし殿下!これはあきらかな王室侮辱、王族暴行、反逆にあたります!」


「待てと言っているだろう」


王子の声が、話し方が先ほどまでとはまるで違った。

王子が立ち上がった。

その顔はなぜか晴々としていて憑物が落ちたかのようにも見えた。


なぜか男爵令嬢も目を輝かせているではないか。


「ラテ嬢」


王子が私を真っ直ぐに見る。


「え、はい、なんでしょう……」


「もう一度……」


「もう一度……?」


「私を殴ってはくれないだろうか」


はぁ!?

え、何、王子ってもしかしてそういうご趣味の方でしたか!?


えー!驚き!

ゲームではそんなシーンなかったんだけどなぁ!?


「いや、勘違いをさせてすまない。けれどどうかお願いできないだろうか。これはとても重要なことだ」


なぜか王子の表情は真面目だ。


「ラテ様!どうかお願いします!本当にお願いします!王子を殴ってください!」


そしてオー令嬢は必死だ。

かなり必死なご様子ではないか。

王子を殴れとはすごいことを言いよる。


そうね、ここまで頼まれたのなら仕方がないわね。

いいわよ、どうせ夢だから。

王子殴れる機会とかもうなさそうだし。

頼まれたから仕方なくだからね。


「では殿下。もう一発、綺麗にキメさせていただきます!」


そうして私はもう一度思いっきり叩いた。

スパーン!と大きな音がまた会場内に響いた。


さすがに二度も平手打ちをしたせいか、か弱い私の手のひらは痛い。


「貴様!気でも狂ったのか!」


側近が剣を私に向けてくる。

いや、二度目は王子の頼みだってば!

あなた目の前で見ていたでしょう!

止めなかったくせに!


「剣をしまってくださる?危ないじゃない」


いくら夢だって切られたくはない。

痛くないとはいえ……。


あれ。

なんかおかしいぞ。


私さっきなんて思った?

か弱い私のてのひらが痛い……って。


うん、私の右手……痛いね?


おっかしいなー。

夢なのになんで痛いんだろうか。

自分で自分の頬を叩いてみた。


オー令嬢と王子は驚いている。


「痛い!?」


痛いじゃない!

夢なのに!


「なんで!?どうして!?」


一人で騒いでいる私を、オー令嬢と王子以外の人たちはやばい人を見る目で見てくる。


「ラテ嬢、どうかこの者たちも叩いて……いや、思いっきり殴ってはくれないだろうか」


王子まで狂ってしまったようだ。

側近たちを殴れだなんて!


側近達はかなり驚いているようで「え、殿下……?」と動揺している。


「殿下、すみません!ちょっとお待ちを!」


どうしよう、どうしよう!

どうして痛いの!?


これって夢じゃなかったの!?

夢じゃなかったらなんだというの!?


私はパニック状態だ。


「ラテ様?どうされましたか?大丈夫ですか?顔色がよくないです……」


オー令嬢はその可愛らしい顔で心配そうに覗き込んできた。


「え、あぁ、はい。大丈夫、ではないですが……はは」


「ラテ。すまないが今すぐお願いしたい。お前たち、一列に並びなさい」


王子は側近たちに一列に並ぶよう命じる。

命令なので逆らえるわけもなく、側近たちは大人しく並ぶ。


「ではラテ嬢、おもいっきり、遠慮なくいってくれ」


ねぇ、これほんとなに?

目の前に一列に並ばされている貴族の令息たち。

いや、攻略者たち。

異様な光景だわ。


私も王子の命令だから仕方なく殴るんだからね?

恨まないでよ?


あ、でも殴るのは私の手が痛くなるのからまた平手打ちだからそこまでびくびくしなくても大丈夫よ?

ちょっと、未来の騎士団団長がそんなびびらないでよ!

弟に至っては震える子犬に見える。

ごめんよ、弟よ。


君との思い出はないから遠慮なくいけてしまう姉を許しておくれ。


そうして私は遠慮なくそこに並んだ攻略対象達を平手打ちしていった。


スパーン!


スパーン!


スパ……

あ、ずれちゃった。ごめん、もう一回。

スパーン!


スパーン!


スパーン!


合計5人。

攻略対象をこんな形で攻略することになるとは。


叩かれた5人は呆然としている。


そして顔を上げると……。

王子と同じように晴々とした表情をしていた。

一体なんだったのかしら?


「私はいったい……」


「俺としたことがまさか」


「ラテ嬢ひどい!どうして俺は2回も!?」


「姉さん……」


「すまない!ラテ嬢!」


なんだなんだ。

みなさんいったい何があったのです?

こんなことゲームにはなかったじゃない。


「殿下、理由を聞いてもいいですか?」


「あぁ、実は……俺たちはどうやら魅了の魔法にかかってしまっていたらしい」


「あぁ、そうですか」


なんだ、そんなことか。

そんなのよくある話じゃない。


ヒロインが攻略対象達を魅了してしまうあれですね。

よくある話……がこのゲームにもあったかしら?


"ヒロインは皆を惹きつける魅力がある"


この設定が魅了の魔法なのだろうか。

チラリとオー令嬢を見る。

オー令嬢は正気に戻った攻略対象達を見てホッとした表情をしている。

どうやらオー令嬢がかけた魔法ではないらしい。


では誰が……?


「ありがとうございました、聖女様!やはり、ラテ様が本当の聖女様だったのですね。私、もう本当に嫌で嫌で……!」


いや、オー令嬢……今なんて……。

聖女?私が?


はっ。

もしかして私の右手ってゴッドハンド?

聖女の力で浄化してしまった?


でも違うからね、それ絶対違うから。

そんな設定なかったからね。


オー令嬢はきらきらと目を輝かせながら私をみる。


ごめん、今のは聞かなかったことにするわ。


「ラテ嬢、婚約破棄されたのならぜひ私の国へ来てはもらえ……ぐはっ」


「今誰か何か言いました?」


「うふふ。何も言っていませんよ、ラテ様」


オー令嬢はにっこりと笑って右手を後ろへ隠した。

オー令嬢の右手は誰かを思いっきり殴り飛ばして少し赤くなっているのを王子は見てしまい若干引いた。


「ラテ、すまない。婚約破棄のことだが……」


「あ、殿下。殿下の方から婚約破棄を申し出てくれて非常に助かりました。これでもう私たちは他人です」


にっこりと殿下へ微笑んであげる。

王子が婚約者とか面倒でしかないですからね。


いつ夢が覚めるのか分からないからできるだけ自由でいたい!


「いや、そういうわけには……。ラテ、君が聖女だとわかった今、なおさら婚約」


「まぁ〜〜!殿下、先ほど皆の前で言ったことをもうお忘れですか?愛する人を見つけたと言ったではありませんか」


私はわざとらしく大きな声で言った。

周りの人たちにも聞こえるように。

みながうんうん、と頷いている。


「いや、だからそれは魅了に……」


「えぇ、私も聞きましたわ。殿下の愛する人が"誰なのか"は知りませんが、婚約破棄すると確かに言いましたわ」


オー令嬢、その愛する人とはあなたのことでは?

あ、でも愛する人がオー令嬢とは一言も言っていないか。

オー令嬢はうふふ、と笑っている。

うわー、オー令嬢絶対二重人格だわ。


「私のラテ様にこんなひどいことをするなんて……いったいどなたかしら?ねぇ、殿下。犯人を探すべきだと思いません?」


「え?あぁ、そうだ、な……?」


殿下はオー令嬢に押され気味だ。


「いえ、結構です。私は気にしていませんし。それよりもう帰っていいですか?」


もういいよね?

帰りたい。

ここからさらに犯人探しとか面倒くさい。


もういいじゃない、解決解決!

めでたしめでたし!


「あ、弟くん。家まで案内してもらえるかしら?」


だってどこに家があるのか知らないから!


「お、弟くん……?姉さん、その呼び方はあんまりです……。やはり、僕のこと怒っているのですね……」


弟くんはしょぼんとしてしまった。

大丈夫、怒ってないから。

だって君に何されたのかも知らないし!


「さぁ、帰ろうか」


弟くんの手を握って会場のドアへと向かう。


「では私は護衛を……」


先ほど私に剣を向けた未来の騎士団長。


「いえ、結構です。信頼していませんので」


私の言葉にショックを受けた未来の騎士団長は膝から崩れ落ちる。

弟くんを引っ張ってすたすた歩く私に後ろから声がかけられるけど無視して歩く。


「ラテ様、待ってください」


「ラテ、どうかもう一度話を」


「ラテ嬢、どうか今までのことは」


私と弟くんを避けるように会場にいた人たちは道を開ける。

まだ後ろから何か言ってるけれどそんなことは今はどうでいい。


今一番私が気にしていることってなんだと思う?


弟くんの手をぎゅっと握る。

繋いでいる手からは温もりを感じる。

どう考えても、リアルな感触に感じる温かさ。


もうここまできたら夢なんかではないと分かる。





"私はどうしたら元の世界に戻れるのか!?"







これはまだ序章。

今日の出来事はラテ嬢にとってプロローグでしかないことをもちろん誰も知らない。



ー完ー


お読みくださりありがとうございました!

もしよければ評価、ブックマークを押していただけると嬉しいです。

励みになっております。


他にも連載している小説があります。


・誰にも愛されずに死んだ侯爵令嬢は一度だけ時間を遡る


・(仮)国境越えたら公爵家の家族ができました


こらちの小説もぜひよろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
面白すぎてずっと笑い続けながら読んでました。 平手打ち最高すぎる⋯⋯⋯。 『王子ってもしかしてそういうご趣味の方でした』っていうラテさんの中の大学生さんの心の底からの呟きで抑えていた笑いにトドメを刺さ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ